絶望
「……オマエタチ、ダレダ?」
飼育場の暗がりから、地響きのような不快な重低音が響いた。
太い首をコリコリと鳴らしながら、血走った目でこちらを睨みつける。
「侵入者……ウサギ、狙イカ? ……許サン。オレ、怒ル。ブッコロス!」
「……カタコト!? 迫力の割に頭悪そうじゃない!」
かぐやが思わずツッコミを入れるが、カルヤが手に持った巨大な鉄棍を床に叩きつけた瞬間、ズドンッ!!と衝撃波が走り、飼育場の石畳がめくれ上がった。
「ツッ……冗談言ってる場合じゃないよ! 先制で畳みかけるぞ!」
「了解です!」
コウが『瞬閃』を発動し、踏み込みと同時に音速の残像を残してカルヤの頭上へ跳躍。双剣から鋭い真空波を放つ!
カルヤは鉄棍を振り回して真空波を叩き落とすが、その一瞬の隙を見逃さず、地面を滑るように肉薄したセリーヌが『月脈解放・氷界』を発動。絶え間なく繰り出される氷の刃がカルヤの巨体を削り、足元を極寒の厚い氷柱でガチガチに縫い止めた。
「よし! 足止め成功——」
セリーヌが叫んだ瞬間、ガキィィンッ!と氷柱が内側から砕け散った。
「アマイ……ヤツラ!!」
カルヤは脚の筋力だけで強引に氷を粉砕すると、凄まじい風切り音と共に鉄棍を横一文字に振るう。
ゴオッ!!と猛烈な爆風が巻き起こり、コウとセリーヌは間一髪で後方へ跳び退くものの、衝撃波だけで石畳ごと数百メートル後ろへと吹き飛ばされた。
「クッ……硬すぎる! 刃が骨に届かない……!」
「それにあの腕力……かすっただけでも命取りです!」
息を乱す二人の前で、カルヤは不敵に肩を揺らした。
まだ本気すら出していない。その圧倒的な防御力とパワーの前に、コウとセリーヌの連携すらも決定打になり得なかった。
「二人とも、一旦下がってちょうだい! 私の見せ場を横取りしないで!」
ここで、アスターが前に躍り出た。
彼女はメガネをクイッと上げると、背中に担いだ巨大な金属製のコンテナをガシャコンと展開する。
「今まで隠していたけれど……私のアスター特製兵器の真骨頂、見せてあげるわ! 『月脈解放・零ノ型・月華崩壊砲』!!」
アスターの叫びと共に、彼女の全身から溢れ出た高密度の月脈が、巨大な砲身へと一気に吸い込まれ、幾重もの術式陣が空間に展開していく。
アスターの『月脈解放』——それは自身の波動を機械構造と完璧に同期させ、兵器の限界出力を極限まで跳ね上げる超強力な真骨頂能力!
「すべてを塵に還しなさい! いっけぇぇぇッ!!」
カァッ!!と視界を真っ白に染め上げるほどの絶対的な高濃度粒子流が放たれた。
一直線に解き放たれた巨光の濁流は、飼育場の空気すら蒸発させながらカルヤの胸板へ直撃する!
ドッゴォォォォォンッ!!!!
激しい爆煙と眩い光が弾け飛び、飼育場の天井がガラガラと崩れ落ちた。
「やった……!? 直撃よ!」
アスターが肩で息をしながらメガネをクイッと直し、不敵に笑う。コウも「マジかよ、零ノ型……すげえ威力……」と目を見開いた。
だが——。
「……イタイ。……ムカツク」
煙の中から、のっそりと巨大な影が歩み出てきた。
直撃を受けたはずのカルヤの胸板には、わずかな擦り傷と焦げ跡がついているだけ。それどころか、彼の身体は赤黒い気流を纏い、筋肉が二倍近くまで膨れ上がっていた。
「……オレ、メチャクチャ怒ッタ!!!!」
「な……嘘でしょ!? 私の月華崩壊砲が……かすり傷……!?」
アスターが青ざめた瞬間、カルヤの足元が爆発した。音速を超えた踏み込み。
「ガアアアアッ!!」
「キャアアアッ!?」
振り抜かれた鉄棍の衝撃波だけで、アスターの巨大砲身は紙細工のように粉々に砕け散り、アスター自身も血を吐きながら壁へと叩きつけられた。
「アスター!」
セリーヌが蒼い刀を構えて飛び込むが、カルヤは怒りで跳ね上がった怪力で刀ごとセリーヌを叩き伏せ、そのまま激しい蹴りを腹部に叩き込んだ。
「くっ……あぁっ!」
「セリーヌ!……くそっ、カルヤぁぁっ!」
コウが上空から渾身の双剣を叩きつける。しかし、怒りによって鋼鉄以上の硬度となったカルヤの皮膚には刃すら通らない。カルヤは空中でコウの首根っこを掴むと、そのまま容赦なく石畳の床へ叩きつけた。
ガシャアンッ!!と骨の折れる嫌な音が響き、コウが血を吐いて倒れ込む。
「コウ! セリーヌ! アスター!」
かぐやの悲鳴のような叫びが響く。
アスターの超大技『月華崩壊砲』すら打ち破られ、仲間たち全員がカルヤの底なしの「暴力」の前に打ち伏せられてしまった。
「フン……ヨワい。ザコ。……オレ、マダ怒リ、タラナイ」
カルヤは不機嫌そうに鼻を鳴らすと、倒れたセリーヌの頭上へ巨大な鉄棍を持ち上げた。
「マズ、コイツ、ツブス」
「やめて……」
「死ネ!」
「やめてええええええええええええっっっっ!!!!」
かぐやの絶叫が飼育場全体を震わせた




