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ありあけの月 ──暁──  作者: 香居
一章 久寿三年(一一五五)四月~十二月

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穏やかな光満つ(四)




「まぁ。そのような言葉を、どちらで覚えていらしたのでしょう」

「書物にございました。母上のように美しい方を『天女様の如く』と称するのだと」

「古(いにしえ)の物語を読まれたのですね」

「はい。趣深い話にございました」


 室内は広く、ひそめた声は向かい側まで届くことはない。だが義母上方は温かく見守ってくださっている。

 義平異母兄上の母君・三浦の方は萌黄色、朝長異母兄上の母君・波多野の方は山吹色を基調とした重袿を、それぞれお召しになっている。おふた方とも落ち着いた装いだ。


 我が家が円満なのは、母上と義母上方が互いを尊重していることが大きい。

 母上は正室としての立場を踏まえつつ。

 義母上方は側室として、至るところで母上を立てようとなさる。

 それぞれの方の心遣いを、素晴らしく思う。

 さらに肝心なのは、父上が母上を立てつつ、義母上方も分けへだてなく慈しまれていることだ。この世界に生まれた男として見習わねばならぬところだろうが……私は、おそらく一人の相手で手一杯だろう。


 その後ちょうど良い頃合いで、朱塗りの椀がいくつか載せられた懸盤が運ばれてきた。

 食前の言葉を父上が唱えられ、私たちも唱和した。

 各々の予定を確認しつつ行われる、和やかな会食。

 温かな家庭、温かな食事。

 生前の彼女が欲していたものが、今ここにある。

 ……そなたの分まで、大切に致すゆえ……

 胸の内で彼女に語りかけ、私は目の前の幸せを噛みしめた。


お読みいただきありがとうございます。

またブックマークや評価などにも感謝いたします。

次回更新は、5月6日23:00頃を予定しております。


誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

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