第3の村
「う・・・過酷。あと明日一日歩けば村に辿り着けるハズなのに・・・」
私たちはコボルトとの戦闘後は街道だけを歩き、街道から外れるのはログインアウトポイントに行く時だけと言う安全策でやっていたが、街道でも魔物は現れ、街道を逸れログアウトポイントに行くまでの僅かな間にも魔物と遭遇し戦闘になる事が多かった。
しかも大橋を渡ってからは犬頭のコボルトだけじゃなくやフクロウ頭の小人型の魔物など人型の、一言で言えば小賢しい魔物が多く、パーティ対パーティでの戦術勝負で劣勢に立たされる事が多かった。
「戦ってる最中に別働隊が横から奇襲仕掛けてくるとか戦い方が卑怯なのよ。魔物なら正々堂々と正面から力押しで来いって思うわ!!」
「正面の人数が少ない時は別働隊が居ると思った方が良いねぇ。別働隊が仕掛けてくる前に速攻で正面の部隊を倒しちゃうとか方法を考えないと」
「そもそもさ。今の私たちのレベルとここの推奨レベルが合ってない気がするんだけど」
「エリザ、それを言ってもしょうがないでしょ?私たちがやってるのは、夏休みの最後の思い出に第3の村に辿り着くってチャレンジなんだから」
何とかログアウトポイントに辿り着いた私たちは保存食を食べながら毎回恒例となった愚痴大会に花を咲かせている。
「あ、2人とも見て!!光魔法と闇魔法がレベル30になったからスキル変化させてみた」
ヒルデを見るとヒルデのまわりを野球のボールぐらいの大きさの白い光の球と黒い煙のような球が1つづつ浮かんでる。
「なにそれ?」
「【精霊(光)】と【精霊(闇)】よ?統合して【明暗魔法】ってのにも出来たんだけど、きっとエリザの精霊魔法みたいに連射出来なくなるんだと思ったから、精霊の方にしてみた」
「へぇそれが精霊なんだ。って、ヒルデ・・・この状況でスキルを変化させて弱くなるってどう言う事?」
「そうだよねぇ。これでヒルデは光魔法と闇魔法のレベル30分のステータス上昇を失ったんだよねぇ」
「えっ?い、いやだってレベル30のままにしてたら経験値損するじゃない?」
言い訳を始めるヒルデ。
「私たちは従魔を出してる分だけ、経験値効率が落ちてるんだけど?1番経験値的に得してるのヒルデだよね?」
「そうだよヒルデ。あと一日で村に着くのにそれすら待てないって、ちょっとねぇ・・・」
「待って。待ってよ?経験値は私たちで等しく3等分だし、シエロやアインやラメドが強くなってるんだからそこは平等でしょ?」
「良いからとりあえず謝って」
「ごめんなさい。つい欲望に負けました」
素直にヒルデが謝る。
「よし許す」
「まったく私なんて新しく取った魔法を殆ど試せないで居るのに」
サンドラがボヤく。
「いや、それはこんな時に取ったサンドラが悪いんじゃない?」
「私もそう思う」
「えぇ・・・今度は矛先が私に向くの~!!」
ログアウトポイントに野営して翌日、最後の移動を開始する。
順調に行けば今日の昼過ぎには第3の村に到着出来るはず。
街道に出るまでの道のりで早速1回戦闘をこなし街道に出る。
「よし、あとは歩くだけで第3の村だね」
「街道にさえ出てしまえばあとは着いたも同然だよ!!」
「ヒルデ、フラグを立てるの止めて!!」
しかしそんなヒルデのフラグは立つ事が無く順調に進む。
村を拠点にしてるプレーヤーのパーティや第2の街へ向かう馬車ともすれ違う。
「ねぇエリザ?私が言った通りでしょ?村の近くは他のパーティが行動してるんだから他のパーティに討伐されてて比較的に魔物とは遭遇し難いんだよ?」
「はいはい私が間違っておりました。ヒルデ様の仰る通りでございました」
「これで村の入口の一歩手前で魔物に襲われて私たちが死に戻ったら、エリザとヒルデの立場がどう入れ替わるのかちょっと気になる(笑)」
「馬鹿な事を言ってないで急ぐよ?」
私たちは魔物に襲われ全滅する事なくすんなりと第3の村に到着した。
「やった!!到着!!」
「どうする?3人並んで手を繋いで一緒に村に入る?」
「やらないよ?他の人の迷惑になるでしょ?」
石を詰んで作られた壁の内側に木造の平屋や二階建ての建物が道の左右に20軒ぐらい並んでいる。
この通りが村のメインストリートなのだろう。
門をくぐった直ぐの所に冒険者ギルドや商業ギルドの看板を掲げる建物もあった。
「ねぇ、着いたのは良いけどどうする?」
「あ・・・来るのが目的だったからねぇ。村の中を観光する?何か買って行って王都で売れば利益出るかも?」
「じゃ、とりあえず冒険者ギルドで魔物のドロップアイテム売っちゃう?」
冒険者ギルドの建物は王都や第2の街と比べるとこじんまりとしていた。
受付のカウンターも少なく、クエスト受付、買い取り受付、その他受付の3カ所しか無く、プレーヤーも殆ど居なかった。
買い取りカウンターに行きドロップアイテムを買い取って貰うと結構な金額になった。
イベントの時に[日陰屋]で今の装備に更新して以降、装備を更新する予定も無いから溜まる一方だ。
ここまでくると宿屋の料金など楽に捻出が出来るのでもう馬小屋宿泊に怯える事は無くなった。良い事だ。
そんなよい気分で冒険者ギルドを出ると突然声を掛けられた。
「あの・・・異界人の冒険者の方々ですか?」
「はい?」
声のする方を見ると、いかにもと言う感じのお爺ちゃんとお婆ちゃん、それにおじさんとおばさんの4人が立っていた。
「えっと私たちに何か用事ですか?」
サンドラが対応する。
「突然声をお掛けて済みません。かなり腕の立つ冒険者の方々とお見受けしたもので声を掛けさせて貰いました」
おじさんが話をしてくる。
やけに物腰が柔らかい感じがする。
「いえ、そこまで強くは無いですよ?ここに来るのもやっとの事で来ましたから」
「いえいえ徒歩でこの村に来れるだけで十分腕の立つ冒険者の方だと思います」
「はぁ。そうですか?」
「その冒険者さんを見込んでお願いがあるんです」
うわ?何か突然始まったぞ?
ボス討伐のユニーククエストか?
いや、このエリアでボス討伐とか私たちのレベルでは無理だよ?
英雄願望のヒルデが勝手に受けないよう手綱を握って置かないと。
「えっと、何でしょうか?」
「いえ、実は私たちの息子が王都に出てまして、そこで結婚して家庭を持って居るのですが、その息子から手紙が届きまして。その手紙に郊外に家を建てたからオヤジやオフクロや爺ちゃん婆ちゃんも王都で一緒に暮らそうと書いてあったんです」
んっ?なんだこの展開?
王都まで乗合馬車の護衛をしてってクエストかな?
「それで私たちは折角の息子の誘いなので王都に移住する事にしたんです」
ほらきた。
護衛クエストか。
「それで私たちが住んでた土地と家を誰かに買って貰えないかと買い手を探して居るんです」
「はい?」
「息子は手ぶらで着の身着のままで来てくれれば良いと言ってくれたんですけどね。息子からお小遣いを貰って王都で隠居するのは心苦しので、売れる物は売ってまとまったお金が欲しいんです」
「曾孫にお菓子やオモチャとか買ってあげたいしのぅ・・・」
お婆ちゃんが曾孫を思い浮かべたのかニコリと笑う。
「どうですか?中古の家と土地を買って貰えませんか?」
「私たちがですか!?」
つい大きな声で聞き返してしまう。
「えっと・・・私たちそんなにお金は持ってないので家を買う程の余裕は無いんですよ」
サンドラがやんわりと断る。
「ところでどのくらいの家の大きさで値段は幾らなんですか?」
今まで黙っていたヒルデが質問する。
「家は平屋ですが家族5人で住んで丁度いい広さぐらいです。土地は先祖代々受け継いできた土地なのでこの建物からあっちのあの建物ぐらいまで、横幅はそっちのあの建物までの広さぐらいですね。庭を使って家庭菜園をやってました」
おじさんが言った広さはちょっと異常な広さだった。
サッカーや野球が余裕を持って出来るぐらいの広さだ。
「えっ!?そんなに広いんですか?」
「えぇまぁここは王都と違って土地は安いですからね。ただこの村の中心部からは少し外れにあるので使い勝手としては悪いですけどね。静かで良い家ですよ?」
「そ、それで幾らで売る予定なんですか?」
「こんな辺境の村の外れにある家ですから500万マニぐらいになれば良いかなと考えてます」
「ご、500万マニ!?」
「ちょっとお父さん!!そんなに欲張っては売れる物も売れなくなりますよ!!私としては400万マニぐらいなれば良いのかなと思っているんです」
おばさんが語る。
400万マニ・・・。
「す、すいません。ちょっと3人で相談させて貰って良いですか?」