ヒルデの野望
「これは大発見かも知れないわよ?まさかイベントでスキルポイントを消費しないでスキルが手に入るとか。イベント放棄してレベル上げに行ったプレーヤーは負け組ね」
チーノ婆ちゃんに御礼を言って別れ、宿屋の食堂で夕飯を食べながらフォークを片手にヒルデが熱弁する。
「しかもスキルポイントで獲得できるスキルリストに載ってないスキルだからね?他言出来ないよね?」
「プレーヤー達がチーノ婆ちゃんに教えて貰おうと群がったら迷惑かけちゃうね」
NPCのチーノ婆ちゃんが迷惑と感じるか微妙なラインかもしれないけど。
それでも他のプレーヤーの嫉妬や妬みから粘着されても迷惑なので秘匿するのは賛成する。
「でも【魔力操作】ってスキルはそんなに有効なスキルじゃないよねぇ?魔法は魔物に当たれば良いんだから曲げる意味が無いし、真っ直ぐ狙うより曲げて狙う方が難しいし」
「そこはロマンでしょ?スピア系は威力が変わるって言ってなかった?」
「それも魔力を2倍込めれば威力が2倍になるみたいなもんでしょう?ハズレるリスクを考えれば普通のを2発撃つのとどっちが良いって話だしねぇ」
サンドラは【魔力操作】の効果に対して懐疑的みたいだ。
逆にヒルデはだいぶ期待してるみたい。
・・・まぁ、サンドラは魔法を持ってないからだろうし、ヒルデはただ他の人が持ってない優越感なんだろう。
俗に言うあれだ。酸っぱいブドウと甘いレモン。
「ねぇ、それはそうとこの後はどうする?2人が決めるんだったよね?」
サンドラとヒルデの話が水掛け論になりそうだったので話を変える。
「行き先を決めるって言っても、これって情報がないんだよねぇ」
サンドラがボヤく。
「王都の外に出て【魔力操作】で何が出来るかそれぞれの魔法を試してみる?」
「ん・・・私は魔法を持ってないから2人が魔力操作で何か出来ないか悪戦苦闘するのを見てるだけになるのよね。普段ならそれも面白そうだけどさぁ、今はイベント中だからなんか勿体ない気がして」
確かにサンドラにとってはイベント中なのに時間を無駄にするだけになるか。
「サンドラに行きたい場所が無いなら、今回は私が決めるわ」
ヒルデが宣言する。
「何かしたい事があるの?」
「フッフッフ・・・私たちは馬を手に入れようと思います。出来れば白馬」
「はい?」
「この間の老人会で私が何もしてなかったと思うなかれ。そう、私はちゃんと聞いていたのです!!王都の北東に牧場があると!!」
「あぁ、言ってたの私も聞いたわ。それで?」
「やっぱり英雄と言ったら馬でしょ?それも白馬。もしくは漆黒の巨馬」
「あれ?ヒルデ、騎乗するならドラゴンとかペガサスとかって前に言ってなかった?」
私が聞くとヒルデは残念な子供を見るような目で見る。
「あのねエリザ、いつまでも夢みたいな事を言ってては駄目だよ?現実を見ないと。居るかどうかも分からないドラゴンやペガサスより目の前の馬だよ?」
「いや、まだ目の前に馬は居ないでしょ?」
「その前にここはVRゲームの中だから現実ですら無いからね?」
「細かい事は良いの。サンドラは特にやりたい事は無いんでしょ?そして私には1回だけとは言え行き先を決める権利がある。それだけで十分よ」
ヒルデが堂々と滅茶苦茶な論理を言い放つ。
「ねぇヒルデ。馬って維持費が大変そうじゃない?毎回の食事とか宿に泊まる時も馬小屋を借りないと駄目だろうし」
「あ、出たな。守銭奴エリザ。あのねあの世にはお金は持っていけないんだよ?溜め込んでちゃ駄目だよ?お金を使って経済を回さないと」
うわっ・・・面倒臭い。
どっからツッコめば良いのか。
「ねぇエリザ。とりあえずはやる事は無いんだしヒルデのやりたい事に付き合ってあげても良いんじゃない?馬を手に入れる事が出来ると決まった訳じゃないしさ」
えっ、サンドラどうして今のヒルデの理屈を聞いてヒルデの意見を肯定する側になるんだ?サンドラはヒルデに甘くない?
・・・いや、サンドラはヒルデが馬を手に入れるの失敗するのを期待してるのか。
「まあね。特に他にやる事も無いし、それじゃ明日は牧場にいって見ようか?」
私もサンドラの予想にのっかろう。
「やった!!2人とも分かってくれると信じてたよ」
信じてるとも。
ヒルデがやらかすのを。
翌日、ログインすると私たちは王都の北東にあると言う牧場を目指す。
私たちが泊まったのは東門近くにある[馬耳亭]だったのでそこから北に向かってる。
「ここら辺を歩くのは初めてだねぇ」
サンドラが回りをキョロキョロと見回しながら呟く。
「私たち王都の市街地しか歩いてないかね。しかも大通り専門で」
王都は王都全体を四分割するように十字に大通りが通っていてそこを歩けば王都から外に出る東西南北の各門へ辿り着ける。
王都では宿屋に泊まるか、青空市に行くか、乗合馬車に乗るかしかしていない私たちは王都の四隅とも言える場所は足を踏み入れた事はない。
いや私たちだけではなく、多くのプレーヤーは王都散策などした事がないんじゃないだろうか。
戦闘職でも生産職でもそんな暇があるならスキルのレベル上げをした方が有意義だと思うし。
「ここら辺まで来ると家も減って緑もそれなりに増えてくるんだねぇ」
朝宿屋を出てからかれこれ2時間ちょっと。延々と北に向かって歩いてる。
リアルなら足が痛くなったりするんだろうけどそこはゲームの御都合展開なのか全く痛くはない。
ただ当然STゲージは減るし、何より退屈だ。
こんな状態を楽しんでいるのはサンドラぐらい。
ヒルデは牧場へ行くと言う使命感で歩き続けてる感じだ。
「あれだね、外のフィールドは適度に魔物が出るから戦闘が気分転換になるけど、街中は魔物が出ないから単調だよね」
退屈で仕方がないので2人に話しかける。
「私、思うんだけどね。こう言う場所はNPCに頼んで馬車か何かで運んで貰う場所だと思うの。歩いて行く場所じゃ無いと思うなぁ」
「ねぇサンドラ、何でそれを出発の時に言わずに今言うの?」
サンドラの発言にヒルデが噛み付く。
「だって今思ったんだもの。ヒルデは何か掲示板で情報拾ってないの?」
「着いてからの話は幾つかあったんだけど、着くまでがこんなに単調だとは書いてなかったよ」
「あ・・・それはあれだね。自分も苦しんだんだから他のプレーヤーも苦しめとわざと秘匿してるパターンだね」
「えー、ただ単にみんな馬車か馬で移動してて歩いたプレーヤーが居なかっただけじゃないの?」
「犬も歩けば棒に当たると言うけど、たまに村人とすれ違うだけでプレーヤーとはすれ違わないよね」
「村人って・・・ここも王都だから。王都にしては閑散としてるけど」
「ほら、あそこが牧場じゃないの?柵が見えるよ」
やっと遠くに目的の場所が見えてきて一気に気分が楽にになる。
しかし柵の中に1頭も馬の姿が見えない。
「あれ?なんかトラブルの匂いがするんだけど・・・」
「つまりトラブルを解決すれば馬ゲットの流れ?」
「ヒルデのゲーム脳が悪化してる・・・」
「いや、これゲームだから」
牧場の建物がある所まで来た時、NPCの人達が集まって何やら話してるのが見える。
あぁ、このパターンね。
「ねぇヒルデ、きっとここで話しかければイベント開始だよ。今回の言い出しっぺはヒルデなんだからヒルデが話しかけなさいよ」
「えぇ、私そう言うのは・・・」
なぜかNPCに対しても人見知りするヒルデ。
「ほら、言い出しっぺなんだからしっかりやってよ」
「分かったわよ」
ヒルデが人だかりに近付き声を掛ける。
「あの・・・何かあったんですか?」
「んっ、あんたらは誰だい?」
いかにもな感じのオーバーオールを着たおじさんがヒルデに質問する。
「あの私たちは異界人です。馬を買いたいと思いここに来たのですが牧場の中に1頭も馬の姿が見えないので何かあったのかなと思いまして」
おじさんの表情が一瞬曇るのが分かった。
「何言ってるんだ?ここで飼ってるのは馬じゃなくて牛だぞ?」




