誤転生
「いやほんまごめん」
第一声がそれだった。
「…………は?」
俺は間抜けな声を出した。
だって仕方ないだろ。
気が付いたら真っ白な空間にいて、目の前には半裸のおっさんが正座していたのだから。
神々しさとかゼロである。
こういうのって相場女神じゃないの?
「いやぁ〜、やらかしてもうてなぁ」
「誰?」
「神」
「嘘つけ」
「ほんまほんま」
おっさんは困ったように頭を掻いた。
どこからどう見ても普通のおっさんだった。
五十代後半くらい。
白髪生えかけ。
神ってもっとこう……あるだろ。
「えーっと……〇〇さん?」
「……はい」
「ご臨終です」
「急に現実突きつけるのやめて?」
俺は頭を抱えた。
ホームレスやってて河原で寝てただけだったのに。
「近くでトラックに引かれた青年がおって・・・そっちのつもりやったんやけどなあ」
「軽く言うなよ……」
「いや実際、あんたもうすぐ死ぬとこやったから誤差ではあったんやけどなあ」
「……ん?」
「ただ転生予定者の魂引っ張るタイミングと重なってな」
神は気まずそうに目を逸らした。
「ちょっとミスって君の魂も巻き込んでもうた」
「おい」
「いやー、確率的には宝くじ百万回連続一等くらいなんやけど」
「すげー奇跡じゃねえか」
神は「あはは……」と乾いた笑いを漏らした。
殴っていいかなこの神。
「で、本来なら異世界に送る予定やったんは別人なんよ」
「じゃあ俺帰れる?」
「無理やな」
「クソが」
「魂もう処理済みやし」
「燃えるゴミみたいに言うな」
おっさん神は「まぁまぁ」と手を振った。
「その代わり救済措置はある」
「テンプレ来たな」
「異世界行けます」
「テンション軽っ」
神が指を鳴らす。
空間に映像みたいなものが浮かんだ。
剣と魔法の世界。
城。
ドラゴン。
モンスター。
うん、異世界だ。
「本来ここに勇者召喚される予定やったんやけどな」
「予定?」
「次の召喚までクールタイム中。リセマラマジきついわあ」
「ソシャゲか?」
「世界の負担デカいねん、勇者召喚」
なんか嫌な裏事情聞いた気がする。
「で、次の勇者来るまで世界滅びたら困るから」
「……俺が何かするの?」
「そうそう。環境整備」
「雑っ!」
神は気にせず続ける。
「勇者が攻略しやすいように色々やってもらう」
「例えば?」
「滅ぶ村助けたり、強すぎる魔物減らしたり、伝説の装備回収したり」
「裏方やん」
「めっちゃ大事やで?」
神は人差し指を立てた。
「RPGでバグ放置されてたらクソゲーやろ?」
「世界をゲームみたいに言うな」
「実際だいぶ近い」
嫌すぎる。
「ちなみに支援はする」
「支援?」
「スキルとか装備とか情報とか」
「へぇ」
ちょっと興味出た。
異世界。
スキル。
冒険。
男ならテンション上がるワードだ。
「まぁチートは無理やけどな」
「なんで?」
「世界壊れるから」
神はそう言って、急に真面目な顔になった。
「あと一番大事なんやけど」
「?」
「召喚されてきても勇者には会うなよ?」
「……は?」
「顔合わせ禁止。接触禁止。認識されるのもアウト」
「なんでだよ」
「転生者同士って因果律バグるねん」
さらっととんでもないことを言われた。
「本来、別世界の魂は同時代に複数存在したらアカンのよ」
「いや意味わからん」
「わからんでええ。神でも説明面倒やし」
適当か。
「とにかく勇者と長時間接触したら世界が歪む」
「歪む?」
「最悪どっちか消える」
「怖っ」
「せやから君の役目は――」
神がニヤッと笑った。
「勇者に気付かれず、陰から世界を攻略しやすくすることや」
「……地味じゃね?」
「その代わり」
神は親指を立てた。
「最強のモブにはなれるで」
「なんだよその絶妙に嬉しくない称号」
「でも男の子好きやろ?」
「まぁちょっと好き」
否定できなかった。
主人公じゃない。
英雄でもない。
でも裏では全部こいつがやってました、みたいなのは確かにロマンがある。
神は満足そうに頷いた。
「素直でよろしい」
「で、具体的に何すんの?」
「まずはチュートリアルやな」
「ゲームかよ」
「ゲームみたいなもんやし」
雑だなこの神。
神がパチンと指を鳴らす。
すると白い空間に半透明のウィンドウみたいなものが大量に浮かび上がった。
【世界名:エルドリア】
【滅亡危険度:78%】
【勇者召喚予定:13年後】
【主要問題】
・魔王軍侵攻速度上昇
・王国の腐敗
・中盤攻略拠点の崩壊
・勇者用ユニーク装備の消失
・裏ボス早期覚醒
「裏ボスいるの!?」
「隠しルートで出る」
「ゲーム感覚で言うな怖ぇよ」
しかも滅亡危険度78%って終わりかけじゃねぇか。
「いや待て、13年後なんだろ? 俺もう31よ?」
「あーそこは調整する」
「調整」
「老化かなり遅くするから」
「便利」
「その代わり不老ではないで」
「まぁ十分だろ……」
神はウィンドウを操作しながら続ける。
「あと君には“観測補正”かかるで」
「なにそれ」
「簡単に言うと主人公補正の逆」
「嫌な予感しかしない」
「人の記憶に残りにくくなる」
「え?」
「顔覚えられにくい。
噂広がりにくい。
功績が他人のものになりやすい」
「クソ能力じゃねぇか」
「モブ向けやろ?」
「徹底してんな!?」
神はケラケラ笑った。
いや笑い事じゃない。
「ただし利点もある」
「……例えば?」
「国家レベルで暴れても追跡されにくい」
「急に便利」
「暗躍特化やな」
ちょっとワクワクしてしまったのが悔しい。
神はさらに画面を切り替える。
【初期支援選択】
・剣術適性SS
・魔力総量SS
・身体強化A
・罠感知EX
・気配遮断EX
・言語理解
・状態異常耐性
「EXあるじゃん」
「裏方向けスキルは盛れる」
「露骨だな」
「勇者と真正面から並び立つと因果律バグるからな。方向性ズラしてる」
なるほど。
ちゃんと制限の中で強くなる感じか。
嫌いじゃない。
「ちなみにおすすめは?」
「気配遮断EX」
「地味だなぁ」
「最終的に神話級存在の真後ろ立っても気付かれへん」
「怖っ」
「あと罠感知EXあるとだいたい死なん」
「裏方特化すぎる」
俺は少し考えた。
正直、剣とか魔法には憧れる。
異世界行くなら派手な力欲しい。
でも――
「……生き残る方が大事か」
「お、理解早いやん」
「どうせ勇者じゃないしな」
「せやな」
少しだけ、その言葉が引っかかった。
勇者じゃない。
主役じゃない。
世界を救っても名前は残らない。
けど。
「まぁ別にいいか」
「ん?」
「元の世界では頑張ってもモブみたいな人生だったし」
俺がそう言うと、神は少しだけ黙った。
そして珍しく真面目な顔で言った。
「……せやけど」
「?」
「モブでも、世界救える奴はおるで」
その言葉の直後。
足元に巨大な魔法陣が浮かび上がった。
「お、転送始まったな」
「急だな!?」
「異世界やしそんなもん」
「心の準備とか――」
「あと担当天使つくから仲良くしたってな」
「は?」
空間が光に飲まれる。
その最後。
神はニヤニヤしながらこう言った。
「ちなみにその天使、めっちゃ美人やけど無茶苦茶不愛想やで」
「不安要素増やして終わるな!!」




