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【4月7日より】ありあけの月 暁編【改稿中】  作者: 香居
一章 久寿三年(一一五五)四月~十二月

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のどかなる牛車(一)




 乾対にて、玄斎師にご教授いただいた。

 穏やかな気質の師は、好好爺(こうこうや)といった印象を受ける。だがやはり師と称されるにふさわしく、その博識ぶりや所作など敬服するばかりだ。

 本日は西宮記(さいぐうき)にて朝廷儀式などのしきたりを学び、和漢朗詠集(わかんろうえいしゅう)にて詩歌を学んだ。

 写しとはいいながら行成卿の手による書物で学べるとは、何と幸せなことであろうか。


「鬼武者殿は、和漢朗詠集がお気に召しているようですな」

「はい。いつまでも眺めていたく存じます」


 写本なさった方も、さぞや見事な手をお持ちだったのだろう。

 ……これが正本であったなら……


「ほっほっ。熱心なことで何よりです」


 師に微笑ましい目を向けられた。


 予定どおりに学問を終えると、師とともに乾対を後にして中門をくぐった。いつものように私の牛車でお送りするためだ。

 嫡男ゆえか、元服前だが専用のをひとつ頂戴している。官位を賜っておらぬため、一般的な八葉紋の車だ。

 私も同乗したところで、ゆるやかに牛車が動き始めた。


「木々も華やぐ、良い陽気ですな」

「はい。まことに」


 やわらかく暖かな陽射しに包まれて。

 のんびり進む牛車に揺られ、師のお住まいまで和やかに会話をさせていただいた。


 師をお送りした後。従者たちの計らいで、通りに沿って少しだけ景色を見物した。

 物見(小窓)を開けて目に映す、四季のうつろい。

 邸の外に出ることが少ないため、こうして直に見ることができるのを嬉しく思う。


 我が家付近の治安は比較的良いそうだが、少し外れた辻界隈では稚児(ちご)(さら)いが横行しているらしい。私を含む元服前の童が単独で外出を許されぬのは、そのせいだ。

 思い返せば、義平異母兄上に限っては制約を受けていらっしゃらなかった。おそらく源のお祖父様似の雄々しい顔立ちと、幼い頃から大きな体躯をしていらしたためだろう。

 私に関しては、嫡男の庇護目的か、稚児拐いが好みそうな顔立ちへの懸念か、はたまた非力さへの危惧か……まぁ、すべてだろうな。


お読みいただきありがとうございます。

またブックマークや評価などにも感謝いたします。

次回更新は、5月17日23:00頃を予定しております。


誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

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