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ありあけの月 ──暁──  作者: 香居
二章 保元元年(一一五六)六〜七月

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戦の爪痕(七)




「若様も……わかっていらっしゃるのでしょう? 大殿のご性質を思えば、術符をどうなさったか」

「…………」

「大殿は、我らが誇る一の武士でいらっしゃいます。最期まで、誇り高き源氏の長でいらっしゃいました。『いざ尋常に!』と堂々と宣言なさった時など、後白河方の方々も『さすがは為義殿』『敵ながら天晴』と称賛なさっていましたよ」

「……お祖父様……」

「大殿は……若様のお心を胸に戦っていらしたのでしょう。圧倒的な人数の差に懸命に挑まれる中、若様とともに刀を振るっているという思いが、大殿を支えていらしたのだと拝察いたします」

「……私が……ともに……」

「若様が術符を渡された時、お心も渡されたのでしょう? そのお心を、大殿は戦場へお持ちになったのです。どれほど心強かったことでしょう」

「……心、を……」


 震える声が、堪えていた涙をこぼした。


「……では、術符は……」

「今も、崇徳上皇陛下がお持ちでいらっしゃいます」

「……何と……」


 そう呟きながら、やはり、とどこかで思っていた。崇徳上皇陛下の御身を、あれほどご憂慮なさっていたお祖父様のこと。ひとつでも多く手を打つために、ご尽力なさったはずだ。


「大殿は近侍の方にお渡しになりました。『我が一族が誇る術師の符』と言い添えられて。近侍の方はすぐに、ひそかに陰陽寮の方に調べていただいたそうです。中立の陰陽寮ならば、どなたへの影響もありませんから」

「して……」

「陰陽寮の方は、いたく感心なさっていたとのことです。『簡潔な術式と高雅な文字。術符としても効果は高いでしょうが、何と申しましても美しい』と」

「……左様か……」


 そのような場合ではないのだが、何とも面映ゆい。


お読みいただきありがとうございます。

またブックマークや評価などにも感謝いたします。

次回更新は、8月12日23:00頃を予定しております。


誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

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