戦の爪痕(九)
「……小助」
「はい」
「報告に感謝する。早く尋ねれば良かったと今は思う」
いくら思案しようとも事実は変わらぬ。それはわかっていても、口にするのは憚られた。
私が未熟なばかりにお祖父様を喪ったのでは……と心苦しさに押しつぶされそうだった彼の日々が、浄化されたような心地がする。
「思慮に思慮を重ねる若様のご性質では、『早く』というのは容易いことではないでしょう」
「……たしかに。そなたは私付きになって日も浅かろうに、理解が深いな」
私は感心する。
「〝観る〟のは私たちの基本ですからね。ましてや若様は、そこらの単純な童とはひと味もふた味も違いますから」
「単純なほうが、そなたは楽だろうか」
「いいえ。私は若様との会話に心地良さを覚えていますから。いずれ若様に置いていかれないよう、日々精進して参りますよ」
小助の軽口によって、心が楽になっていく。幾重にも乗せられた重石が外されていくかのようだった。
「小助」
「はい」
「そなたが居てくれて良かった」
「若様……」
小助が面映ゆさを含んだ複雑な表情をした。
「これからも、よろしく頼む」
家族は敬愛の対象だ。家臣たちは父上の部下。女房たちは護るべき者。いずれも、私にとっては〝次期長の嫡男〟として正しくふるまわねばならぬ存在だ。
小助も〝父上の部下〟に属するが、家臣たちとは距離感が少し違うように思う。友とも違う、不思議な心地良さを持つ距離の者。
少し照れつつ「はい」と応えた小助に、私は改めて思った。小助が居てくれて良かった、と。
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次回更新は、8月18日23:00頃を予定しております。
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