術符に込めた祈り(九)
まだ語らいたいことはたくさんあるが、お祖父様も戦支度をなさらねばならぬ。名残惜しいが、この辺でお暇せねばなるまい。
「お祖父様」
「うむ」
「お忙しい中、お時間をいただきありがとうございました。そろそろお暇したく存じます」
「うむ。達者でな」
お祖父様は何気なく仰ったのだろう。だがそれは、熱田のお祖父様が別れの最後に仰ったのと同じ言葉だった。
私は、震えそうになる手を袖で隠した。
「……お祖父様。孫としてひとつ、よろしいでしょうか?」
「何ぞ」
「……どうぞ、御身大切になさってくださいませ。こうして、お顔を拝見しながら『お祖父様』と呼べるのは、もうあなた様ただおひと方だけなのです」
私の訴えに、お祖父様はハッとなさり、
「……肝に銘じておこう」
源氏の長ではなく、祖父の顔で頷いてくださった。私は込み上げる思いを言葉に乗せる。
「お祖父様」
「うむ……」
「私は、あなた様を大切に思っております。心から……」
「……もう、行ってくれ……情けなくも、揺らぎそうになる」
眉を下げ苦笑なさるお祖父様。私の心が届いたのは嬉しく思うが、困らせるのは本意ではない。
私は懐から札を取り出した。〝転移〟の言霊を唱える前に、もうひと言だけ。
「お祖父様」
「……うむ」
「どうぞ、ご無事で」
「……うむ……」
お祖父様は、神妙な面持ちで頷かれた。
お読みいただきありがとうございます。
またブックマークや評価などにも感謝いたします。
次回更新は、7月15日23:00頃を予定しております。
誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。




