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ありあけの月 ──暁──  作者: 香居
二章 保元元年(一一五六)六〜七月

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清和の流れを汲む者(三)




「これよりは、この小助が〝繋ぎ〟を致しますれば。一度お目通りをと」


 この世界の〝繋ぎ〟とは、主を定められた年若の影の者が上からの指示に従い、主へ世情などを伝えることをいう。玄斎師のような指南役とは、また別の教育係を担うのだ。

 小助は私付きとなるのだな。


「小助、よろしく頼む」

「承知いたしました」


 頭を下げる小助の礼法も整っていた。

 影の者を従えるのは、成人に向けての一歩とされる。戦の話に同席を許されたことを踏まえると、まもなく嫡男教育が始まるというわけか。

 ……いずれ次期長となるための嫡男教育……父上が長の座に上られる時は──いや、考えすぎだ。源のお祖父様に不測の事態など起こるはずがない。だが……

 事のあらましを話されていた父上の表情に、時折見え隠れしていた焦りのようなもの。それが頭から離れぬ。表情といえば、朝長異母兄上もそうだ。守仁親王殿下の御名が挙がった時、強張っていらしたのも気にかかる。とりあえず、これは置いておくとして。ともかく父上の表情だ。

 胸の内で何かが警鐘を鳴らしている。だが策を練ろうにも情報が足りぬ。情報が……

 私の目の前には、情報を扱う(・・・・・)影の者たち。物見(偵察)も得(得意)とする──


「……ひとつ、頼みたいことがある」


 私は無意識に〝気〟を張り詰めていた。


「何でございましょうか」


 親衡殿は表情を引き締め、影の者として答えた。その目は、いつもの主厨長と同じ。私を案じ、包みこむような眼差しだった。

 私はハッとした。焦燥感に支配された心のままでは、落ち着いた問答などできぬ。


「無理難題を押しつけようというのではないゆえ、案ずるな」


 冗談めかしつつ〝気〟を緩め微笑んでみせると、親衡殿と小助も肩の力を抜いたようだった。


お読みいただきありがとうございます。

またブックマークや評価などにも感謝いたします。

次回更新は、6月23日23:00頃を予定しております。


誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

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