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愛したいろのかたち  作者: あおぞら えす


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あかい実 五話


 ユミとガドラは王都へ向かっていた。馬車に乗りこむ時に、ガドラはユミをじっと見つめていた。

 朝、ユミが目を覚ましたとき泣いていた様子だったからだ。隣室で寝てしまったガドラをユミが起こすことなく隣で見ていたのは驚いたが、目を覚まして一瞬だけ目が合ったが、直ぐに逸らされてしまったのだ。ユミが何かを言う前に、ガドラがユミの手を握った。ユミはそれだけでほっとしたらしく、いつものように微笑んだ。

 それだけだったのだが、周りは二人がいずれ夫婦になると考えているようだった。二人が朝、同室に居てもあまり驚かれることはなかった。噂と言うよりも空気が、二人を包んでいた。


「ラスドア陛下と会うと言うことは、やはり、ミリシア様のお話をされるのでしょうか。」

「そのような話で間違いありません。ユミ様が気をもめる必要などありません。貴方は危害を加えられた側です。」

「・・・そう考えているのがわたくしだけだと咎められる可能性もあります。」

「お話しを聞く限り、魔法を扱ったのはミリシア様お一人です。領民も魔法は扱えても攻撃系の魔法を扱える者はそんなに多くありません。とくに今の時期、貴方が攻撃魔法を扱う領民を民間兵として領地の最も端にある魔物が出る場所に派遣していた。彼らは仕事をちゃんとして働いていましたよ?ミリシア様の居た場所には攻撃魔法を扱える人間はおりませんでした。ならば、答えは一つでしょう。」

 ユミはガドラが言う事実をねじ曲げる方法をいくらでもあることをよく知っている。生まれた地に住む貴族の嘘は上に行くほどまかり通った。この世界が愛を重んじていることは十分に理解していた。グランドオーブという石をガドラが話してくれた。

 曰く、この国ができる前から存在し、その石を中心に国は形成されたのだという。オーブには『愛』を注げば国が豊かになり、憎しみや争いがおこれば大地が疲弊したという。やがて、王都に置かれたオーブの前で結婚式が行われ、『愛』の証明がなされれば、国は安定し、『愛』を否定した王と王妃は国を去るかそのまま死を覚悟する必要があるのだという。オーブの前で誓う者は嘘は暴かれ、特に最も痛みを伴って死を余儀なくされる。

 ユミがガドラを愛したとして、本当に目の前の男性が自分を愛しているのか。勘違いはよくあることだ。ユミも身をもって知っている。だが、ガドラの瞳に映る自分がとても見ていられなかった。恋をしているような、そんな顔。いい顔をしようと努力して。過去の自分が嗤うだろう。嘲るだろう。もう違うと言えるだろうか。答えを知るために、オーブの前に立ってみたい。それができるなら、こんなに悩まないだろう。

「ユミ様。あまり悩まなくてもいいですよ。貴方が思い詰めた顔をするのはよくありません。」

ガドラが、ユミの頬を軽くつねって、ユミははっとした。

「ご、ごめんなさい。わたくし、考えすぎて・・・。」

ユミはガドラの手にそっと触れた。温かくて、つねられた頬は熱を持った。彼を試すことは意味がない。彼は最初から、想いを伝えてくれている。そして、頬にその手をずっと当ててくれているのは心配だから。ユミが手を払いのけたらきっととても悲しむだろう。そんなことするはずないが。ユミはガドラの瞳に映る自分を見た。幸せそうに微笑んでいる。

「ガドラ様。わたくしは、答えを見つけられそうです。」

ついて出た言葉にガドラを当惑させた。その時、丁度馬車が止まった。王宮に着いたのだ。

「ユミ様。その続きをあとで聞かせていただけますか?」

ガドラは降りる前に、尋ねた。

「えぇ。」

ユミはとても優雅に微笑んだ。ガドラの心臓を高鳴らせたと同時に、この王宮で起きるだろう惨事を考えながら馬車を降りた。

 ユミをエスコートする為に出した手は、ガドラの手をしっかりと握った。ユミが返してこなかった手はガドラの手を握りしめたのだった。




 王宮は相変わらず、美しい造形品や絵画、花々が飾られている。ユミは身支度をするために部屋を借り、ドレスを替えた。ガドラも同様に着替えた。二人は互いに見栄えを褒めた。そんなことをせずとも良いのだが、ガドラが褒め続けると止まらないので、ユミも褒めるのだ。ガドラとて容姿が劣るような顔ではない。女性が嫌う顔ではないし、最初に選ばれた婚約者が嫌ったのは王族という身分だった。ユミも似たような場面で断っているがそもそもガドラと比べるには馬鹿げていた。元いた場所の王族が横柄な人間が多かったせいだ。ガドラは王族という身分にこだわっていない。そもそも、この国に貴族という身分を浸透させたのもかなり直近のことだという。王族と平民だけでは纏める人材が少ないというだけで貴族が生まれたのだから、ユミが貴族になれたのもそんなに難しいことではない。王族の血筋に貴族を作っていったことである程度は人数が増えた。ただ、優秀で有能な貴族は少ないし、貴族の娘と呼ばれたところで、いまだに平民との間が近い。だからこその、『愛』を重んじるという精神が王族に根付かれた。平民を守っているのは王であり、その家族だと。平民も家族である、と。


 二人は謁見の間に入った。そこにはミリシア嬢とラドル公爵がいて、玉座にはラスドア王とクラリエ王妃が座していた。ユミはカーテシーを行う。ガドラは簡単な会釈に留めた。

「ユミが参りました。」

ユミの周りだけが明るく照らされているかと思えるぐらい綺麗な挨拶だった。

「ふむ。ユミよ。よく来てくれた。ガドラも今回は苦労をかけた。」

ラスドア王はガドラをねぎらい、ユミには温かい言葉をかけた。

「兄上!今回のことは、すべてミリシアが勝手に行ったことだ!何故、私を呼ぶのです?」

ラドル公爵がすかさず声を上げた。ラドル公爵が肩を怒らせているが、残念なことに、それは無視された。

「ミリシアよ。そなたが行ったことはどのようなことか理解しているか?」

「いいえ、陛下。わたくしは攻撃を受けこのような姿になりました。問題があるのはその女。わたくしが受けたものをあの女にも行わなければ許せません!」

ミリシア嬢の顔は醜く皮膚がただれていた。本来はもっとましな顔をしていた。ラドル公爵は見るも耐えない顔をしたミリシア嬢を見ない。

「ふむ。それは、自身が行った罪を逃れたいということか。ラドル。お前はミリシアの行いを自分とは関係ないというのはおかしいとは理解していないのか?私はお前への裏付けを行った。お前がミリシアに命じてユミを襲ったことはすでに聞き及んでいる。」

「それは嘘でしょうね。私は何も関係ない。そもそもこの旅人が勝手に土地を奪ったことが問題なのだ!」

ラドル公爵は懸命に話を逸らそうとしていた。

「こいつは旅人でガドラを唆した。王子と結婚したら国を乗っ取れると思ったのだろう。この国は愛を司る国だ。この女はそこにつけこんだ!」

「ラドル。ミリシア。二人は罪がないと嘘を話した。グランドオーブが二人が嘘を話したことは見通している。」

ラスドアが片手を上げると、玉座の裏にあったグランドオーブがカーテンを開いたことで姿を見せた。グランドオーブが碧く輝き瞬くと朱く光った。その途端、ラドル公爵とミリシア嬢はうめき声と共にうずくまった。そして見るか見ると石化した。死すら受付させさせない魔法。

 ユミはグランドオーブを見ていた。彼が、グランドオーブの側に立ち、振り返ってユミに手を振った。ユミはその意図を知った。彼がグランドオーブに吸い込まれるように入っていった。彼は、還った。元々そこに戻るために、ユミといたのだろう。彼は流れ星であった。グランドオーブから落ちてしまった、『愛の結晶』。グランドオーブが愛を欲していた。かけたものを求めた。そして、彼は戻った。グランドオーブは本来の力を取り戻した。

 グランドオーブが大きく光り輝いた。ユミ以外は驚き言葉を失った。

『ようやく、我らは我ら全てを手にした』

グランドオーブの声が鳴り響いた。

『ありがとう、この地の者達。ありがとう、ユミ。我らはこの地の愛し愛される者を守り続けよう。以前と変わらず。これからも』

グランドオーブの声が聞こえなくなると、輝きは消えた。


 静まりかえった謁見の間で、ユミを見つめていたのはガドラだけだった。ガドラだけは、ユミが何かを失い、何かを見つけたと理解した。

「ラスドア陛下。進言してもよろしいでしょうか。」

その時、扉を開け入ってきたのは、ロア王子だった。

「先ほど、わたくしの婚約者サリア嬢がガドラとの婚約を結び直したいと進言されました。わたくしは、この進言を聞き、ユミ様との婚約を結びたいと考えました。」

急に入ってきた王子は、意味の分からないことを話した。そして、王子はユミの前に片膝をつき、結婚を申し込もうとした。

「待ちなさい、ロア。そなたはグランドオーブの声を聞いていないのか?」

ラスドア王はそれを押し止めた。

「・・・?グランドオーブの声、とは?」

どうやら、グランドオーブの声はこの部屋の者にしか聞こえなかったようだ。

「そうか。ロアよ。たった今聞いた進言の内容は、残念ながら一部の事柄を叶えることはない。」

ラスドア王は静かに言う。

「何故です?わたくしは、時期国王になる身。妻がいなければなりません。」

ロア王子は立ち上がり、父親の方へ向き直った。

「それは、どうだろうか。ロアとサリアの婚約は破棄し、ロアには爵位を与えることを考えている。」

ロア王子は王の発言に固まる。玉座に座るのは長子である自分だと理解し、そのために帝王学を学んだ。自分だけが、この国の次期国王だ。次男であるガドラを国王にするなど、あってはならない。

「わたくしが次期国王である必要がないと、陛下は仰るのですか?王妃陛下も同じ意見だと?」

ロア王子は、クラリエ王妃を見た。母親が自分を玉座に座らせるため、帝王学を学ばせてきた事実がある。クラリエ王妃は扇を開き、口を覆った。それをみたロア王子は眉をしかめた。母親が扇で口元を隠すのは、不快であるという意思を持ったこと。同時に咎める意思を持っているということ。

「ロアよ。わたくしがあなたに勉強をさせたことは玉座を知る上で必要だったからです。決して、玉座を薦めたわけでは、ない。あなたは『王』とは何かというものを理解できていなかった。学びをさせても未だに理解していない。違うかしら?」

クラリエ王妃は扇で口元を隠したまま再度問う。

「母上!わたくしが問題でもあるかのような物言いはどういうことです?まるで、わたくしが玉座を知らないとでも言いたげだ!わたくしがどれだけ頑張ってきたのかは一目瞭然なのに!」

ロア王子は喚いた。彼が憤慨する癖があるのは有名だった。子供のように喚いて当たり散らす。

「ロア。お前を玉座に座らせるほど、わたしも王妃も馬鹿ではない。お前が勉強を真面目にしていたのは知っているが、それが結果になっていなければ、何も変わらない。時期国王だと周りに話して何もかもうまく覆い隠そうとしていた。サリア伯爵令嬢との婚約破棄も、二人で勝手に話し合い、両家への報告もしなかった。わたしにも王妃にも言わずに、勝手に決定したものとみなして話を進めるものが、王になれるとは誰も思うまい。王の決定だけで事が回るような国はないのだ。今回は二人が進言した内容を鑑みてサリア嬢には別の婚約を打診しておいた。ロア、お前は王族という身分を剥奪し、男爵という爵位を与える。」

ロアは言葉を失った。ロアの我が儘をずっときいてくれた両親が、冷たい視線をロアに向けている。

「そ、そんな馬鹿なこと・・・。」

クラリエ王妃は扇を閉じて、言った。

「陛下の御前です。ロア男爵、下がりなさい。」

クラリエはとても厳しい声で言う。元々穏やかな女性なのだが、王妃としての威厳を少しも損なわないよう努力を重ねた。そして、三人の子供を持つ母親として、王妃として、国を支えた。例え、実の息子であろうと、王妃という身分が全ての民を平等に裁くことを努力の中で覚えた。

「は、母上!わたくしは!」

「そなたが、この国の主になることはないでしょう。下がりなさい。男爵。」

クラリエ王妃は手を上げ兵士に指示する。ロアは抵抗した。そして、ガドラに視線を向ける。そして、

「貴様がいるから!」

ロア元王子の魔法がガドラへ向かって放たれた。ガドラは防壁魔法を唱えたが間に合わない。その瞬間、時が止まる。

『愛する者よ。愛した者よ。』

グランドオーブが輝いて声が聞こえた。

『ユミよ、愛を求めているか。』

「愛しているわ!わたしは、愛している・・・。」

ユミは、止まった時のなかで叫んだ。目の前のガドラに触れることが、もう少しで出来る。愛している者の手を握り、助けたい。

『愛は、本物であること。それが我らの求めること。ただそれだけ。相手を想うこと、それは、愛だ。ユミよ、愛しなさい。その力は、そのために、ある。』

グランドオーブの輝きが消えた途端、時間が少し戻った。その少しだけの時間がユミの絶対防御魔法を構築させた。ガドラの胸を狙った攻撃魔法は跳ね返り、ロア元王子の顔面に当たった。顔の左半分に大きなやけどを負った。

 ロア元王子の手当はすぐに終わったが、彼は放心状態で、傷よりも心の傷の方が大きいようだった。兵士に連れられ退室しても、うわごとを呟き続けた。

 ついでに石化したラドルとミリシアも運び出されていった。


 静かになった謁見の間では、ラスドア王とクラリエ王妃の二人がユミを見つめていた。彼らは、ユミが何かをしたのだと、理解していた。質問もせず、言葉をただ待っているだけ。

「国王陛下、王妃陛下、お話しを聞いてくださりますでしょうか。ガドラ様も。」

ユミは、口を開くことにした。もう、心の中で悩むことは必要ない。自分がおびえている過去に、正面からぶつかろう。



あかい実 五話 終り


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