初昇殿(四)
それからやや下座寄り。
黒の袍をお召しの、ふくよかで意志の強そうな方は、おそらく清盛公だろう。武士の身でありながら、正四位下に昇られるという大躍進を遂げられた方だ。
五位の任官ですら武士にとってはまたとない出世であり、それ以上は不可能に近いとされている。異例とも言える昇進に、世間で囁かれているご落胤説が信憑性を帯びてきた。
さらに下座寄り。
深緋の袍の父上がいらした。
正装姿も端整な父上は自慢だが……今度はため息を堪えるような表情をなさっている。やはり、お疲れか?
私は反対側に意識を移した。
御簾近くではあるが、実能卿、忠通卿よりわずかに下座寄り。
黒の袍をお召しになっている爽やかな方は、従四位下・藤原信頼様だろう。御上の次位近侍として、二十四歳とお若いながらも重用されている。さらに右兵衛佐として合戦においても活躍なさった。武の才能は父君ゆずりとか。
そして──御簾に添うように控える深緋の袍が目に入った。
……あれが、信西殿か。
官位こそ正五位下だが、御上の筆頭近侍として辣腕を振るうことには関心する。強引な手が多く顔をしかめる方も多いようだが。人相は、父上が仰ったとおりだった。五十一歳という年齢よりは若く見えるが、お世辞にも好感を抱けるものではない。
……あれが、諸悪の根源……
わずかでも気を抜けば眉を寄せそうになるゆえ、心の内で般若心経を繰り返し唱えた。
十一回目を唱えようとした時、名簿の読み上げ終了を宣言する声が耳に入ってきた。私は心を無にするための努力に、かなりの時間を費やしていたらしい。
その後承認の儀へと進み、この場を持って正式に童殿上が認められた。
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