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ありあけの月 ──暁──  作者: 香居
一章 久寿三年(一一五五)四月~十二月

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厨の者たち(一)




 近江に桜草の花束を預け、私は厨(くりや)へと向かった。

 南庭から厨までは、私の足だと結構な距離がある。温(おん)石(じゃく)(湯たんぽ)を受け取るのに、良い頃合いだとよいが。


 厨の入り口から中を見ると、おやつと夕飯の仕込みを同時に回しており活気に満ちていた。


「おい。また手が止まってるぞ」

「あっ、すいません。甘い匂いが……」

「匂いはいくら嗅いでもいいから。鼻だけじゃなくて手も動かせよ」

「はいっ」

「おーい、芋まだか」

「ほーら、催促来た」

「すいません! 今、剥いてます!」

「おー。この後、訓練だからなー」

「誘惑に負けない訓練な」

「イヤです! 精神の訓練はイヤです!」

「なら必死に剥けよー。あとたったの五十個だ」

「何で二十個も増えてるんですか!?」

「「「あっはっはっはっ」」」


 会話は和気あいあいとしている。だがそれぞれの動きが速すぎて、幾人か分身して見えるのは……思い違いではなかろうな。

 ……かように忙しいなら、今少し頃合いを見るべきであったな……

 声をかける間を見計らっていると、主(しゅ)厨(ちゅう)長(ちょう)(料理長)と目が合った。あの目配りの仕方、見習わねば。


お読みいただきありがとうございます。

またブックマークや評価などにも感謝いたします。

本日は2話更新しております。よろしければ次話もお楽しみくださいませ。


誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

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