第2話 唯我独尊のエイリアン
エイリアンに出会いました。
それは人間の形をして人間の言葉を話していたけど、自分の発した言葉に一貫性がなく、言動の全てがちぐはぐでした。
そのエイリアンは、私が出会ったときにはすでに役職に就いていました。大企業ではないものの、一代目の社長が築き上げた会社は順調に業績を伸ばし、数年前に二代目の手に渡ったようでした。その会社で二代目の次に権力を持つエイリアンは、多事多忙の中で即断即決し、周りの人間からも常に意見を求められている姿に、しばらくはエイリアンだと気付かなかったものです。まさに頼もしい上司という役柄を見事に演じ切っているようでした。
しかし、違和感は職場の雰囲気に既に紛れていたのです。私は新しい職場で期待に満ち溢れ浮かれていたのであまり深く考えなかったのですが、それでも神経で感じる引っ掛かりを見逃しては行けなかったと後になってから気が付いたのです。
綻びは徐々に現れてきました。
ある日、私がエイリアンに教わったことを忠実にこなしていると、そのやり方ではだめだと漠然と注意を受けました。私は前回教わった際に記入していたメモと照らし合わせ、どこが違うのかと教えを乞いました。二度と同じ間違いをしないために確認を取りたかったのです。するとエイリアンは、だめなものはだめだと声を荒げ、憤慨した様子で立ち去りました。その場に残された私は、ただ茫然としてその背中を見送ることしかできませんでした。結局、注意を受けたものの、間違いの箇所はわからないままです。
その教訓を生かし、次に新しいことを教わった際にはエイリアンのそばでメモを取り、逐一正しいかどうか確認することにしました。教えているときのエイリアンは終始ご機嫌です。最終的に私のメモを見てご満悦な様子で容認しました。
ところが、また同じことが起こったのです。メモを見ながら教わった通りにしているのに違うと怒鳴られ、次に繋がる訂正は一切ない。理不尽以外の何物でもありません。
私は次第に聞き直すのを諦め、だめだといわれた時点で二つ返事に「はい、わかりました」と答えるようにしました。何度メモを書き直したことか数えきれません。決して納得していたわけではありませんが、人間には世の中を上手く渡り歩く処世術が身についているので、チームの一因として波風をたてぬようその場の最適な行動を選んだのです。
あるとき、エイリアンの補佐をしている人間が退職しました。その人間にも役職があり、安定した生活と給与が約束されているはずなのに突然の出来事でした。誰からも好かれる性格で優しさと賢さを併せ持つ素晴らしい人間性だったので、皆は驚きと悲しみを隠せないほどでした。
さらに驚いたことに、その空いた役職に私が抜擢されました。勤務年数が短いことで人一倍の努力が必要でしたが、今までの経験を踏まえ問題なく役職としての役割をこなすことができました。
ところが、慣れてくるといろいろなことが見えてきました。
あるとき、どうしても見逃せないことがあったのでエイリアンに訂正を進言しました。結果は予想通り、間違いなんかではないと怒鳴られるだけです。しかし、私が休暇を終えて出勤すると私が進言した通りに直っていて、周りに聞くと、なんとエイリアンがさも自分が発見したかのようにふんぞり返って訂正を声高に発表したというのです。わたしは、怒りを通り越してただただ呆れました。
私は最初に感じた違和感の正体を確信しました。名のある会社なのに、同僚が皆、勤続年数が短かく、エイリアン以外の入れ替りが激しいのには理由があったのです。
即断即決しているようにみえたのは、その時々のエイリアンの気分次第で選択しているので判断が早いように見えただけです。もちろんその選択に根拠などはありません。昨日と今日で選択は変わるし、数分後に変わるなんてこともありました。
周りから意見を求められているようにみえたのは、教わった通りにしていてもだめだと叱責を受けるので、毎回お伺いをたてて二度手間をとられないようにする人間の知恵の賜物だったのです。
上司といえども間違いはあります。時にはそのことに部下が気付いて進言することもあります。また、部下といえども斬新な考えで仕事を革新させることもあります。人間はそれらを受け入れて柔軟に対処する術を知っています。人間は仕事の効率化や対人関係の正しい構築を築くために、相手の話を聞くことができます。
敏腕の真似をするエイリアン、とはよく言ったものです。役職の皮を被ったエイリアンに最初は騙されてしまいますが、本来の姿に気付けないほど人間は盲目でも愚鈍でもありません。
エイリアンだと気付かずに次々と有能な人間を失っている二代目社長は気の毒ですが、退職者が多い理由に気付くか会社が消滅するかどちらが先でしょうか。エイリアンを採用してまんまとその手中に収まったまま、今までなにも気付かずにのほほんと二代目の椅子に座っているだけだというのですから救いようがありません。
人間は失敗と成功を繰り返して成長できる能力を備え持っています。それらを駆使して成長を怠らなければ、仕事はいくらでもあります。
わざわざエイリアンの毒に侵される必要はありません。
あなたの周りにもエイリアンはいますか?




