初昇殿(一)
初昇殿の日。
私を含む十数名の童は、まず謁見の間に通された。
礼法に則り家格に従って下座で待機するよう、役人の方から申しつけられた。
この童殿上は、保元の乱における恩賞という名目だった。その真意は、後白河方に属した者の子息を引き立てることで恩を売り、改めて忠誠を誓わせることにあるのだろう。さらに朝廷へ奉仕する能力があるのかを、童の内に見極める目的もあるとみた。
定刻になり、官職をお持ちの方々がお出ましになった。左大臣となられた実能卿を始めとする、後白河方の主な方々だ。当然、臣下に身をやつした真の首謀者──信西殿の姿もあるはず。父上から伺った『執念深さを教養人という面の皮で覆い隠した者』を発見しても、眉一つ動かさぬよう努めねば。
役人の方のご説明によれば、名簿に添って名を呼ばれるとのこと。顔見せも兼ねるゆえ、父君の名に各々の名が付随される。
「官位、誰それの何番目、何某」
という具合だ。
「従一位・関白、藤原忠通が六男、鶴千代」
「──はっ」
最初に返答したのは、利発そうな張りのある声の童だった。
忠通卿のご子息──鶴千代殿は、八歳にして昔の儀式・作法などに造詣が深いそうだ。初昇殿の話を伺った時、父上がそう仰っていた。
姿勢を正す時の衣擦れの音が澄みやかなのは、きちんとした所作を身につけているゆえだろう。私との間にいる幾人もの童によって、実際の所作が見えぬのを残念に思う。
お読みいただきありがとうございます。
またブックマークや評価などにも感謝いたします。
次回更新は、10月8日23:00頃を予定しております。
誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。




