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矮翼のセラフィム  作者: す
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第84話 ガブリエル来訪(4) 同時斬り

 ライラの悲鳴——ガブリエルに対して言った「お願いやめて」の声を聞きつけて、エスペルは寝室に飛び込んだ。

 はあはあと息を切らし、部屋を見回しながら、


「どうした!?こっちにも死霊傀儡出たのかっ!?」


 ライラの無事と、部屋のどこにも死霊傀儡がいないことを確認したエスペルはドアの方にさっと振り返った。

 居間から寝室へと、職人セラフィムの死霊傀儡が二体、エスペルを追って入り込んで来た。

 その得物は、片方は鉄のこん棒で片方はかなづち。生前、工房で使っていた、材料の死体を潰す道具である。


『逃ゲルカ、人間……』


 エスペルは剣を構える。


「最後の二体!お前らも新魔剣技で、肉体と魂を同時斬りしてやる!」


 そして新技の技名を叫んだ。


斬魂剣ザン・セフィロト!」


 透き通る神剣ウルメキアが、虹のような七色の光彩を帯び、剣身がダイヤように煌いた。


 飛んできたかなづちをひょいと避け、同時に、こん棒を握って踊りかかってきた相手の腹に虹色の剣身を突き刺す。

 剣をひきぬきながら、その体を蹴飛ばす。死霊傀儡は吹っ飛んで、かなづちを投げたもう一体に、背中からぶつかってどうと倒れた。

 二体の死霊傀儡が重なり仰向けになったところに、エスペルが飛び掛る。上からその腹に、剣を突き刺して貫通させた。

 二体、同時に剣に貫かれる。二体の口から苦悶の声が漏れた。


「ゔグウェええええええ」


 剣を逆手に持ち、とどめとばかりにもう一度貫く。死霊傀儡達はぴくりとも動かなくなった。

 

 そして二体の死霊傀儡は、そのまま白い砂と化して消えていった。

 セフィロト攻撃を加えていないにも関らず、傀儡魂ギミック・セフィラは消失していた。

 

「よし……」


 とエスペルは息をつく。今宵初めて実戦で使った新技の出来栄えに満足していた。


 エスペルはセフィロト攻撃と剣技を組み合わせたのだ。

 この新技により、剣技でも相手のセフィロトに打撃を与えられるようになった。

 材料が所詮は職人セラフィムだったためか、イヴァルトの死霊傀儡より弱かったとはいえ、十体もの数を屠ることができた。

 この技は通常のセフィロト攻撃よりも強大なダメージを相手のセフィロトに与えることができる。相当な威力の魔剣技が出来上がった。


 そして神剣ウルメキア。軽くて動かしやすく、さらに恐ろしい程の斬れ味だった。しかもまるで昔から使っていたかのように、不思議なくらいしっくりと手に馴染んでくれた。

 救世主云々の話はともかく、こんな素晴らしい剣を借りることが出来て良かった、とエスペルは思う。

 

 しかし、とエスペルはため息交じり呟いた。


「はあ、セラフィム社会なめてたぜ。俺が生かした職人セラフィム、ほとんど処刑されちまったんだな。で死霊傀儡の材料か。狂った連中だ」


「そう、ね……」


 いつの間にかベッドから立ち上がっていたライラが、重い足取りで寝室を出る。

 居間には、木っ端になったダイニングテーブルや椅子、ボロボロになってひっくり返ったソファ、粉々になったランプのガラスなどが、散乱していた。

 ライラは無言で、それらを片付け始めた。

 エスペルはそんなライラの様子を見て、


「どうした?元気ないじゃないか」


「別に……。寝起きだから」


「あっ……。だよな!?分かるよそれ、俺もすげえ腹たったわ!日の出前に来訪とかふざけんな非常識か!」


 言いながらエスペルも身をかがめて、テーブルの破片など拾い出す。


 やがてなんとか部屋は片付いた。居間の半分が粗大ゴミで埋まっている状態だが。エスペルがぶつくさ言う。

 

「ちくしょう家具ほとんど買い換えなきゃじゃねえか。家具買うのって部屋の長さ測ったりしなきゃだから、すげえめんどくさいんだぞ!死霊傀儡なんてわざわざ送ってこなくても、こっちから行くってのに!」


「……」


 ライラはどこか遠いところを見るような目で佇んでいる。

 エスペルはそんなライラを見て、眉を上げる。


「やっぱ、なんかあっただろ?」


「えっ!?」


 物思いから引き戻されたかのようにびくりとしたライラの頭を、エスペルは手で軽くポンポンする。


「宰相になんか言われたんだろ?」


「ち、ちが……」


 否定しようとして、ライラの目に涙が滲み出す。


「それとも体調悪いか?ヒルデに診てもらうか?」


 エスペルはライラの頭をなでなでした。ライラが狼狽える。


「わ、私のことなんてどうでもいいじゃない!」


「何言ってんだ?無理すんなよほんと。なんでも全部言ってくれよ」


「っ、だから、そういうのが、私は!!」


 ライラは両腕でどんとエスペルの胸を押した。顔を真っ赤にして、涙を滲ませて、怒った顔で。


「なんだなんだ!?」


「私は嫌われ者の奇形羽なのよ?誰にも必要とされない、私が死んでも誰も泣かない、ただあざ笑われるだけ、私はそういう存在なのよ!」


 必死の形相でそんなことを言うライラに、エスペルはふわりと笑った。


「何言ってんだ?そんなわけないじゃないか」


 ライラはなにやら「うっ」と呻いてその笑顔を見つめると、きゅっと胸の辺りを押さえた。


「も、もういい!」


 ライラは顔を背けると、窓辺に寄った。この部屋の一番大きい窓。その窓を開け放ち、窓枠に両腕をつき、ぐっと体を持ち上げ、足を掛けた。


 その背中の羽が立ち上がり、ブルブルと振動を始めた。


「な、何してんだライラ!?まさかそこから飛ぶとか言わないよな?お前がセラフィムだってバレたら……」


 ライラは窓から飛び立った。


「ちょ、ちょっと待てええーーーーーー!」


 エスペルは窓辺に駆け寄った。あちこちぐるぐる見回したが、ライラの姿はもうどこにも見えなかった。


「うわあ、飛んでった!あいつ一体どうしたんだよ!?」

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