寝る童は育つ(一)
八月中旬。
北対にて、乙若丸が昼寝をしていた。
少しでも暑さが和らげばと、世話係が団扇でゆるやかに風を送っている。
ここに流れる空気は、いつもと変わらぬ。
戦後のざわめく情勢が届かぬようにしていることも、要因のひとつだろう。常盤の義母上を動揺させてはならぬという、皆の総意だ。
私もこうして守られてきたのだと、改めて実感する。
……ここだけの話だが。乙若丸を見ていると『乙女』の『乙』ではないかと思ってしまう。乙若とは〝二番目の男児、という意味だが。
大きな目を縁どる睫毛は長く。色白の肌に映える小さな唇は、血色よく艶もある。骨格も、今若丸が二歳だった頃より華奢な印象を受ける。このまま成長する訳ではなかろうが、つい考えをめぐらせてしまう。……成人の儀では、烏帽子を冠するより裳着のほうが似合うのではないか、と。
決して乙若丸の愛らしい姿を見たいからではない。あくまでも、客観的視点からの意見だ。
私の隣に座った四歳の今若丸が、乙若丸をのぞきこんだ。
「おとわか、ねてる」
「うむ。今若丸も昼寝を致すか?」
「ねむくない」
動作が緩慢になってきたが、目をこすりつつ起きているのだと主張する今若丸。
「乙若丸を見守っているのか」
「まもる」
己よりも幼い子を見て、本能で『これは守るもの』と理解しているようだ。
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次回更新は、8月19日23:00頃を予定しております。
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