表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
98/101

第7章 新しい扉 17

 屋敷の地下に作った新しい扉の前で、ルーアンはくるりと振り返り、七都に微笑んだ。


「では、私はこれにて。風の城に帰ります。夏休みの宿題が特に問題なく、スムーズに終わりますように」

「ありがとう。私の宿題のことまで心配してくれて」


 七都もルーアンに、にっこりと笑い返した。


「扉のことも、ありがとう。ここに作ってくれたのは、正解だったかもしれないね。ゼフィーアたちにも必ず会えるわけだし。管理もまかせられるし。ちょっと迷惑かもしれないけどね。ルーアン、頭いい」

「いえ。ただ……」


 ルーアンは、七都の耳元に口を寄せた。そして、声を落として言う。


「あのアヌヴィム姉弟には、気をつけられたほうがよろしいですよ」


 たちまち七都から、笑顔が吹き飛んだ。

 自分の顔がひきつるのが、自分でよくわかった。


「ルーアン。何でそんなこと言うの?」

「彼らはアヌヴィムの魔法使い。主人の意向に従います。セレウスのほうは、ミウゼリルのアヌヴィムのようで、さほど問題はないかもしれませんが。ただ、彼は心が不安定すぎますね。そんなに強い心の持ち主ではないようです。あなたは早いうちに、彼をご自分のアヌヴィムにしてしまわれたほうがよろしいかと思います」

「やっぱり……セレウスを私のアヌヴィムにしなきゃいけないわけだ……」

「おいやですか? けれども、たぶんそれが、結果的には、彼のためにも、あなたのためにもなるのだと思いますよ」

「そうなのかもしれないけど。今はわたし、それを受け入れられない。もう少し大人になれば、受け入れられるのかな」

「おそらく、その時にはもう、遅すぎるのではないでしょうか?」


 七都は、眉を寄せた。


「遅すぎる? セレウスが何かするっていうの?」


 ルーアンは首を振った。


「私にはわかりません。だが、彼があまりにも不安定に思われますので。あなたに何か害を及ぼすことをしないかと心配致します」

「セレウスが私に害? そんなこと、あるはずないよ」


 七都は、手を握りしめる。

 なぜルーアンは、自分が反発するようなことを言うのだろう。

 なぜ気持ちよく、別れの挨拶をさせてくれないのだろう。


「なら、いいのですけどね」


 ルーアンは、淡く微笑んだ。


「ゼフィーアは? 彼女も私に害を及ぼすと?」

「彼女に関しては、あなたも何か感じ取っておられるのでは?」


 ルーアンが、七都の顔を覗き込む。

 七都は、言葉に詰まった。

 ここでゼフィーアに接したときに感じたこと、そして、七都が魔の領域に旅立つ直前に彼女が言ったことが、記憶の中で蘇る。


<もしナナトさまと私の主人が敵対したなら、私はナナトさまと戦わねばなりません――>


 ルーアンはそれを知らないはずなのに、的確に指摘していた。


「彼女には主人がいるようですね。その主人には逆らえません」

「でも、そのご主人って、火の魔神族らしいよ。たぶん、身分の高い人。王族かもしれない。だったら、風の魔神族の親戚でしょう。あなたの知ってる人かもしれないよ」

「親戚だからといって、味方であるとは限りませんよ」


 ルーアンが言う。


「そりゃあ、そうかもしれないけど。あなたの取り越し苦労だよ。杞憂ってやつ」

「そうであることを願います」


 それからルーアンは、少し首をかしげて呟いた。


「しかしながら、あの二人。本当に姉弟なのでしょうか?」

「な、何言い出すの、ルーアン。今度は」


 七都は至近距離で、彼のきれいな顔を穴の開くくらいに見つめた。


「姉弟じゃないとしたら……何だというの?」


 ルーアンは、にっこりと明るく笑う。


「さあ。しかし、何となく違和感が。私の思い違いかもしれませんが……」


 七都は、立ち尽くした。

 そんなこと、考えもしなかった。

 姉弟じゃない……?

 姉弟に決まってるじゃない。

 変なこと言い出さないでよ、ルーアン。


「では、私は魔の領域に参ります。ごきげんよう、ナナト。また帰ってきてくださいね」


 ルーアンが、丁寧に頭を下げた。

 それは、キディアスよりも優雅で、きれいな仕草だった。

 七都は、思わず見惚れる。


「う、うん。あなたも元気で。必ず近いうちに帰るよ。ありがとう。留守をお願いね」


 七都が手を差し出すと、ルーアンは一瞬だけためらい、その手を握り返した。

 それは魔神族の体温の低い手だったが、彼の大きな手に包まれて、七都はあたたかい気分になる。

 扉が開かれ、その向こうに一瞬だけ、風の城の懐かしい景色が垣間見えた。

 やがてルーアンの姿はその空間に吸い込まれ、扉は何事もなく、滑らかに閉まる。


 七都は、ほうっと溜め息をついた。

 それから、まだルーアンの手の感触が残った自分の手を、ぎゅっと握りしめる。


「もう、ルーアンったら。何でいつもああなんだろ。わたしのほうは、いつも楽しく接したいって思ってるのに。でもやっぱり、ルーアンは素敵だよね。さすが元王太子さまで、


公爵さま。みんなの中では光ってるもの」


 何気なく向きを変えた七都は、はっとする。

 廊下の向こう――階段の下に、誰かが立っていた。

 月の光に照らされてたたずむ、赤い髪のその若者――。

 セレウスだった。

 足元に五、六匹の猫たちを従えて、彼は七都を見ている。

 七都と目が合うと、彼は軽く会釈した。


「セレウス。迎えに来てくれたの?」


 客間からこの地下まで、迎えにくるというほど遠い距離ではなかったが、七都はそう訊ねてみる。

 さっきの会話、聞かれてないよね。

 だいじょうぶ。セレウス、今来たばかりっぽいし。

 第一、ルーアンが、そんなヘマするとは思えない。

 七都はふと不安になったが、そう確認してみて、自分の心を落ち着かせた。


「猫たちが、あなたの姿が見えなくなって騒ぎましたので」


 セレウスが言った。

 もう。自分がそうしたかったんでしょ。

 猫をダシに使って言い訳するなんて。

 七都は思ったが、顔では微笑んで見せる。


「そう。あなたたちは、いつも私を慕ってくれるものね。ここに初めて来たときから」


 七都はかがみ込み、猫たちを撫でる。

 猫たちは嬉しそうに喉を鳴らし、七都の膝に頬をこすりつけた。

 この間猫たちに会ったときは、幽体離脱をしていたので、触れることも出来なかった。

 七都は、自分の生身の体を通して猫たちの存在を感じられることが嬉しかった。

 猫たちの熱いくらいの体温が、手のひらから伝わってくる。


「ナナトさま。もしかして一度、ここに来られたのではありませんか?」


 セレウスが訊ねる。

 七都は、猫たちを撫でながら頷いた。


「うん。来たよ。でも、あなたたちには見えなかったみたいだけど。猫たちは、私がわかったみたい」

「やはり、そうですか……」


 セレウスは、溜め息をついた。


「その……もしかして、何か危ない目に遭われていたのでは?」

「実は、幽霊になってたの」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=735023674&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ