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ありあけの月 ──暁──  作者: 香居
一章 久寿三年(一一五五)四月~十二月

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穏やかな光満つ(三)




 懸(けん)盤(ばん)(お膳)が運ばれてくるまでの間、私は母上と静かに会話をする。ふたりきりの内緒話のようで面映ゆいが、朝の大切な習慣だ。

 母上のお召し物も、ようやく落ち着いて見られるようになった。先ほどは、皆の声だけでなく〝気〟もざわめいていたゆえ。

 本日は紅(くれない)色を基調とした重(かさね)袿(うちき)をお召しになっている。

 二十五歳の母上は、私を筆頭に三人も子がいるとは思えぬ美貌をお持ちである。この美しさを引き立てる装束を用意するのは、大変だが楽しくもあるのだろう。母上付きの女房がさりげなく力を注いだ証が、そこここから見て取れる。

 目が合うと、母上は微笑まれた。


「本日は、金蘭の精ですね」


 金蘭は、ひとつの茎に黄色の小花をいくつも咲かせる、凛とした風情でありながらも愛らしい花である。

 熱田のおひいさまは、仕草も口調も、譬(たと)える花の名まで優雅だ。


「母上は、天女様のようでございます」


 我が家の女性はどなたも美しいが、母上の美しさは格別に思う。身内贔屓と言われようとも、これは譲れぬ。


お読みいただきありがとうございます。

またブックマークや評価などにも感謝いたします。

次回更新は、5月5日23:00頃を予定しております。


誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

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