5. 裏の真実
「シキニワの追加ディスク、『シークレットガーデン〜想い出の庭で貴方と結ぶ物語〜』通称〝裏庭〟という所謂ファンディスクがあるのは知っていますか?」
んん?
なにそれ。
ファンディスク??
「それって本編の後日談みたいなやつ?」
「一般的にはそういう物ですが、シキニワに関しては違って………」
王妃様の問いにキャサリン様はちらりと私達の方を見てから、言いにくそうに話し始めた。
「第五王子ルートが余りにも悲しすぎる、という声が多くて。私もその一人ですが、その声が届いて作られたのが『シークレットガーデン』なんです。で、話のボリューム的に第五王子ルートの話がメインなんですが、他のキャラの後日談というか、イチャイチャモードもありまして………」
あ、第三・第四王子が苦虫噛んだような微妙な顔してる。いや、私も苦虫噛んだことはないけど。てか苦虫ってどんな虫?
まぁ自分達のイチャモードなんて知りたくないよね。性癖暴露するみたいだもん。
「ねぇ、姉上。僕の話がメインで、聞いたラストからだとその後の話とは考え難いんだけど……もしかして、IFってやつ?」
「えっ?!え―――ェェトソウデスネ、IFといえばIFデスね、あっ、ハイ」
ん?
なんでしどろもどろで赤面までして目を逸らす?
相手8歳児よ??
「……姉上?」
「ぅひゃあい!!」
「―――キャサリン、正直に?」
「……はい、お母様……」
王妃様の圧に負けたキャサリン様は、しどろもどろ、その追加ファンディスクについて語った。
―――結論から言うと『裏庭』の第五王子ルートはファンの間で『救済エンド』と呼ばれているものらしい。
ルートといっても、裏庭には選択肢は無く、読み進めるだけの物語だそうだ。
「マリエッタの遺骨を宝物のように抱きしめて眠る竜の前に、幼い頃の姿のマリエッタが現れるところから始まり―――それが神様みたいな存在で、マリエッタの姿を借りたと説明してきて、ですね」
その神様が「悲しい結末は見たくないでしょ?」ってこちら側、要はプレイヤー側に話しかけてくる感じで物語を進めてくる。気付いたらマリエッタの視点で話が始まるらしい。
へええ〜!
なるほどねぇ。
二人が幸せになるルート、って訳だ。
でも、それが『救済エンド』でいいの?
「マリエッタとの記憶を失わせないように、話が進みます。シキニワのランベルトと違って、溺愛ランベルトが尊いんですっ!!もーもー幼い二人がイチャイチャしてるの眼福で…!!」
「じゃあキャシー姉上は今、目の前の光景に感涙して咽び泣いてる訳ですね」
「当然です!推しの二人ですよ?!重課金勢ですから!!」
意味が分かる王妃様とランベルトと私はその圧に引いた。
質問してるフェルナン様も呆れていたが。
「あの。そのとき、ルイーゼさまどーしてるです?」
今度は彼女がお邪魔キャラとして存在するんだろうか。
「物語のルイーゼは普通に祝福してくれますよ。少し寂しそうな表情で、失恋を隠すように隣国へ留学する、という展開になっていました」
へええ〜。
まぁ皆殺し鬱エンドよりよっぽどいいじゃない。
あれ?でもじゃあなんでキャサリン様は。
「ねぇ、キャシー姉上。なんでそんな早口で声が上擦ってるの?何か隠してなぁい?」
ずっと黙って聞いていたフェルナン様が、にっこりとキャサリン様に詰め寄る。
第四王子のガヴェイン様が正統派美少年なのに対し、第三王子のフェルナン様は可愛らしいアイドル系美少年だ。勿論ランベルトが一番ですが何か?
「へぇっ?!ななななな何にもないです何も全くこれっぽっちもやましい事などありません!!」
「やましさしか感じないねぇ?」
「と、ともかくです!私が言いたいのは、その『裏庭』の話の展開へ持って行くべきだと言うことです!本編と違って、何だかルイーゼの行動が変ですし」
「それは私も感じたわ。あんなにランベルトを追いかけ回すような子じゃ無かったわよね」
フェルナン様の追撃を上手く躱せてホッとしてるキャサリン様。
でも安心するのは早いと思う。
ああいうキャラは諦めたように見せかけて忘れた頃に攻めてくるって相場が決まってるもん。
「ランベルトと婚約させろと私にも言ってきたが、絶対にあり得んと断っている。王族間の近親婚は竜性が強くなりすぎるからな。私の異母弟の……あいつがそうだった」
それってもしかして、クズ男って言われてた王弟?
ただの変態じゃ無かったって事??
王様は少し眉を顰め、憐れむように、そして苦し気に語った。
「あいつがあれ程まで性に奔放になったのは、奴の竜性が狂ったせいだ。竜性が強かった弟は、幼い時分に運命の相手を傷付けないよう、感情を抑える術を使われた。しかし、運命と結ばれなかった弟は、徐々に情緒が不安定となり……本来番に向かうはずの衝動が不特定多数へと向かったのだ」
竜性の強い王弟は、最初は王太子、とも考えられていたそうだ。
そんな立場の王弟だから、ランベルトのアレな態度を参考にすると、大人が不安になる気持ちは分からなくもないけど、そこは大人がきちんと分からせるべきだったんでは?
乗り越えるべき障害を先回りして失くしてあげてばっかじゃ成長しないもんね。
「つがいさんはどこいったです?」
「………術を解く前に別の者と結婚してしまった」
えええええそれは!?流石にそれは!
え??誰がその術かけたの?!
完全なるミスでは?
「彼女は弟と婚約する前に……傷物にされたんだ。責任をとる体で結婚したと言うが、相手の男は端からそれを狙っていてな。だが、今更術を解いた所で皆不幸になるだけだろうと、父は弟をそのままに―――取り返しのつかない事をしてしまった。事故があったにしても、弟とその娘を添い遂げさせるべきだったのだ。弟が死んだ事を知ったその娘は毒を煽って亡くなった……彼女もずっと、弟を想っていたらしい。男の思惑と真実を知った父王は責任を感じ、退位を決め、私に譲位したのだよ」
重…!!想像以上に重かった!
第五王子ルートを彷彿とさせる内容では?
これを悲恋と言わず何というのか!
てか、こっちの二人を救済するべきだったんではと思うのは烏滸がましいだろうか。そりゃ、国の存亡には関わらないかもだけど、何かこう、モヤモヤする。
あっちの世界で読んだ話にも、変えられる未来は本人が関わったものだけみたいな風に神様が言ってるのがあったな。
この世界の神様もそんな風に優しかったらなぁ。
皆が幸せになって欲しいよ。
「……番となる女性の爵位が低く、前王が婚約を渋っていたのと、娘を王太子妃にしたい高位貴族の思惑がな……そんな大人の事情に巻き込まれた二人には、本当に可哀想な事をした……」
「裏設定が過ぎます!サイドストーリーにもありませんでしたわ……まさかの燃料投下に公式もびっくりです」
キャサリン様、大興奮しとる。
ちょっとも物思いに耽らんないわこの世界。まぁ、キャサリン様も複雑な生立ちなのにそれを感じさせないのは前世が強すぎるせいだね。
けど、この真実はダメージが大きい。
特に、私とランベルトには。
「その物語の中で何故悲劇を繰り返したのかは分からんが……私はランベルトの竜性を封じるつもりは無い。マリエッタ嬢には迷惑をかけてしまうがね」
宜しく頼む、と、王様に頭を下げられてしまった。
きっと、多分だけど、王様をそうさせたのは〝今〟の王妃様のせいだと思う。
転生者の王妃様と長く一緒にいて、その心を大切にしてきた王様だから、良い方に変わっていったんじゃないかな。共に過ごした年月が二人を似た者夫婦にして、良い方向へと変えたんだ。
「 へいか、わたしがんばります!」
オーケーオーケー。
未来の旦那様の手綱をしっかり握ればいいわけね。かなりの暴走馬だけど…やだ、馬とか言うから種馬って言葉が頭に浮かんじゃったじゃん!!
脳内の不穏なワードを振り払うように頭を振って切り替える。
「ランベルト、種まきは最低でもマリィちゃんが15を超えてからにしなさい」
お義母様……赤裸々すぎます……
王妃様のあんまりな発言に、またしてもチベットスナギツネになった私は、気付けばランベルトの膝の上で横抱きになっていた。
おかしいな?さっきまで正面向いてたのに。
手品師かな??
虚無の心であーんさせられてお菓子を口に入れられていると、遠くから地鳴りのような激しい音……足音なのこれ?……が近付いてきた。
何の大群?イノシシ?おっことぬ……いや、ここに野生の姫はいないから。
「あ―――っっっ!!!ちょっと目を離した隙に!離れなさい、そこの二人ぃ!!!」
耳鳴りみたいなキーンとする、子供特有の高い声。耳を塞ぎたくなるようなキンキン声を発している、その少女にギロリと睨まれた。
「いつの間にべったりくっついてんのこの寄生虫。油断も隙もあったもんじゃないわこの色情魔!」
そ、そこまでいう?!
そりゃ中身はアラサーだけど今世はまだピチピチの5歳児だよ!?泣きそう…
ていうか、この口が悪い女の子が第六王女のルイーゼ様か。
私よりちょっとお姉さんな体格で、王様にちょっと似てるのは王弟似ってことか。髪も瞳の色も似てるしね。
「ハッ、ようやく本性現したかルイーゼ。だがもう遅い。俺とマリィの絆は誰にも引き裂けない!」
いや、ランベルト一人称『僕』でしょ。
なんかどっかで聞いた事のあるセリフパクってこないで、っていや今は置いといて。
「陛下、申し訳ありません!突破されました!」
二人の文官っぽい男性と侍女さんかな?女の人が申し訳無さそうにペコペコ王様と王妃様に頭を下げている。
「いや、仕方ない。子供でも王族だ、同年代の子供より能力は高い」
監視を巻く能力に王族の血筋とか関係あるの??
でもってルイーゼ様は何でまた監視なんてされてるの。
「騎士見習いの訓練に参加させとけば?」
「いや、重り付きの鎖を足に巻いた方がコスト的にいい」
ルイーゼ様はゴリラか何かかな?
王女様にコスパ重視とか、フェルナン様とガヴェイン様、辛口ぃ。
「早く離れなさいよ、そこの二人!!」
王様達の会話は聞いていないのか、目を三角にして怒り狂うルイーゼ様。
ランベルトはそんな彼女の怒りもどこ吹く風で、全く相手にしていない。さらに煽るように「あんな奴は気にしないでいいからね」と、私のほっぺにちゅっとする始末。
「!!マリエッタ様が汚染されるでしょこのバイ菌!」
「いっ…!!」
怒りのルイーゼ様からくり出された靴という名の剛球が、ランベルトの頭に命中する。勿論その靴は直前まで彼女が履いていた脱ぎたてホヤホヤの物だ。
靴のおかげで?ランベルトの拘束から解放されたけど、何かおかしくない?
私の事、様付けしてなかった??
「……ねぇ。さっきから思ってたんだけど、ルイーゼってランの事好きじゃなかったの?」
フェルナン様が私の気持ちを代弁するかのような質問をする。
だって、婚約させてって王様に頼み込む位だったんでしょ?
今の二人をみると、いがみ合ってるというか、犬猿の仲というか、竜と虎……いや、水と油って表現するのが普通か。ヲタクだから仕方ない!えへへっ。
「嗚呼っ……!ま、マリエッタ様が笑って……!!何て可愛らしいの…!天使、そう、天使だわ!!原作のマリエッタ様も素敵だけど、今の姿はゲームじゃ見られないレア物……!あぁ、スチルに収めたい…!」
あーあーあー。
分かりました分かりました。
彼女も……ルイーゼ様も転生者って訳ですね。しかもマリエッタ過激派。
「ルイーゼ……まさか貴女まで転生者だったの……?」
割と強めなヲタクだったキャサリン様にすら引かれてるルイーゼ。
あ、前世の話は……と慌てて周りを見渡せば、さっきまでいた監視の人とかは居なくなっていた。フェルナン様と目が合えば、ウインクで合図される。
うおっ!
流石出来る男(未来予想図)。
愛してるサインも是非将来の奥様になる人にやってあげて下さい。車無いけど。
「ええ、そうよ!私、この世界で彼女を見て、決めたのです!この可憐なマリエッタ様が原作の様に穢されないよう、成長するまでは私が防波堤になってこの発情竜から守ろうとしたのに!!陛下が許可を下さらないからこの鬼畜男が……」
「あーっ!あーあーあーあー!!!ルイーゼルイーゼストップ!!そこまで!」
「何ですの?キャサリンお姉様。まさか、お姉様も転生者ですの?それなら尚更、お分かりになるでしょう?あの鬼畜の所業を」
止めようとするキャサリン様とルイーゼ様の会話で気付いてしまった。
だって、私もヲタクだから……
「―――んー?裏庭の〝裏〟って、もしかしてR指定の『裏』って意味だったの?」
王妃様。私、知りたくなかったです。




