捜索
「ここのあたりだよね?マーク君が2人と分かれた場所は」
砂利が引き詰められた馬車が1台通れるぐらいの幅の細い路地。
左右には木造家屋が建ち並び、その家と家の間は人1人通れるぐらいの幅の隙間がある。
「この隙間・・・小道?に2人は入って行ったんだよね?」
「いかにもな小道だよねぇ。私も小学生の頃、こう言う獣道を通るの好きだったな・・・」
サンドラがどこかズレた事を言って感傷に浸ってる。
「いや、これ獣道じゃないでしょ?普通に路地とか小道とかだから。都会とか海外だと危ない人に絡まれる場所だよ?」
うん。ヒルデもちょっとズレてると思う。
「それじゃここから2人の家まで歩いてみよう。まわりに何か落とし物とか何か無いか探しながら歩いてね?」
小道を抜け開けた路地に出る。
道の脇は家があったり、空き地だったり、生け垣だったりと様々。
何人かNPCともすれ違う。
まわりをキョロキョロしてるNPCは私たちと同じく2人の捜索をしてるのだろうか?
更に歩くと橋が現れた。
橋の横幅は3メートルぐらいだろうか?岸から岸までは5メートルちょっとぐらい?横幅より少し長い程度。
橋の上から下を覗いて見ると水面までの距離は1メートルぐらいかな?
「橋ってこれだよね?流れも激しくないし、正直落ちても溺れないよね?これ」
「ヒルデ、そんな事は無いよ?リアルでも毎年田んぼの用水路で溺れるお年寄りとか居るんだから」
サンドラがヒルデの意見を訂正する。
「それって台風とかで増水してるか、幅が狭くて挟まったりしてでしょ?」
「ん・・・落ちた時に頭を打ってってのもあるけどね」
「だからって2人揃ってと言うのは考えられないよね?助けに入って一緒にって場所じゃないと思う」
「まぁ、可能性はゼロじゃ無いけど低いと思う」
更に道を進むと2人が分かれる分岐点となる交差点にでた。
「ココを真っ直ぐ行くとカルロ君の家で、右に曲がるとネネちゃんの家だよね?2人一緒に居なくなったのなら、この先で何かあったって事は無いよね?」
「ん・・・でも一応は歩いて見とこうよ?決め付けや思い込みは危ないし」
一応、2人家までの道を確認し来た道を戻る。
マークの冒険者ギルドの呼びかけに応じたのであろうプレーヤーも結構、辺りを捜索してるのが見える。
「おーい!!ココ!!何かあるぞ!!」
遠くで誰かが叫んでるのが聞こえた。
声のする方に捜索していたNPCとプレーヤーが駆けていくのが見える。
私たちもその後を追って駆ける。
「これ・・・なに?」
さっき見た橋の架かった川?水路?から下流に降った場所。
橋から数えて2つ下流の橋の下ののり面にポッカリ穴が空いている。
穴の大きさは直径1メートルぐらい。
子供なら身を屈めれば入れる大きさだ。
「うあ・・・露骨に怪しいね」
「そうだよねぇ。これで何も無かったらこの穴は何?って感じだよねぇ」
うん。私も2人に同意する。
問題はこの先に何があるのか?
「まさか盗賊のアジトがあって対人戦が発生とかじゃないよね?」
「ん・・・このゲーム的に第2陣も参加してるイベントで人型との斬り合いは無いと思うよ?なんか人型の魔物を避けてるよね?このゲーム」
サンドラの話を聞いて、確かに人型の魔物が居ないなと思う。
それなら盗賊との斬り合いは考えなくても大丈夫かな?
「えっ、第3の村を過ぎると人型の魔物は普通に出るみたいよ?ゴブリンとかトロールとか。掲示板に情報出てたよ?」
ヒルデがサラッとサンドラの推理を否定する。
あ、これ恥ずかしい奴だ。
「ちょっとサンドラ・・・抵当言わないでよ」
私がサンドラに追撃のクレームを入れるが、スルーされる。
「この中、ダンジョンになってるぞ!!かなり広い。あと真っ暗だから何が灯りが無いパーティーは入るの止めた方が良いぞ」
穴の中に潜って見たプレーヤーが戻ってきて報告する。
「それじゃ入りたい人は順番で入ろう。入るの順番はジャンケンで決めよう。代表者は集まってくれ」
なんか仕切ってるプレーヤーがいる。
何ものなんだろう?あの人。
「じゃ私が行ってくるから」
ヒルデが自らジャンケンしに行った。
ダンジョンが見付かってテンションが上がってるのかしら?人見知りはどうした?
少ししてヒルデが戻ってくる。
「3番だよ?まぁまぁでしょ?」
ヒルデが自画自賛してる。
ここには今プレーヤーは8パーティとソロが10人ぐらい、合計50人前後が集まっている。
これだけ人数が集まればとりあえずクエスト失敗は無いだろう。
私たちが入る順番が来てヒルデから穴に入る。
次にサンドラが潜り、最後に私が入る。
5メートルぐらい狭い穴を匍匐前進で進む。
子供の頃に空き地に積んであった土管を潜ったのを思い出す。
そしてその先は広い空間だった。
2メートルぐらいの幅で高さも2メートルぐらい、奥は真っ暗でドコまで続いてるのか分からない。
先に入ったパーティーの灯りが遠くに見える。
一本道なのかな?それとも分岐があるのか。
「どう?明るいでしょ?私に感謝してよね?」
ヒルデが光魔法のライトアップと言う光源を作り出す魔法を使ってたようだ。
バレーボールぐらいの大きさの光の球がヒルデの頭の近くに浮かんでる。
「ヒルデ、この光の球は【魔力操作】で光量調整出来る?少し眩しい」
サンドラがヒルデに注文を付けてる。
うん、確か少し眩しい。
「次の人どうぞ!!」
次のプレーヤーに入って良い事を告げて、私達は穴と言うか洞窟?ダンジョンの先に進む。
「ちょっとヒルデ、灯りを点けてる人が先頭を歩かないと駄目でしょ?」
「えー、魔物が居る可能性を考えたら壁役のサンドラが先頭でしょ普通は」
「先に入ってるパーティが居るんだから魔物なんて居る訳ないでしょ!!」
「と言うかエリザとサンドラは腰に吊すランタン持ってたでしょ?なんで使わないの!!」
初のダンジョンでテンションが上がってるのか、怖いのか無意識に声が大きくなる。
その声がダンジョンに響く。
あ、冷静に考えると他のパーティに迷惑かも。
更に進んで行くと道は十字路になっていた。
「ん・・・どうする?」
とりあえず聞いてみる。
「いや、考えるまでも無いよね?当然前の2パーティが行ってない道でしょ?」
真っ直ぐと右手の道の先には灯りが見えるから先行してるパーティが進んでるのが分かる。
つまり私達が行くのは左側の道。
子供達を探してるのだから、2人を見つける為にこのダンジョンのマップを全て埋める必要がある。
・・・あ、ヤバい。
マッピングしてなかった。
こっそり【収納】から紙とペンを出してマッピングを開始する。
「あっエリザ、マッピング忘れてたでしょ!!」
ヒルデに見付かった。
「いやいや、2人もマッピングする必要性を忘れてたよね?私が書き始めて思い出したでしょ?」
逆に2人を非難してみる。
「エリザ・・・ちゃんとやってよ?子供達を見付けても帰り道が分からなくなって、そのまま遭難したら他のパーティから指差されて笑われるよ?」
駄目だった。
2対1では上手く話を変えられなかった。
「大丈夫だって。さっきの十字路からしっかり書いてるから」
「ねぇ、この道って緩やかに下り坂になってるのは把握してる?」
「ん・・・下り坂ってどうやって地図に書き込むんだっけ?」
「あ、急に不安になってきた」
「食糧を買い込んで置けば良かったね」
「大丈夫だって。正規な書き方が分からなくても私が見て分かれば良いんだから」
私は弁明するがヒルデとサンドラは私を白い目で見る。
「エリザ、それ駄目な人が言うセリフよ?」