第1回イベント
「遅い!!」
王都の乗合馬車の乗り場に着くと、ヒルデが私たちを待っていた。
「うむ。出迎え御苦労」
「大儀である。褒めてつかわす」
「2人とも遅いよ?待ち合わせは1日前行動よ?私なんてリアル時間で1日前から王都で待ってたのに」
ヒルデが滅茶苦茶言ってる。
死に戻った恥ずかしさと寂しさを誤魔化しているんだろう。
「あんたは死に戻っただけでしょ?野良パーティーで無茶するから。装備は破損しなかったの?」
「地雷パーティーだったわ。まさかヒーラーがMPポーションをガブ飲みして『判断力低下』『酒乱』のポーション酔いをかますとか。装備の耐久値は回復済みだから大丈夫よ」
「ヒルデは回復魔法があるのにヒーラーやらなかったの?」
「だって何故か回復魔法スキルが1番レベル高く成ってるんだもの。他の低いスキル上げをしてたの。野良パーティーの時は近接アタッカーか魔法アタッカーをやってるわ」
「それで王都の何処に行けばイベントに参加できるの?」
「さぁ。たぶん王都に入れば無条件でイベント参加扱いになると思うよ?」
王都は第1陣や第2陣のプレーヤーが集まってて普段より混みあってる。
今が社会人組もログインする4Qなのも影響しているんだろう。
イベント開始時刻が日付が変わる午前0時なので、私たちもその時間までログインして待ってイベント内容を確認しようと言う事になっていた。
「とりあえずお茶する?それともガッツリご飯食べる?」
「こう言う時に大人なら酒場で飲みながら待つのが定番なのにねぇ」
「サンドラ、ポーションでもガブ飲みしてたら?しっかり酔えるみたいよ?」
「ポーション1本1000マニもするじゃない?酔うまで飲むなら最低5本は飲まないとダメだしコスパ悪いよぅ」
「今、王都は第2陣参戦の影響でポーション値上がりしてて1本1300マニぐらいするよ?調合スキル持ってたら稼ぎ時だったね」
「第2陣も体験したんだね馬小屋宿泊。恐ろしや恐ろしや・・・」
「エリザ、あんたは馬小屋に泊まった事が無いでしょ?」
無駄話をしてて時間を潰しているとイベント開始時刻になった。
日付が変わると同時にメッセージが届く。
―――――
【イベント 王都の民を救え!!お使い大作戦】
イベント内容 王都に住んでる人達は色々と困ってる。悩みを聞いて悩み解決の手助けをしよう。
イベント開催場所 ミズダシア王国 王都ミズダシア
イベント参加資格 イベント期間内に王都に居るプレーヤー全員
イベント期間 8月17日 午前0:00 ~ 8月23日 午後23:59
ゲーム内時間 8月17日 1Q 0:00 ~ 8月23日 4Q 23:59
王都の住人の悩みを解決する度にイベントポイントget。
解決の仕方で獲得できるイベントポイントは増減するぞ。
住人の悩みは全てユニーククエスト扱い。誰かが悩み相談を受注または解決すると他のプレーヤーはその悩みを受注出来なくなるから気を付けよう。
またプレーヤーによっては住人は悩みを相談してくれない事もあるぞ。
悩みを持つ人の気持ちになって行動しよう。
それでは悩みを持つ住人を探して王都中を駆け回れ!!
貯めたイベントポイントはイベント終了後に、アイテムやスキルなどと交換できるからたくさん集めよう。
プレーヤーの皆さんは奮って参加してくれ!!
また第1回イベント開催を記念して、イベント開始からイベント終了までの間、ゲーム内全域でスキルの獲得経験値2倍キャンペーンを開催します。
スキルのレベル上げ更に強くなるのも良し、スキルを新たに獲得しレベル上げするのもよし、色々な方法でスキル強化を楽しんで下さい。
―――――
「これまたザックリしたイベント告知だねぇ・・・」
「まさかのお使いイベントかい。しかもスキル経験値2倍キャンペーンとかイベントに向けてスキル上げやってた私たちっていったい・・・」
私とサンドラがボヤいてると、ヒルデは1人考え込んでいた。
「どうしたの?ヒルデ」
「あぁ、イベントは王都内だよね?」
「うん。そうだね」
「でも経験値は王都周辺より第2の街の奥の方が獲得経験値は多いんだから、経験値2倍キャンペーンの恩恵を多く得るなら王都から離れた場所の方がいいよね?」
「あ、確かに」
王都でイベントに参加するか?
第2の街の奥で経験値2倍キャンペーンの恩恵を受けるか?
どちらかの選択を迫られてるんだこれ。
「えっ?でも戦闘系のスキルじゃなく生産系のスキルなら王都に居ながら経験値2倍キャンペーンの恩恵も充分に得られるんじゃないの?」
「それよそれ。このイベントは戦闘職系のプレーヤーより生産系プレーヤーの方が恩恵が大きいのよ」
「つまり運営は生産系プレーヤーを増やそうとしてるって事?」
「そこまでは断定は出来ないけど、イベントは生産系有利なんじゃないのかな?」
私たちは3人とも生産スキル持ってないからなぁ・・・。
イベントに参加しないで第2の街近隣でスキルのレベルアップした方が得かな?
でもイベントのポイントで交換できる物が何か気になるんだよね。
「どうする?お使いイベントやる?それともスキル上げする?」
2人に聞いてみる。
「ひとまず保留で良いんじゃない?」
ヒルデがおかしな事を言い出した。
「保留って何?」
「もうリアル時間では深夜でしょ?なら今は決めずにログアウトして寝て、他のプレーヤーの動向を見てから明日の昼間にどうするか決めるのよ」
「あれ?ヒルデ、ゲームサービス開始の時もそんな事を言ってお茶してて出遅れてトップ層に差を付けられなかった?」
「あぁ、それね。あの時もなんかそれっぽい事を言って余裕ぶってたよねぇ」
「そ、それは共犯でしょ?って、そうじゃなくて今日はここまま徹夜でイベントは出来ないでしょ?どうせログアウトするなら今決めなくても良いでしょ?」
「まぁ、それはそうなんだよねぇ。じゃあ明日決めよっか」
あっさりサンドラがヒルデに説得される。
第2の街に移動するならこのまま乗合馬車に乗った方が良いんだけど、まぁ良いか。
私もヒルデとサンドラに賛同しとくか。
その日はそのまま宿屋に泊まってログアウトする。
翌日、約束の時間にログインするといつもの様にサンドラと、そして珍しくヒルデも既にログインしていた。
「あれ?ヒルデ早いね?」
「エリザが遅んだよ?」
「えぇ・・・約束の時間にまだ成ってないのに。たまに早くログインしたからってその言い草」
「はいはい、2人とも調べた情報の発表大会をするよ?」
私たちは宿屋の部屋から出ずにそのまま作戦会議を始めた。
「じゃ私からね。やっぱり最前線を探索してるクランの幾つかはイベントに参加しないで最前線に戻ったみたい。あと第2陣でも第2の街でのレベル上げをとったプレーヤーも結構いるみたい」
「イベントやってるプレーヤーに差を付けようって目論見ね。他人を出し抜くの楽しいよね。分かるわ」
「何言ってるのエリザ・・・あんたそう言う処があるよね」
「じゃ次は私ね。イベントは王都のNPCに話し掛けて上手くいけば用事を頼まれるみたい」
「上手くいけば?」
その言い方がちょっと気に掛かる。
「そう。上手くいけば。ある程度は愛想良くしないと信用されずに相手にされないみたい」
「愛想良くって・・・まぁ悩み事を話したり物を頼むのに威張り散らし人を相手にそんな事は出来ないよね」
「それでね、頼み事は素材採取系や配達とか畑仕事とかが多いみたい。素材集めで第2の街付近の魔物の素材なんてのもあるみたい」
「うわ・・・イベントでも第2の街に行かされる可能性もあるの?厄介ね」
「そう言うのは受けずに断ったら良いんじゃないの?」
「えっ?でもそう言うのはイベントポイント多く貰えそうじゃない?」
「あ・・・その可能性もあるのか・・・」
「短時間ので細かく稼ぐか、長い依頼でデッカく稼ぐか、迷うよねぇ」
「いや、まだ長い依頼はイベントポイントが高いと決まった訳じゃないからね?」
「じゃ、採決を取ります!!イベントに参加すると言う方は挙手!!」
私が声をかけると3人とも手が上がった。
「あれ?エリザ珍しい。戦闘狂のエリザはスキル上げをしたいのかと思ったのに」
「それサンドラにも言われたけど私は戦闘狂じゃないからね?私は気付いたの。あれ?私ゲーム始めてからスキル上げしかしてないなって。だからたまにはNPCと話したりしてダラダラするのも良いかなと思って」
「もうトッププレーヤー達には追い付けないしねぇ」
「えっ?2人とももうトッププレーヤーになるの諦めたの?イベント報酬で一発逆転を狙ってるのに」
「私はヒルデがまだ諦めて無い事の方が驚きよ」
「じゃイベントに参加するって事で良いね?なら、さっそくご飯食べながら対策会議ね」
「ねぇ、私気になった事があるんだけどいい?」
「どうしたの?サンドラ」
「エリザが掲示板で調べた事を発表してないんだけどもしかして・・・」
ヤバい。気付かれた。
私はそっと目を逸らした。