地下の魔物
「ん・・・ちょっと事情が変わったかも」
サンドラが呟く。
道なりに地下道を進むと目の前には蜜柑箱くらいの大きさの異形の魔物がいた。
「これ・・・なに?キモっ」
「エリザ、スズムシも見た事ないの?そんな事じゃ田舎者を名乗れないよ?」
「私だってスズムシぐらいは見た事あるよ?でもスズムシをじっくり観察した事ってなくない?と言うか虫って巨大化させただけで結構グロいよね?」
「この世の生物じゃないって感じするよねぇ。宇宙生物と言われても納得するかも・・・よいっしょ!!」
突然、サンドラが手斧をスズムシに向かって投げ付ける。
手斧はスズムシに命中するがスズムシのHPを削りきり光へと変える程ではなかった。
「ちょっとサンドラいきなり何してるの!!」
ヒルデが抗議の声を上げる。
スズムシは突然の攻撃に驚き素早く動き・・・羽根を擦り合わせる。
あたりに響く騒音。
耳鳴りの様な音を受け目眩がする。
STバーがジリジリと削られてる。
「こんの・・・!!」
「ソイルショット!!」
「ウインドショット!!」
魔法を乱射するが素早い動きで躱される。
しかし動いてる間は羽根をすりあわせて鳴けないようだ。
ヒルデがスズムシの行き先を予測して片手剣を振り下ろした。
「っ、硬い!!」
「当たり前でしょ!!関節を狙って突かないと!!甲殻類舐めてんの!!」
私は【魔力操作】を使い棍の先にファイアボールを纏わせ、そのままスズムシに向かって叩き付ける。
スズムシの動きが止まる。
「サンドラ!!」
「任せて!!兜割り!!」
サンドラの片手斧がスズムシの頭にめり込み、スズムシは光となって消える。
「ヒルデ、ちゃんと相手の特徴を考えて攻撃しないと駄目だよ?」
サンドラがヒルデを注意する。
「いやいやいや、サンドラがいきなり攻撃し駆けるのが悪いんだからね?独断専行は罪だよ?」
「何言ってるの?先制攻撃出来るチャンスは逃しちゃ駄目なんだよ?チャンスの神様は前髪しか無いんだから、しっかり掴んで毟らないと」
「サンドラの行動は魔物の虚を突くだけじゃなく味方の虚も突いてるのよ?ちゃんと声を掛けないと」
「そうだよ?一声あれば連携して追撃できるんだから、鳴き声を食らう事は無かったんだよ?」
ヒルデを援護するように私もサンドラを注意する。
「ねぇ、そんな事よりもこれマズいと思わない?」
形勢が不利だと感じたのかサンドラが急に話を変える。
「いや、マズいのは貴方の行動だから」
「ちょっと聞いて。ここに魔物が出現するって事はさ子供達はこの地下道で迷子になってるって事じゃなく、魔物に襲われたって可能性が出て来たって事だよ?」
サンドラの指摘にハッとする。
「急がないとね。でもさっきのスズムシもサンドラが攻撃を仕掛けるまではこっちに攻撃して来なかったからね?もしかしたら無害な魔物の可能性もあると思うよ?」
ヒルデが冷静に考察する。
「それってノンアクティブって事?」
「そう。次に見つけた時に攻撃しないで近付いて見よう」
更に地下道を足早に探索する。
道が二股に分かれてたり十字路になってたり昇降の傾斜になってたりして手間取る。
「ん・・・居ないね」
「ここで考えないとダメなのは子供の思考なのよ。子供ならどう考えるか?魔物に追われたとしてずっと逃げ回る?何処か隠れられる所を探す?」
「昨日の夜からずっと逃げ回って奥まで逃げてたとしたら厄介よねぇ・・・」
「子供の体力で何時間も逃げ回るって無理じゃない?疲れるだろうし眠くなるだろうし」
「と言う事は近場で隠れそうな場所を探せば・・・ねぇエリザ、マッピングした中で行き止まり、袋小路になってそうな場所はある?」
「ん・・・ちょーっと待ってね・・・袋小路、行き止まりと・・・」
地図を見るとまだ進んで無い場所で怪しい場所が何ヶ所かある。
ただそこが行き止まりなのか、そこから上が下に傾斜が付いてるのか判断付かない。
「ちょっと私にも見せてよ」
ヒルデが横から地図を覗いてくる。
「・・・ちょっと、これ本当に地図なの?全く何書いてあるか理解出来ないんだけど?」
「ヒルデは・・・ほら、地図の読めない女だからしょうがないんじゃない?私にはしっかり分かるもの」
「エリザ、私もよく分からないから何処が怪しいか教えてよ?」
「今いるのがここね。それで近くで怪しいのはココかココなんだけど、そもそも行き止まりに子供達が居るってのが根拠の薄い妄想だから・・・」
「でも、闇雲に奥に進むよりは近場のマップを全て埋めるって方法には賛成でしょ?」
「ん・・・確かにね」
私達は近くの袋小路であるらしい場所に向かった。
道中、スズムシに出会うがこちらから攻撃を仕掛けずにゆっくりスズムシから離れた壁際を通る事で素通り出来た。
「やっぱりさっきのはサンドラが悪かったね」
「う~ごめんなさい」
「反省だけならサンドラでも出来るか~」
「ひどい!!」
「ここだよ。行き止まりらしき場所は。カルロ!!ネネ!!いるの!!」
「見当たらないねぇ。カルロくん!!ネネちゃん!!」
「他のパーティが既にここを確認してたり、既に助け出した可能性は?」
「ん・・・どうだろう?フレンドコード交換しとけば良かったね」
「次の所を探そう」
来た道を戻り次の袋小路がありそうな場所へ向かう。
すると向こう側から足音が聞こえる。
「あっ!!」
向こう側から子供が2人手を繋いで歩いて来た。
「カルロ!?ネネ!?」
「エリザ!?」
「あんたらこんな処で何やってるの?」
2人は私達と合流して気が抜けたのか軽く涙目になってる。
「あのね、私の帽子が急な風でね、橋の上で飛ばされちゃって川に落ちちゃって急いで追い掛けたんだけど、そしたら穴があったから中を見てみようと入ってみたら迷っちゃって・・・」
とうとうネネちゃんは我慢出来なくなって泣き出してしまった。
「さっき、僕たち2人の名前を呼ぶ声が聞こえたから声のする方に来たら3人が居た」
カルロは自分の失敗が恥ずかしいのかちょっとふて腐れてながらもネネちゃんが説明した続きを説明してくれた。
「よし、それじゃ戻ろう。マークが必死に探し回ってたんだからね。ちゃんと御礼言うんだよ?」
「2人のお父さんやお母さんとか近所の人も必死に探してくれてるんだからね?しっかり叱られなよ?」
ヒルデがこの後に叱られると言う事を告げると2人は複雑そうな顔をする。
「ちょっとヒルデ、余計な事は言わないの。怒られるの嫌だからと奥に逃げ出したらどうするの?」
サンドラがヒルデを叱る。
帰りは地図があるから迷う事も無くすんなり帰れる。
途中で別の捜索パーティとも合流して出口へと向かう。
だけど、もうすぐ出口と言う所で喧騒が聞こえてきた。
「これって・・・入り口付近で戦闘してるの?」
「ねぇヒルデ、ちょっと先に言って様子を見てきて」
「ちょっとサンドラ、なんで私なの?・・・って私か。行ってくる」
盾役のサンドラと後衛の私よりはヒルデの方が斥候向きなのヒルデも理解したのだのう。文句を言い掛けるも素直に様子を見に行く。
「駄目!!この先の少し広くなってる十字路の所で複数パーティーが戦闘してる!!戦闘状態になってるスズムシがいっぱいとデッカいカマドウマがいる!!回避して出口に向かうのは無理っぽい!!」
「ん・・・どうする?」
「いや、どうするって戦うしかないでしょ?」
「いや、その戦い方の話だよ?」
1、直ぐに他のパーティの加勢に向かう。
2、他のパーティが魔物を倒す又は全滅するまで待ってから向かう。
3、別の出入り口までの道か、別の出入り口を探す。
4、何とか戦ってる脇をすり抜けて子供達を逃がす。
「パッと思い付くのはここら辺かなぁ・・・」
私の質問を受けてサンドラが選択肢を提示する。
「他のパーティが魔物を弱らせるまで待つって卑怯者だよね?即加勢する以外の選択肢はないでしょ?」
「ヒルデの阿呆。この狭い通路でプレーヤーが殺到したら身動き取れなくなるよ?躱せる攻撃すら躱せなくなるし、そもそも獲物の横殴りはマナー違反だよ?」
「それに子供達の安全を1番に考えないと」
「それじゃここで静観しとく?」
英雄願望のあるヒルデはちょっと不満そうに聞いてくる。
「ねぇエリザ、魔物の後を取れないかな?戦ってるプレーヤーと魔物を挟み撃ちにしたら参戦しても混雑しないと思わない?」
そうだった。
サンドラも武闘派思考だった。




