肩透かし
「エリザさん達は大丈夫でしたか?私たちは墓石の最初の爆発でパーティの1人がやられてしまいましたよ・・・」
大師坊さんがなぜがフレンドリーに私に話し掛けてくる。
馬車で1回一緒に成って話しただけなんだけどな・・・。
社交的な人はグイグイくるな。
「はい。私は爆発した墓石の欠片を1発被弾したんですが何とか助かりました」
「このエリアを受け持ってたパーティはヒーラーが爆発でやられてしまってそれで回復が出来ずに全滅したみたいですよ。さっきメッセージが届きました」
大師坊さん、身体が大きく熊みたいなのに噂好きのおばさんの様に感じる。
「それは不運でしたね。回復役が居なくなったらジリ貧ですものね」
「そうですね。野良パーティなら個々人でそれぞれ回復方法を持ってますけど、役割分担がハッキリしてるパーティほど立て直しが難しくなりますから」
ヒルデとサンドラは少し離れた位置から大師坊さんと話す私を見てる。
いや、あんた達も話に混ざるか私を呼んでこの場から救出しなさいよ。
「あっ、そう言えばあの人たちは何をしてるんですか?」
墓地に屈んで草を取ってるプレーヤーを指差して聞いてみる。
「あぁ、あれは採取ですね。この墓地には珍しい薬草が生えてるらしく休憩時間に採取してるんですよ」
「あっちは何ですか?」
砕けた墓石を拾い集めてるプレーヤーの事も聞いてみる。
「あっちは採掘スキルをセットしてると爆発した墓石の一部に魔石が混じってるのでそれを集めてるらしいです。どちらも良い稼ぎになるみたいですよ」
なんだって・・・。
つまり換金アイテムが落ちてるって事か。
言い換えればお金が落ちてるようなもんだ。
採取や採掘スキルを持ってればそんな恩恵が・・・。
あ、もしかしたらミミズと戦った牧場でも何か採れたのかも?
いや、あそこは私有地だから勝手には採ったらマズいか。
んっ?墓地は私有地じゃないのかな?・・・まいっか。
「それよりエリザさん達は強いですね。たった3人で1つのエリア殲滅したんですから」
「いえ、たまたま持ってるスキルの相性が良かったんですよ。私は範囲魔法を使えますし、あっちの仲間の2人は遠距離物理攻撃を持ってたので」
やけに褒めてくる大師坊さん相手に無難な受け答えをしてるとサンドラが声を掛けてくる。
「『回転木馬』の時雨さんからメッセージが届いたよ。こっちに来て合流して欲しいって」
墓地の奥側を討伐してた私たちは、墓地の手前側を討伐してたパーティ『回転木馬』の元に向かい合流した。
「皆さんお疲れさまでした。これで墓地の討伐戦は終わりだと思います。2パーティと何人かの被害は出てしまいましたが報酬は当初の取り決め通りとなります。本日は協力ありがとうございました」
時雨さんの挨拶を受けて解散となった。
これは本当に『回転木馬』が受けたイベントのユニーククエストの手伝いだったって事なのかな。
そう思って墓地を出るとメッセージが届いた。
『イベントポイント 1500p獲得』
ん・・・牧場や子供会の手伝いより獲得ポイントが少ない・・・。
いや1日で得られた日給としては良いのだろうか。
でもスキルは手に入らなかったしな・・・。
しかし討伐戦って言ってた割りにはアッサリと終わったな。
いや、牧場での騎乗戦闘が特別だっただけで他のプレーヤーのイベントポイント集めはこんなものなのかな?
そんな反省とも愚痴とも付かない事を考えながら、徒歩で北の冒険者ギルドに向かう。
「1500ポイントか・・・」
サンドラが呟く。
「ねぇ、サンドラ。今回この討伐戦さ~、赤字じゃない?」
その呟きを聞いたヒルデがサンドラに指摘する。
赤字?1日で得れるポイントとしてはまぁまぁじゃないのかな?
そう思っていた私はヒルデに説明を求めるように視線を送る。
「考えて見てよ?北の冒険者ギルドに来るのに馬車代で1万マニ使ってるのよ?帰るのにも馬車代がかかるでしょ?使った各ポーションも補充しないとだし、それに装備の耐久値が思いっきり減ったから、耐久値の回復代がかかるじゃない?」
ヒルデが珍しく金勘定をしてる。
普段は私の事を守銭奴のようにイジる癖に。
「え・・・馬車代はその通りだけど、装備の耐久値は牧場でのミミズ戦でもかなり下がったよ?今回の事だけが原因じゃないと思うんだけど?」
サンドラが直ぐさまヒルデに反論する。
私的に見れば牧場も今回の墓地もイベントポイントが手に入ってるから特に気には成らないんだけど。
それでも誰の案が1番良かったか対抗意識があるんだろう。
「まぁまぁ2人とも。どうでも良い事で争わないの。ゴーストやシャドーの素材が高く売れるかも知れないでしょ?」
「確かにそれもそうね」
私の仲裁にヒルデがあっさり引き下がる。
「それより次はどうする?とりあえず装備の耐久値の回復だよね?[金仁屋]の2人に連絡取る?」
「いや、イベント中にわざわざ耐久値回復の依頼は迷惑じゃないかな?プレーヤーは避けてNPCのお店に依頼しようよ?」
ヒルデが提案してる。
行き付けのNPCの武器屋か・・・。
「じゃ[日陰屋]だね。一旦ログアウトして食事してから[日陰屋]に行って装備の耐久値の回復を頼んで・・・その後に何をするかはそれまでに各自考えておくって事でいい?」
あれ?なんで私が仕切ってるんだろう?
既に日が落ちて真っ暗なので北の冒険者ギルドの近く宿で1泊しログアウトする。
リアルで食事をし再びログインする。
珍しくサンドラもまだログインしてないので独りで2人がログインするのを待っていると、サンドラとヒルデがほぼ同じタイミングでログインしてきた。
「ねぇエリザ見た?魔法スキルで新情報が掲示板に出てたよ!!」
ログイン早々ヒルデが騒いでる。
「何がどうしたの?」
「魔法スキルをレベル30まで上げた人がね、スキルの進化先って言うの?それを公開してたのよ」
ヒルデが語るのを聞いて何をそこまで興奮してるのか理解できない。
「それってチーノ婆ちゃんが言ってた事だよね?」
私が指摘する。
「チーノ婆ちゃんは強化と変化の2種類を言ってたけどもう1つ精霊化ってのがあったのよ?」
「どういう事?」
「公開されてたのは風魔法スキルだったんだけどね。強化先は【風魔法Ⅱ】、変化先は【雷魔法】で、更に【精霊(風)】ってのがあったのよ」
「精霊って何?召喚術?」
「さぁ?そこまでは。公開した人は【風魔法Ⅱ】に進化させててた。【風魔法Ⅱ】のレベル1で使える魔法は『ウインドアロー』らしいよ。あと【風魔法Ⅱ】にすると【風魔法】の魔法は使えなくなるみたい」
「えっ?進化させるとそれまでの魔法は使えなくなるの?」
「それは武器スキルの技でも同じみたいだよ?でも技の威力自体はアップしてるって」
サンドラが補足してくれる。
ヒルデもサンドラも結構掲示板を覗いてるんだな・・・。
宿で食事をしながら2人から情報収集をし、王都の東のギルド行きの乗合馬車に乗る。
「でも、スキルを進化させると覚えた技が使えなくなるのは酷いよね」
私が仕様の酷さをボヤく。
「建前上はレベル30のスキルを消費して、別のスキルを獲得するって事なんじゃない?だから新たに獲得したスキルはレベル1だし消費したスキルからの引き継ぎも無いみたいな」
こう言う時のサンドラは何だかんだで物わかりが良いんだよな・・・普通は不平不満が出ると思うんだけど。
「でもあれだよね?レベル30まで上げたスキルがレベル1に落ちるって事はトッププレーヤーが一時的にでも弱体化してトップから落ちるって事だよね?」
ヒルデが嬉しそうに話す。
「スキルを進化させるタイミングが難しいよね。イベント中に進化させるか、イベント終了後に進化させるか」
ヒルデがブツブツ言ってる。
「え・・・即進化じゃないの?レベルは30より上がらないんだから、30のままにしたら経験値の無駄じゃないかな?」
サンドラは即進化させる派みたいだ。
「でも、イベント中に進化させたら弱いままイベントやる事になるんだよ?イベント報酬で損しそうじゃない?」
ヒルデが反論する。
確かに魔法スキルを進化させて範囲魔法が使えない状態でミミズ戦やシャドー戦をやったら死んでただろうな・・・。
ん・・・私はその時の気分かな?