↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
矮翼のセラフィム  作者: す
69/134

第69話 皇宮来襲(2) 杭

「やっ……!」


 ライラが口を覆って小さな悲鳴を上げた。

 エスペルもごくりと喉を鳴らす。


「セラフィムの……イヴァルトの死霊傀儡だと!?」


 そう言うことか、とエスペルは理解した。

 人間の材料がなくなったから、セラフィムを殺して死霊傀儡としたのだ。イヴァルトが選ばれたのは罰、見せしめか。


 おぞましい姿だった。

 いままでの死霊傀儡は影のような汚泥のような、人ならざる姿だった。しかし今目の前にいる死霊傀儡は、生きていた頃のイヴァルトの姿かたちをはっきりと反映させ、目だけが赤々と傀儡らしく輝いていた。


 それがかえって、不気味だった。

 背中に大きく広げた薄羽。

 肩まで伸ばした金髪、端正な容姿。

 しかし肌は全てケロイド化していた。顔も手も足も全て、赤いミミズ腫れに覆われている。


 そして一番おどろおどろしいのは、体中に刺さる幾本もの杭。

 腕を、脚を、腹を、胸を、首を、頭を。あちこちを黒い棒が貫通していた。


「ら……い……」


 イヴァルトは自らの首を貫通している杭をつかみ、ひっぱった。

 ぐいぐいとひっぱり、すぽんと抜けたその杭を、槍のように掲げる。


「オ前ノセイデ……オ前サエイナケレバ……。醜イ醜イ、矮小羽エエエエエエ!オ前ガ憎イ憎イ憎イ!醜悪醜悪シュウウウウウウアアアアアアア」


「いやああっ!」


 ライラは恐怖に顔をゆがめ叫ぶ。

 死霊傀儡のイヴァルトは、ライラに向かって杭を投げつけた。

 かわしたライラの足元に、杭が突き刺さる。

 ライラはわなわなと震えた。

 どうやら先ほど外で聞こえた、「壁に何かを叩きつけるような音」の正体はこの杭らしい。

 

 イヴァルトは今度は、心臓に突き刺さっている杭を一気に引き抜いた。

 投げずに、杭を構えてライラに向かって突進してきた。


 「らーいーるアアアアアア!醜イ醜イ、シネシネシネシネ、らいるアアアアアアアアア!!!!」


「い、いやっ……!」


 怯えきっているライラの前に、エスペルが出る。

 杭を剣で受け止めた。

 イヴァルトは杭を、突きの要領で振るってきた。すさまじい速さだった。だかエスペルは全てを見切り、剣で受ける。

 金属と金属のぶつかる音が広間に響く。

 ジリジリとイヴァルトが下がり始めた。エスペルの方が相手を押していく。


「ライラ、ライラって、俺のことも忘れんなよ、イヴァルトさんよっ!」


 突きの一撃を弾いた。イヴァルトが体勢を崩した。

 エスペルはその腹に剣を切りつけた。


 が、その剣はイヴァルトの体に触れることはなかった。宙を切るような、すかっという感覚。


「霊体化かっ……!」


 エスペルの頭上から、杭が振り下ろされた。エスペルは床を転がってよけた。回転した身を起こして問う。


「死霊傀儡のくせに霊体化できるのか!なんで杭は霊体化してないんだよ、身につけている物は自己同一化されて肉体と一緒に霊体化されるってヒルデが言ってたぞ!」


「霊体化ハ自在ニ好キナ部位ヲ解除デキル、ソンナコトモ知ラナイノカ人間?」


 イヴァルトは赤い目を光らせながら、杭を放つ。

 

「ソレニ、霊体化防御エクトプラズマイドダケデハ、ナイゾ?」


 難なく剣で杭を弾き飛ばしたエスペルに、イヴァルトは手を突き出した。

 ドン、と念を放出する。


 エスペルの体に激痛が走った。同時に頭の中でパリン、と何かが砕け散る音。

 久々に聴いた、自らの魂構成子セフィラが割れる音である。


「くっ……。なるほど、セフィロト攻撃もできるわけか!」


 以前戦った時はイヴァルトは一発で魂構成子セフィラを破壊することはできなかったはずだ。


 つまりこの死霊傀儡は、生前より強くなっている。


 ぐずぐずしては、いられない。エスペルの瞳には既に、セフィロトの樹の図形が浮かんでいた。


「じゃあ、おかえしだ!大破魂メガ・クリファ・セフィラ、連撃!」


 左手を突き出すと、イヴァルトの傀儡魂ギミック・セフィラに次々と攻撃を浴びせた。

 その十の赤い光の玉に、思念波を間髪入れず浴びせ続けた。

 一気に仕留めねば、と思った。一個も残さず、一気に片をつけねば、と。

 またあの必殺技「魂自壊セフィラ・カタストロフ」とやらをやられたら、おしまいだからだ。自らの魂構成子セフィラ一つを再生不能レベルに完全崩壊させることで莫大なエネルギーを生み出すという。半径数キロ範囲にあるもの全てが灰燼と化す、とライラは言っていた。


 皇宮の真ん中で、あんな技をやられたら……。

 絶対に阻止しなければならない。


 イヴァルトは、自分の魂構成子セフィラをどんどん破壊されながら、狂ったような笑い声をあげた。


「アア、強イナ人間、ドンドン壊セ!マルデ痛ミヲ感ジナイゾオオオオオオ」


 不気味なほど、余裕な態度。

 イヴァルトが狂ってしまった故なのか、あるいは策があるのか?


 と、エスペルが真意をはかりかねて眉をひそめた、その時。


 イヴァルトの右肩に刺さっている杭が、突然飛び出して来た。

 杭が自動発射するとは予想していなかったエスペルは、回避の動きが一歩、遅れた。


「っくはっ!」


 エスペルの左肩に、杭がつき刺さった。ぐさりと貫通する。

 エスペルはよろめきながら後ずさりした。


「エスペルっ!!」


 死霊傀儡化したイヴァルトに恐怖し身をすくませていたライラが、悲鳴をあげた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。