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銀の車輪  作者: 白桜
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コンビニへ

街全体に雪がかぶさっていた。

早朝、雪は道路や屋根や自動販売機などに薄く張り付き、黒や灰色が多くを占める世界を白く塗り替えていた。

今はまだ早朝の時間で、処女雪が多く残っているが朝忙しいサラリーマンか何かがつけたのだろう車や自転車など様々なタイヤの跡がくっきりと残っている。

この小さく狭い道をたどって行ったらどこにつくのか僕はどうでもいい創造をしながら目的地であるコンビニへ向かう。

十字路の近くに来ると僕が目で追っかけていた自転車のタイヤの後が変わった跡に交差した。

二本のタイヤの跡が平衡を保って僕の行く方向に伸びている。

これは何の後だろうと思いながら僕は目でそれを追いつつもコンビニへ向かった。



それから一、二分。

タイヤの跡はあるときからまっすぐではなくくねくねと蛇行し始め、最後には片方の跡が消えてしまっていた。

正確にはそのタイヤが溝にはまってしまっていた。

今まで僕が目で追っていた物の正体は車いすの物だった。

車いすは動いている途中に溝に気づかずはまってしまったのか傾いたまま鎮座していた。

そしてその車いすの向こう側にぺたりと地面に座った女の子がいた。

服装は黒くてフワフワのコート、同色のスカート、そして黒い靴に黒い二―ハイ。

今までタイヤの跡を追っかけていたために下がっていた視線を僕は上にあげる。

小さな顔、優しそうな瞳、背中まである長い髪、ちょこんと乗った鼻、それと白い肌に可愛い口。

しかし、その顔の肌と唇は寒さのせいか、血の気が引いていた。

僕の目に写ったのはとてもかわいい女の子だった。

僕と彼女の目があった瞬間、僕の心の中で何かが脈打った。

これが僕と彼女の出会い。



「あ、あの。大丈夫ですか?」

私と目が合って数秒、彼は声をかけてきた後私の車いすを溝から引き抜いた。

見た感じの身長は百七十より少し低め、年はたぶん十六、七。私と同い年くらいだった。

彼は溝から車いすを引き抜くと私の手前に置いてくれた。

私は「ありがとう」と言って車いすの肘置きに両の手を置いて体を持ち上げようと力を込めた。

しかしタイヤをロックしていなかったのか車いすは後ろに下がり、私は再び顔から雪の中に突っ込んだ。



「大丈夫!?」

結構勢いよく転んだ彼女に僕は思わず少し叫んだ。

彼女は起き上って僕を見ると笑いながら「大丈夫大丈夫」と答えたが鼻頭が赤くなっている。

僕は後ろに滑ってしまった車いすを再び彼女の前に出し、今度は車いすについているハンドルをしっかりと握る。

「ホントごめん…。」

「いや、だいじょお~ぶ~だよ!」

彼女は懸垂するように車いすに乗り、座るとフウ、と力を抜いた。

座った後、彼女は服についた雪を払い落し、両の手を使って動かないのだろう足を持ち上げペダルの上にのせた。

その後、こっちを向こうとしたのか車輪を回転させるが、

「あ。あれー?」

雪のせいで車輪が空回りしたのかこっちを向けずにいた。

僕はそこで自分から彼女の前に回り込む。

僕に気を使わせてしまったのか、僕と目があると彼女は照れたように笑って言う。

「えっと、助けてくれてありがとう。」

「どういたしまして。」

僕も笑ってそう言葉を返した。

「それでは。」

彼女はそのままタイヤをまわして雪道を進もうとしたが再び雪のせいでタイヤが空回りしていた。

僕はそれを見かねて彼女の後ろに回る。

「どこに行くの?」

それを聞いた彼女は、僕を見て驚いた顔をし、「コンビニです」と言った。

「そこをもう一回曲がった所だよね。」

「はい。」

「なら押してくよ。僕も同じ所に行こうとしてたから。」

僕はそう言ってハンドルを握り、車いすを押し始めた。



白い道、今日初めて出会った人に押してもらいながらコンビニへ向かう。

少し不安もあるがそれ以上に何かが起こりそうな予感がし、私はワクワクしていた。

「所で、さっき何であんなことになっていたんだい?」

彼は私が倒れていたことについて尋ねてきた。

「えっと、今日はお母さんが熱を出しちゃってご飯が作れないからコンビニに行こうとしたんだけど、車いすの充電が無くなっちゃって。手こぎで頑張ってたんだけど溝にはまって放り投げられちゃったの。」

彼は私の車いすが電動車椅子だというのを見てから「あはは、なるほどね。」と言った。

「所であなたはどうして朝早くからこんな所にいるの?」

「僕は課題を今日の内に終わらせるために缶コーヒーを買いに。」

「それはそれは大変そう―――クシュンッ!」

私がそう言おうとした時に風が吹き、その寒さでくしゃみが出た。

さっきまで忘れていたが、さっき雪の上に転がされた時に服がぬれて少しの風でもかなり寒く感じられてしまう。

それに気づいたのか彼は「ちょっと急ごうか。」と言ってスピードを上げた。

「あー、サブい…。」

「コンビニの中ならあったかいはずだから頑張って。」

そう言って彼が少し大きめの道に出た。

するとコンビニが数十メートル離れた所に見えた。

彼はまた更にスピードを上げ、コンビニへ向かった。



テントンテントンと音を鳴らしながらドアが開くと僕は車いすを押してすぐさまそこに入った。

後ろでドアが閉まると体に張り付いていた冷気が霧散し、暖気が纏わりついて感覚を正常に戻していく。

コンビニの中は曇天の外よりも明るく、とても暖かかった。

僕は濡れてびしょびしょになった手袋をはずすとポケットへ乱雑に詰め込んだ。

車いすに乗っている彼女もコートを脱ぎ車いすの後ろのポケットに器用に詰め込んだ。

その後彼女は車いすを反転させ僕に向き直る。

「送ってくれてありがとう。」

「どういたしまして。」

彼女は僕にそう言って出口から見て一番奥の通路に向かい、僕はコーヒーを求めて手前の通路を進んだ。

私はコンビニの奥、カウンターの近く。おにぎりが売られている場所に来た。

シャケ、オカカ、ツナマヨと人気のおにぎりが上から並び、焼き豚キムチ、オムライス、しお結びなどと言うおにぎりが下に並ぶ。

私はまず手近なオムライス、シソ梅、タラコなどを手に取り買い物かごに入れ上を向く。

私はツナマヨが大好きだし、おにぎりの時には母は必ずシャケを食べている。

しかし、私は手を伸ばしてもそこには届かなかった。

仕方なく店員に取って貰おうと手を下げようとしたその時だった。

「ツナマヨで良い?」

声のした方にいたのはさっきの彼だった。

私が困っているのを気にして来てくれたのだろうか。

「うん。それとシャケもお願い。」

彼はその二つを取ると私のかごに入れた。

ふとそこで彼の持っていたかごに目がとまった。

彼のかごには違う種類の缶コーヒーが十本程入っていた。

ホット、コールド、ブラック。中にはコーヒーミルクも入っている。

それを見て私は面白い事をする人だなと思った。



車いすの彼女が会計を済ませた後に僕も会計をした。

コーヒー系九本で約千五百円

高校生の僕の中では少し高めの買い物だった。

僕はそのまま帰ろうかとドアに向かった時、左手に少し暑い何かが押しつけられた。

立ち止りそっちを向くとさっきの彼女が僕の手に肉まんの袋を当てていた。

「これ、お礼。

今日はありがとう。」

彼女は僕を見上げながら微笑んだ。

僕は「ありがとう」と言ってそれを受け取り、代わりにビニール袋の中から適当に一本を取りだす。

「じゃあ、これ。お返し。」

僕はそう言って珈琲を渡すと彼女は手ぶりもつけながら「大丈夫だよ!」と言った。

「これじゃあお礼にならないでしょ。」

「いやいや、僕もお礼なんていいから。」

そう言って僕はコーヒーを彼女に手渡すと食べ歩きするのも何なのでカウンターの横にあった休憩所に行きガラガラの休憩所の一席に座る。

すると横に彼女も車いすを止めてきた。

彼女は珈琲を開け、口をつけた。

「ニガ!」



何なのかを確認せずに飲んだコーヒーは、完全な無糖だった。

甘党の私はそれに驚いて思わず「ニガ!」と口に出してしまう。

そして思わず私は自分の言ってしまったことを後悔した。

人から貰った物にこう言ってしまうのはさすがに失礼だ。

そう思って私はそれを撤回しようとした時、彼は私にカフェオレを押し付け手から珈琲を奪ってそのまま口に運んだ。

彼は私が口をつけた珈琲に口をつけ、中を飲む。

それを見て私は思わず赤くなった。

回し飲みと言われればそれまでだが私の頭には別の言葉が浮かんでいた。



僕は彼女にカフェオレを持たせ彼女の持っていた珈琲をもらい飲んでみた。

口に入った珈琲は缶コーヒーの中では甘さが無くかなり苦かった。

確かにこれなら彼女の言ったことも頷ける。

「うん。これは苦いね…。」

僕は横目で彼女を見る。すると彼女は少し火照っているように見えた。

僕は手に触れたのがまずかったかなと思いつつ彼女のくれた肉まんを口に運ぶ。

熱々の肉まんを引きちぎり噛むと中の具の―――





「甘…」





僕が肉まんだと思って食べたのはアンマンだった。



さっきの私と同じような事をしている彼に思わずフッと噴き出した。

「ねえ、もしかしてあんまり甘いの好きじゃない?」

私が彼に聞くと彼は「まあね」と苦い顔をして答えた。

私と似ている。

好みは反対だけど、

そう思った。


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