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ありあけの月 ──暁──  作者: 香居
二章 保元元年(一一五六)六〜七月

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戦の爪痕(九)




「……小助」

「はい」

「報告に感謝する。早く尋ねれば良かったと今は思う」


 いくら思案しようとも事実は変わらぬ。それはわかっていても、口にするのは憚られた。

 私が未熟なばかりにお祖父様を喪ったのでは……と心苦しさに押しつぶされそうだった彼(か)の日々が、浄化されたような心地がする。


「思慮に思慮を重ねる若様のご性質では、『早く』というのは容易(たやす)いことではないでしょう」

「……たしかに。そなたは私付きになって日も浅かろうに、理解が深いな」


 私は感心する。


「〝観る〟のは私たちの基本ですからね。ましてや若様は、そこらの単純な童とはひと味もふた味も違いますから」

「単純なほうが、そなたは楽だろうか」

「いいえ。私は若様との会話に心地良さを覚えていますから。いずれ若様に置いていかれないよう、日々精進して参りますよ」


 小助の軽口によって、心が楽になっていく。幾重にも乗せられた重石が外されていくかのようだった。


「小助」

「はい」

「そなたが居てくれて良かった」

「若様……」


 小助が面映ゆさを含んだ複雑な表情をした。


「これからも、よろしく頼む」


 家族は敬愛の対象だ。家臣たちは父上の部下。女房たちは護るべき者。いずれも、私にとっては〝次期長の嫡男〟として正しくふるまわねばならぬ存在だ。

 小助も〝父上の部下〟に属するが、家臣たちとは距離感が少し違うように思う。友とも違う、不思議な心地良さを持つ距離の者。

 少し照れつつ「はい」と応えた小助に、私は改めて思った。小助が居てくれて良かった、と。


お読みいただきありがとうございます。

またブックマークや評価などにも感謝いたします。

次回更新は、8月18日23:00頃を予定しております。


誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

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