初めての夜の森
火が完全に沈み辺りは暗くなったので焚き火を囲み、お弁当を食べ、無駄話をする。
それだけでちょっと楽しい。
空を見上げると、もう数日で満月に成りそうな月が出てる。
「キャンプ道具は揃えたいな・・・」
「せめてレジャーシートは有った方が気分は良いかも」
そう。私たちは土の地面にそのまま座ってる。
最初はどうするか躊躇したんだけど
「ゲームの中だから良いんじゃない?」
サンドラの鶴の一声で地ベタにそのまま座る事にした。
「ねぇ、これからどうしよう?少し早いけどログアウトして昼ご飯を食べたら夜狩りに挑戦してみる?」
「えっと、リアルでは11時過ぎたぐらいか・・・」
「ランプも買ったんだし、ものは試しね。夜狩りやってみようよ」
ヒルデがやる気になってる。
「そう言えば、私とサンドラは腰に吊せるタイプのランタンを買ったけど、ヒルデは手持ちの大きなランプだよね?片手が塞がるけど大丈夫?」
気になった事を聞いてみる。
「いゃあの、ホントはここに来るまでに光魔法のレベルがLv.5まで上がって光源の魔法が使えるようになってたはずだったのよ・・・」
「ヒルデ、今は光魔法のレベルいくつ?」
「ん・・・」
「あっ、私わかっちゃったかも」
サンドラが名探偵のようにニヤリと笑う。
ヒルデの反応を見れば私だって想像が付く。
「ちょっとヒルデ、スキルレベル見せて」
「他人のスキルを詮索するのはマナー違反だよ!!」
「いいから!!」
ヒルデが観念したようにステータスを見せる。
『ヒルデ』
【片手剣 Lv.3】
【軽鎧 Lv.3】
【小盾 Lv.3】
【長弓 Lv.2】
【光魔法 Lv.2】
【闇魔法 Lv.2】
【回復魔法 Lv.4】
【敏捷性up Lv.3】
【スタミナup Lv.3】
【走破 Lv.3】
「ちょっと!!光魔法のレベル2じゃん!!レベル上げる気あるの?」
「ヒルデ、有罪!!」
「な、何が有罪なのよ!?ちょっと聞いてって。これには訳があるのよ!!」
「ほぅ。聞こうか」
「あのね。私の戦闘の役割分かる?片手剣でアタッカーやって、盾でサブタンクやって、回復までやってるのよ?更に敵を見付けたら長弓で先制攻撃まで。魔法まで上げる暇が無かったのよ?」
ヒルデがもっともらしい言い訳をする。
話し方がちょっと演技入ってる。
「いやいやそれ自分で選んだスキルじゃないの」
「それに戦闘中にポーション使うのケチって回復の注文を入れる奴までいるのよ?光魔法を使おうと思ってたタイミングで回復依頼。ねぇ?私悪くないでしょ?」
あれ?ちょっと風向きが悪くなってきた。
「・・・エリザ、ギルティ」
「ちょっと私?サンドラだって回復して貰ってたじゃない!!」
「まぁ、パーティーで回復役が回復するのって当たり前じゃない?」
自分に矛先が向いた途端にサンドラが話を微妙に変える。
「ねぇ、だから今回の夜狩りの灯り役はエリザとサンドラの2人ね。私はランプ持たずに後から付いてくから」
ヒルデがとんでもない解決案を言い出した。
片手でランプを持つ事すらしないとか。
「ん・・・まぁ、じゃあそれで」
これ以上は不毛そうなので話を切り上げる。
要は昼休憩にログアウトするには時間が早かった為の無駄話なんだから。
「じゃ、本当にテントに入ってログアウトして昼休憩にしよう。ログイン時間は12時半でいい?」
「充分じゃない?」
「賛成」
自分のテントに入ってそのまま横になる。
メニュー画面を呼び出しログアウトを選択する。
視界が光で包まれ、それがガラスのように砕け散る。
意識がリアルに戻った。
手首に巻いたマジックテープ剥がし手袋を外す。
次にヘルメットを脱ぎ、首に巻いたマジックテープを剥がし肩掛けを取る。
この作業が地味に面倒くさい。
自分の部屋から出て茶の間、キッチンを見るけど誰も居なかったので、とりあえず鍋に水を入れ火に掛ける。
家の前の家庭菜園から小葱と大葉を取ってきて水洗いし、細かく切る。
お湯が沸いた鍋に素麺を入れて茹で、水でしめて市販のめんつゆで食べる。
洗い物も少なく再ログインの時間までちょっと時間がある。
FEOの掲示板に軽く目を通すと馬車で第2の街に行ったプレーヤーの書き込みが幾つかあった。
王都の四方にそれぞれ第2の街がありそれぞれで特色があるようだ。
第2の街周辺で魔物狩りをして王都に死に戻ったプレーヤーの書き込みによると王都周辺より魔物は強いらしい。
そりゃそうでしょ・・・挑戦者だなぁ。
そうして時間を潰してるとログイン時間に近くなったので装具を付けてログイン準備をする。
ここで急いで5分前にログインするとゲームの中で20分も待つ事になるので注意しないと。
それでも一応、2分前にログインする。
視界が光で包まれそれがガラスのように砕け散り意識がゲーム内に飛ぶ。
最初は良かったけど何回も繰り返すとちょっとウザいかも。この演出。
身体を起こしテントから外に出る。
するとサンドラが焚き火の場所で既に待っていた。
「おはよう。早いね」
「おそよう。10分前行動は基本だよ?」
「10分前行動したよ?ゲーム内の時間で」
本当は8分前行動なんだが細かい事はどうでもいい。
「ヒルデは?」
「呼んだ?」
ヒルデがテントから顔を出して答える。
「じゃ、日が出る前に夜狩りに行こう」
真夜中にテントを撤収する。
メニュー画面でワンタッチじゃなく、自分でテントを畳まないといけないのでちょっと面倒い。
畳んだテントが収納袋に巧く入らず時間がかかった。
焚き火は設置者がエリアから去って一定時間経つと消えるらしいのでそのまま放置。
私とサンドラがランタンに火を灯して腰に吊す。
こういう所はゲームの使用なのかランタンはまったく熱くない。
サンドラ、私、ヒルデの順に並んで森に入る。
「ねぇ、暗くない?見える範囲狭いかも」
「誰かさんが灯り持ってないからね」
軽口を言い合いながら森に入り数分後、さっそく魔物に遭遇した。
月明かりを受けて薄ら浮かび上がるその姿は、白いローブを羽織った幼稚園児ぐらいの何か。
それが4匹、ふわふわと空中を浮遊してる。
「サンドラ、エリザまず私が先制するね」
魔物に気付かれないように小声でヒルデが宣言する。
「ライトスピア!!」
「ダークスピア!!」
午前中に魔法のレベルで弄られたのを覚えてたのか光と闇の魔法を放つ!!
ライトスピアの光で回りが一瞬明るくなるが魔物に当たって消えると同時に暗くなる。
私も続いて魔法を連射する。
「ファイヤーボール!!」
「ウォーターボール!!」
「ソイルボール!!」
「ウインドボール!!」
一連の攻撃で魔物を2匹倒せた。
残った魔物にサンドラがダッシュで近付き、片手斧を振り上げ飛び掛かる。
攻撃を受けた魔物は怯むが、残りのもう一匹がその場で黄色い光をサンドラに向かって放つ。
「きゃ!!痺れる!!なにこれ!?」
「痺れる?麻痺攻撃?」
「分かんない!!ビリッと来た!!」
「2人とも集中して!!」
ヒルデが叫ぶ!!
「ライトスピア!!」
「ダークスピア!!」
光を放った魔物にヒルデが牽制の魔法を放つ。
ダークスピアの方が命中し魔物が怯む。
「サンドラ!!避けて!!」
「ファイヤーボール!!」
「ウォーターボール!!」
「ソイルボール!!」
「ウインドボール!!」
サンドラが相手にしてた魔物に魔法を乱射しトドメを刺す。
魔法を避ける為に一旦後に跳んだサンドラは直ぐさま手斧をヒルデが怯ませた魔物に投げ付け戦闘は終了した。
「今のモンスターなに?」
「幽霊じゃないの?」
「あの攻撃は?」
「ローブを着てたっぽいから魔法?」
「ドロップアイテムは布だよ?」
初見の魔物はよく分からない。
とりあえず掲示板を覗いて名前が判明するまでは幽霊と呼んどこう。
「あの攻撃は魔法?結構ダメージ受けたしビリッとしたよ?」
「見た目的に光魔法?それとも特殊攻撃?」
「先制して先に2匹倒して無かったら危なかったかも」
「次に遭遇したらヒルデはサンドラの回復を優先した方が良いんじゃない?」
「そうだね。色々と試してみよう」
真夜中の狩りは続いた。