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ありあけの月 ──暁──  作者: 香居
二章 保元元年(一一五六)六〜七月

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術符に込めた祈り(九)




 まだ語らいたいことはたくさんあるが、お祖父様も戦支度をなさらねばならぬ。名残惜しいが、この辺でお暇せねばなるまい。

 

「お祖父様」

「うむ」

「お忙しい中、お時間をいただきありがとうございました。そろそろお暇したく存じます」

「うむ。達者でな」


 お祖父様は何気なく仰ったのだろう。だがそれは、熱田のお祖父様が別れの最後に仰ったのと同じ言葉だった。

 私は、震えそうになる手を袖で隠した。


「……お祖父様。孫としてひとつ、よろしいでしょうか?」

「何ぞ」

「……どうぞ、御身大切になさってくださいませ。こうして、お顔を拝見しながら『お祖父様』と呼べるのは、もうあなた様ただおひと方だけなのです」


 私の訴えに、お祖父様はハッとなさり、


「……肝に銘じておこう」


 源氏の長ではなく、祖父の顔で頷いてくださった。私は込み上げる思いを言葉に乗せる。


「お祖父様」

「うむ……」

「私は、あなた様を大切に思っております。心から……」

「……もう、行ってくれ……情けなくも、揺らぎそうになる」


 眉を下げ苦笑なさるお祖父様。私の心が届いたのは嬉しく思うが、困らせるのは本意ではない。

 私は懐から札を取り出した。〝転移〟の言霊を唱える前に、もうひと言だけ。


「お祖父様」

「……うむ」

「どうぞ、ご無事で」

「……うむ……」


 お祖父様は、神妙な面持ちで頷かれた。


お読みいただきありがとうございます。

またブックマークや評価などにも感謝いたします。

次回更新は、7月15日23:00頃を予定しております。


誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

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