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幼馴染

ロランド視点

俺の幼馴染のルマリアは、子供の時から大人びた大人しい女の子で。


たった1つ、年下なだけなのに、とても頭がいい子供だった。


もちろん、俺は使用人の息子だし、親から、お嬢様にはくれぐれも失礼の無いようにと言われていた。遊び相手として時折、駆り出されたが、遊んでやっている感じはあまり無かった。


何だか、とても自然に対等な関係だったのだ。


だから、だろう。


勘違いしてしまったのは。


俺が7歳ぐらいの時だったか。ルマリアが、大人になったら結婚出来るか悩むような発言をした。俺は何も考えずに、嫁にしてやると言った。


ルマリアが、可愛らしく喜んだのを覚えている。


今日は何をしたの?と、母に聞かれて、ポロっと、ルマリアと結婚する約束をした事を話すと、いつもは優しい母が、烈火の如く怒り出し、絶対に結婚出来ないと言い聞かされた。

正直、お嬢様だからだと言われても、納得できなかった。


夜、帰ってきた父親に、身分制度について簡単に説明され、平民の身分では、男爵家に婿を取るルマリアとの結婚は望めないと説明された。


あの時ほど、ルマリアを遠く感じた事は無い。


同時に、どうやったらルマリアと結婚出来るのかも父親に尋ねた。大人になって、男爵と同じくらいの功績を上げるしかない、とのこと。

1番手っ取り早いのは、騎士団だろうな、と、父親が呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。


よくよく考えたら、1つ歳上なのに、勉強で自分が教えた事が無い。


勝てたのは、体力と力。


じゃあ、やっぱり、騎士しかないじゃ無いか。そう、単純に考えたのだ。


それから、よく食べ、よく寝て、ルマリアと会わない時で、手が空いている時は運動ばかりした。


そのうち、屋敷の警護に雇われている、元騎士のシム師匠が稽古をつけてくれるようになった。騎士見習いは、15歳から。騎士団の入団は、実力があれば16歳から。


俺は見習いに入り、最年少で騎士団の一員となった。


故郷を離れ、ルマリアとは会えなくなるが。ここでできる限り手を尽くさないと、絶対に後悔する。


騎士団で、下積みをする。

入団当初は、何度、意識を失って倒れただろう。体力も、技量も、力量の差というものを思い知る。

それでも、先輩達は可愛がってくれた。

1年もすると、稽古について行けるようになり、盗賊の討伐や、国境警備の遠征にも参加した。

2年目、国境で出た野盗の討伐で武勲を立てる事が出来て、騎士団副団長の目に留まったらしく、所属部隊の第6から、時折、第1団の練習にも参加の声がかかるようになった。

第1団は、実力者及び、実力は無いが貴族出身である者が所属する。

時折、剣の訓練に来る第3王子の模擬戦の相手として、年が近いという事で重宝されたらしい。

ルマリアが学院に通うため、王都に出て来て、夏ごろから時折、会うようになった。


地道に階級を上げる。騎士団は8団から1団まで。それとは別に王宮警備の0団がある。1は名誉団でもあるのだが、数字が少なくなる程、実力者となる。


4年目。やっと2団まで上がった。あと1年で、ルマリアが卒業してしまう。


ルマリアは美しくなった。

もう、本当は手の届かない人なのでは無いかと思ってしまう時がある。


でも、時折会う時のルマリアは、昔と変わらず自然体で。当たり前のようにそこにいて。


だから。


手が届くのでは無いかと錯覚してしまう。


正直、ルマリアの適齢期までに昇進するのは難しいと思うようになった。


だが。どうしても手を離したく無かった。初めて好きだと伝えた。

「卒業したら、1年だけ待ってくれるか?」

そう、尋ねた後ルマリアは泣いた。


領地の為にと、幼い頃から常に自分に言い聞かせて頑張っていた彼女の涙を、初めて見た。


2団の大隊長まで昇進したら、男爵の爵位と同程度の名誉とされる。

彼女の婚期を考えると、残された時間は1年半。


間に合わせると大見得を切った。


ルマリアは、その年卒業し、領地へ戻った。


故郷で。彼女は頑張っているのだろうか。




春に分隊隊長までは昇任したが、大隊長まで昇進するという事は、その職に就いていた者が異動または退職して席が空くことを前提とする。

それは厳しいだろうと、秋になって痛感していた。


世の中、そんなに甘くないのだ。


ルマリアに大見得を切った癖に。


そんな時、冬にルマリアが帳簿の講義を、王城で、官吏や地方の執政官に行うと言われ、警備に当たるように言われた。


宰相に評価されての事らしい。どうしてだろう。彼女は、俺が頑張っている中、更に手の届かない人になっていく。


冬になって、ルマリアの警護1ヶ月の日々は、あっという間に過ぎた。


と、言っても、あまりに忙しそうな彼女と官吏達。彼女らが話す専門的な知識。とても遠い存在のようで、話す事は出来なかった。

警護中、時折ルマリアと視線が合って彼女がふわりと笑う度に、動揺する自分がいた。


警護の後、騎士団副団長に呼び出されて話をした。途中、宰相様がやって来て、別件を楽しげに話していた。騎士団でも、時折姿を見かけていたが、仲が良いんだな。

そう思っていると、宰相様が俺に向かって急に「君はリッツ男爵令嬢を嫁に取りたいのですか?」と、尋ねてきた。

笑顔だが。底の知れない。長身で細身の、騎士である俺より身体が小さい人なのに、威圧される。

「そう、考えています。」


返答するのがやっとの俺に、副団長が笑う。

「リオン、俺の可愛い部下を虐めんなよ。」

「失礼ですね。意思確認をしただけですよ。」

黒の宰相様、か。初めて会話するが、噂も納得だな。


「君は、男爵家に婿入りしたら、騎士団は辞めるんですか?」

宰相様の問い。

「辞める以外に、前例を聞いた事がありません。」

俺の言葉に、

「本気かよ。」

と、目を丸くする副団長。

そうだよな。こんなに、目をかけて貰ったのに。辞めるとか、言いづらいものがある。まあ、もう言ってしまった様なものだが。


「カイウス、彼に名誉職の席を。」

即座に決められる内容に、

「俺はコイツは辞めさせたくない。」

と、副団長が異議を唱える。

「辞めなくてもいいでしょう。前例が無ければ作ってしまえばいいのです。その為に、貴方はその役職にいるのでしょう。」

「まあ、なぁ。でも、どうするよ?」

「婚姻を理由に、1団に上げてしまうといいんですよ。1団なら、退職せずとも良いでしょう。彼の実力なら、そう文句も出ないでしょう。」

「そうだなぁ。それが1番いい方法だろうな。」

カイウス副団長と、宰相様とで自分の今後が決められていく。


もし、そうなるのなら、内心諦めかけていたルマリアとの約束を果たせる。


「リッツ男爵令嬢の為にも、国の為にも、今後も手を抜かずに働きなさい。」

そう言い残して、黒の宰相様は出ていかれた。


「アイツ、色んな情報知ってて怖いだろ。でも、よかったな。リオンが認めたんだ。特例も通る。お前、仕方ないから男爵領に行っていいけど。普段から訓練続けろよ。あと、団体練習は参加必須だからな。模擬戦で弱くなってたら、出向取り消しして即座に王都に呼び戻すから、その覚悟でいろよ。」

苦笑しながら、副団長に、言われた。


俺は、黙って頭を下げた。


後は、あっという間に過ぎた。


ルマリアの父である男爵に、婚約の申し込みを行う。

後から知ったのだが、宰相様から俺とルマリアの婚約を認めるように、との後押しの手紙が男爵家に届いていたらしい。


5月から出向扱い。

籍を入れ、式を挙げる。


初めてルマリアから、自分を愛していると言われて、理性が吹っ飛んだ。


惚れた女にそう言われたんだ。俺も男だから、仕方ないと思う。


正直、騎士団副団長と宰相様に大きな借りを作ってしまった感が否めないが。


ルマリアが、今日も領地で笑顔でいる事が、俺の望みだから、仕方ない。


今日も、小鳥が囀る長閑な田園風景の中で、ルマリアが笑う。

彼女に付き添っている俺は、帰郷してから毎日、父親に領地経営方法を叩き込まれている。

少し、解るようになってきた。彼女を物理的にだけ守るのではなく。彼女の隣に立って、領地の事で相談相手になれるように。


しばらくは、忙しい日々が続きそうだ。


読んで頂いて、ありがとうございました。



2018.12.23

騎士団の編成を隊から団に変更してます。

よく考えたら、団の中に部隊があるものだった。

そんな当たり前な事が抜けてました。

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