乗馬体験
ログアウトすると時間は午前11時前。
お昼御飯には少し早いのでFEOの掲示板を覗いてみる。
イベント掲示板は「アイテム作成依頼はスキルレベルも上がって美味しい」「土木工事は親方に怒鳴られて俺涙目」「初心者は荷物配達お勧め」など体験談や失敗談で盛り上がっている。
その中でも「騎士団の詰め所で練習試合できた」「地下水路に入れるようになった」「スラム街でNPCに襲われた」「潰れた店をNPCから譲り受けた」など面白そうな情報も手に入った。
イベント中のクエストは全てユニーククエストで情報を仕入れても全く同じクエストは受けられないのが歯がゆい。
いや騎士団やスラム街は行けば似たようなユニーククエストを引けるかも知れないのかな?
祐奈なら襲ってきたスラム街のチンピラの頭を斧で叩き割るぐらいやりそう。
一方、イベントに参加しないで第2の町の奥でレベル上げをしてるプレーヤーも経験値増量キャンペーンの恩恵でかなり美味しいらしい。
スキルレベルも20台後半まで上がってるらしく1番高いスキルが長杖でレベル22の私とは差が広かった気がする。
いや間違いなく広がってる。うん考えないようにしよう。
私は家の庭から小葱とミョウガを取ってきて薬味にして茹でた素麺を食べて、再びFEOにログインする。
ゲーム内の時間で朝6時。イベント2日目の3Qだ。
横を見るとサンドラがいつも通りログインしてて窓から外を見てる。
「あ、エリザおはよう、私たちログイン時間をミスったかも」
私を確認するとサンドラが声を掛けてくる。
「えっ?どうしたの?」
「あのね、牧場の人達が既に仕事をしてるのよ。私がログインした時には既にみんな働いてて失敗したなぁと思ってたとこ」
確かに牧場は朝から仕事は多くあるだろうな。
何より農家とか酪農とかは明るく成りかけたら仕事を始めてOKってノリがあるし。
「別に良いんじゃない?私たちお客様だし、仕事の段取り分からない人に興味本位で手伝いますと混ざられて朝の忙しい時間帯の段取りが遅れるよりは迷惑に成らないと思うよ?」
「あ・・・それはそうなんだけど、みんなが働いてる時に寝てるってのもイメージ悪いかなと思って」
「サンドラ、他人にどう思われるか気にしてたら生きるのが辛くなるよ?自分は何をしても人から嫌われる側の人間だと思って行動した方が自由に行動できるって」
いつの間にかログインしたヒルデがサンドラにアドバイスを贈る。
「ちょっと!!私はそこまでじゃないからね?確かにいつの間にかぬらりひょんの様にそこに居て当然って感じで場に混ざってるエリザが羨ましい時があるけど」
「こら、誰がぬらりひょんよ?なんで私に矛先が向くのよ?」
3人揃ったので部屋から出て牧場の皆さんに挨拶する。
いつもより愛想を振りまいたのは後ろめたさのせいだろうか。
皆さんと朝食を食べて食休みをした後は、お待ちかねの乗馬体験の時間になった。
「おぉ、色んな大きさの馬が居る!!白馬もいるよ!!」
「ちょっとヒルデ。大声は駄目だよ?馬がビックリするから」
ヒルデとサンドラもテンションが上がってるのが分かる。
いや、これ怖くない?これに乗るの?1人で?
1番大きい馬の背は私の頭より高い位置にある、
2メートルぐらいあるんじゃないの?これ?
「それはペルシュロン種と言って身体は大きいけど性格は他の馬より温厚なのでお勧めですよ?」
牧場のおっちゃんが勧めてくれるがこの大きさは怖いって。
「この子、イケメンだ・・・」
あれだけ白馬と騒いでたヒルデは黒光りする馬に見惚れてる。
ペルシュロンよりは体が小さく背の高さは私の頭より少し高いぐらい、サンドラと同じぐらいだなら170cmぐらいかな?
確かに全体的に身体も引き締まっててハンサムな雰囲気がある。
・・・馬面なのにハンサムと感じるのに矛盾を感じるけど。
「その子はフリージアンって種だよ。どうだいイケメンだろ?」
そして白馬。
この中では1番体が小さく背の高さは私と同じぐらい。消去法で私はこの子が良いかな。1番小さいし。
「アンダルシアンって呼ばれる馬だよ?その子は頭も良いからすんなり乗せてくれると思うよ」
「そうなんですか?なら私はこの子に決めようかな」
2人に取られる前にさっさと決めてしまう。
どれを選ぶかは早い者勝ちなのだ。
結局、私はアンダルシアン、ヒルデは一目惚れしたフリージアン、サンドラはペルシュロンに乗って乗馬体験をする事になった。
「そうそう。胸を張って遠くを見るような感じで」
「鐙の上に立つ感じで重心は少し前に掛かるように。後に仰け反らないようにね」
「馬の揺れに合わせて自分も揺れる感じで」
牧場の人達がおっかなビックリ乗馬をする私たちを見てそれぞれに好き勝手にアドバイスをくれる。
これ私たちの乗馬体験と言うよりは牧場の人達の気晴らしとかレクリエーションみたいな感じに成ってない?
飼われてる馬が温厚で頭が良いからか、牧場の人達の教え方が上手いのか、ゲーム的なシステムなのか分からないが私たちはそれなりに馬に乗れるようになった。
まぁまだ半日ぐらいしか練習してないから、本当にそれなりになのだけど。
「乗った馬の世話をするまでが乗馬体験だよ」
と言われ身体のブラッシングや蹄に詰まった汚れの掃除、食事や馬房の掃除などをやらされ・・・いや、自らやった。
馬の世話が終わる頃に夕飯の準備が出来たから食べて行きなと声を掛けられバーベキューを御馳走になり、その時に酔っ払った牧場の人達は明日は裸馬に乗れるように仕込んでやるなんて話で盛り上がり、私達はその日も牧場に泊まるようになった。
・・・あれ?
なんだ?この畳みかけるような展開は?
あれ?あれ?私たちは流されやすいのかな?
牧場の人達は朝が早いせいか日が完全に沈むと宴会は終了となった。
翌日、牧場は牛の放牧を再開したらしく朝から牛の鳴き声が聞こえる放牧地の脇で私たちは鞍も鐙も着けてない裸馬に乗る特訓をさせられてた。
なぜ乗馬体験が乗馬特訓に変わったのかイマイチ把握できてない。
それでも短時間で何とか馬が早足で動いても乗れるようになるのはゲームと言う事なんだろう。
「よし良い感じだね。次は走ってみよう」
もはや悪ノリじゃないのか?と感じる提案を受け裸馬に乗って走ると言う、リアルで乗馬2日目の初心者にやらせたら各方面から袋叩きに合いそうな練習までさせられる。
そしてこの地獄の特訓の最中に、別の地獄が始まる。
「魔物が出た!!牛を逃がせ!!」
叫び声が牧場内に響く。
私達も反射的にメニューを開いて武器と防具を装備する。
声のした方に自分の足で走っていこうとすると、声が掛かる。
「嬢ちゃん達、馬に乗って行ってくれ!!」
私達は自分達の乗っていた馬に跨がり習ったばかりの駆け足で声のした方に駆け出す。
ヒルデやサンドラは鎧や武器が重いのか、私が乗ってる馬の足が速いのか私が先頭になってる。
「あれは何?」
私はてっきり巨大ミミズがもう1匹出たのかと思ってたんだけど、実際にそこに居たのは小さいミミズだった。
いや、小さくは無いか。1.5Lのペットボトルぐらいの太さで全長は1mぐらいのミミズがトンボの羽のような二対の羽で空に浮かんでる。しかも群れで。
「何あれ!?」
「ファイアショット!!」
「ウォーターショット!!」
「ウインドショット!!」
「ソイルショット!!」
羽ミミズに向かって魔法を連射すると羽ミミズはあっさりと光に変わる。
「あれ?弱い?」
後方からヒルデの放った矢も羽ミミズに刺さるとその羽ミミズも一撃で光に変わる。
「これは厄介かも」
私の弱いって感想と真逆の感想を漏らすヒルデ。
私が驚きヒルデの方向を向くと、ヒルデが私に忠告してくる。
「エリザ!!MPはなるべく節約して!!これ物量戦だよ!!ポーション酔いは駄目だからね!!」
そんなヒルデの声を受けてか、更に地面から羽の生えたミミズ達が姿を現した。




