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【4月7日より】ありあけの月 暁編【改稿中】  作者: 香居
【改稿中】三章 保元元年(一一五六)八月~九月

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己の姿は見えぬ(五)




 目を瞬かせる私に、賛辞という名の洪水が押し寄せてきた。

 曰く──


「そなたは、凛とした佇まいに芯が一本通っておるな」

「神童然とした顔立ちは、崇高さをよく現している」

「その顔がやさしくほころぶところなど、つい見惚れてしまいます」

「えぇ。慈愛のお顔など、まるで観音様のよう」

「書は流麗にして高潔。性質さながら、まことに好ましい」

「詩歌もさることながら、管弦がまた良いな」

「特に龍笛は天上の()と言っても過言ではありません。それを吹く姿も、天人と見紛うばかりなのですから」

「声も素晴らしいのですよ」

「確かに。朗々と謡い上げる清らかな声が、心地良いな」


 立て板に水の如く、次から次へと繰り出される言葉たち。どなたが何を仰っているのかも、よくわからぬ。

 ……これは、何の拷問だろうか……

 過度な高評価に、私は身の置き所がないまま、時が過ぎるのをただ待つしかなかった。


 言葉が尽きると、その場が達成感に満ちた。皆の肌も心なしか艶やかに見える。お祖父様の件の鬱憤をも晴らしたかのように。

 その中で私はひとり、精も根も尽き果てていた。言葉の奔流に押し流されそうになるのを耐えていたため、やつれた心地さえする。


「鬼武者よ。(われ)らの客観的な見解により、そなた自身をしかと理解したであろう」


 得意満面の表情で胸を張られる父上。


「……おかげさまで……ありがとうございます……」


 『客観的』という言葉が釈然としなかったが、反論する気も起こらなかった。千歳様について、改めて伺う気力もなかった。


「……私には過分なお言葉にございますが……もしそうであるならば、父上を始めとする皆様にお教えいただいたことの賜物と存じます」


 どうにか、それだけは返せた。


「うむ。ひそかに小助をつけるが、くれぐれも用心致せよ」


 小助を護衛につけるほどなのか……

 それは、認識を改めねばなるまい。


お読みいただきありがとうございます。

またブックマークや評価などにも感謝いたします。

次回更新は、9月18日23:00頃を予定しております。


誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

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