2. 恋人は対象者
「エルドアン、マリエッタが王宮で王子に手籠めにされたって本当なの?」
父(34)母(32)に、長兄(13)次兄(12)私(5)の家族五人が揃う夕食の席でぶっ込んで来たのは母様だった。
父はワインをブーッと、次兄は肉をブフォって吹き出し、二人の間にいた長兄はそれをモロに浴びるという被害を受けていた。
熱いスープじゃなくて良かったね。
「母上、人聞きの悪い事は言わないで下さい。手籠めにはされていません。キスされて求婚はされていましたが」
給仕達が慌てて持ってきたタオルで顔を拭きつつそう答えるエル兄様。
あ、エル兄様はエルドアン、って言うのよ。愛称がエルね。ついでに次兄がサミュエル。サミュ兄様の愛称はサミー。
サミュ兄様は私よりピンクが強い髪で、愛らしい?というか、BのLの主人公みたいな女の子っぽい見目をしている。
「何言ってんの?!マリィはまだ5歳だよ!?キスとか何考えてんだロリコンなのか幼女趣味は潔く断種しろ」
但し口がすこぶる悪いのでギャップがとんでもない。
そういう趣味の人には需要があるのかもしれないので、お兄様の周囲は私が注意して見守らねば。(見守るだけ)
「第五王子は8歳でマリィの3つ上だからロリコンじゃない……ただ手が早いだけだ」
「「「 手 が 早 い だ け 」」」
お父様の言葉に家族皆が私を憐れみの目で見つめてくる。
やめて。
同情するなら金をくれ―――違った、家族のその視線が居た堪れない。
「……お前達が帰ってきて2時間後には王家から求婚状が届いた。緊急用の蠟がされてあったからその場で確認した私の気持ちが分かるかい……?」
お父様、急に10歳くらい老け―――渋くなったような気がしたけど、気苦労からだったのね。うん、ナイスミドルよ。
「王命だと思ってくれ……第五王子は将来的に叙爵して王籍を抜ける事になるから、マリィに公務は無いし、王子妃教育は不要なんだ。だからうちのような子爵家からの嫁取りも認められたんだけど、ランベルト様が王族でいる間は食事会やら王家主催の何やらに出席しなくてはならないんだ。だから早急にマナーレッスンをだね……」
あー、はいはい、わかったわ。
王妃様が私に会う為にそのマナー教室を入れてきた訳ね?
「王族や高位貴族でもないのに、こんな幼いうちからマナーだ何だと窮屈な思いはさせたくなかったんだが」
「マリィは他のお家の子よりしっかりしてるけど、王族と比べられちゃうとねぇ…」
父様母様が溜息をつく。
「王妃様の実子は第五王子が一番下だし、あの方に女の子はいないから、余計にマリィが可愛いんだろうね」
「あら!うちのマリィは王女様より可愛いわよ!!」
お母様が鼻息荒く宣言する。
いやぁ、流石に王女様より、は。
お母様が年齢より若く見えて可愛いから、そのお母様に似た私も可愛い方だとは思うけどね?流石に身内贔屓すぎでは?
「第六王女は8歳でマリィより上だけど、彼女はお生まれが複雑だからさ。ちょっと難しくてね。教育が追いついてないのか…うーん、ランベルト様に懐いてると言えばいいのか、まぁフェルナン様も困っていたから、マリィが加わる事でいい刺激になるかもねー」
えー?
エル兄様、私に何を期待してるの?
子爵家のマリィちゃんが王女様に楯突くなんて出来ないからね?!
第六王女様は本当は国王の子供じゃない、っていうのは全国民が知ってるんだけど、彼女は養子で、本来は王弟殿下の御息女だったのよね。
王弟殿下っていう人は、まー、本当クズ男の代表格みたいな奴で、女癖が悪く、立場を利用して無理矢理…なんてことも日常茶飯時だったらしいの。
で、変態の王弟が狙ってた美少女が辺境伯の娘さんだったんだけど、その子に手を出して妊娠させちゃったもんだから、激怒した辺境伯に責任を取らされて結婚はしたものの、悪い癖は治らず、ある日遊びに出た夜の街で野盗に身ぐるみ剥がされて殺されたみたい。
まぁ惨たらしい殺され方に、怨恨の線が強いって言われたけど、恨みを買いすぎてて犯人が分からないし、王家もそれ以上調べるのを辞めたそうだよ。
んで、心を病んでた王弟妃は、王籍を抜けて実家に戻り、静かに暮らしてるそうよ。良かったね、と言いたいとこだけど、生まれた子供を愛する事は出来ないし、辺境伯家でも憎い男の子を引き取る事は無いって突っぱねたので、王様と王妃様の養子にして引き取った―――っていうのが三年前の話。
何でこんなに詳しいかというと、母様の女子会で話題になっていたのを全部聞いてたからよ!寝た振りしながらしっかり聞いてたのだ。
壁に耳ありお茶会にマリィありよ。
「ルイーゼ様はランベルト様と結婚するつもりだったみたい。昨日も婚約者筆頭って言われてる子とバトルしててさー。フェルナン様が仲裁してる間に、まさかマリィがこんな事になってるとはね」
それでお兄様があそこに来てたのね。
んじゃ、私って逃げてきたランベルト王子に運悪く見つかっちゃったのか……はぁ。
「……マリィ、おとうさまと、おかあさまと、エルにいさまと、サミュにいさまと、みんなでいっしょ、いたい」
せっかく異世界転生したんだもん。
のんびりそれなりの暮らしが出来たらいいのよー!
責任のある立場とか仕事はしたくないんだもん。領主の奥様位ならいいけどさー。
自領を豊かにする程度のスローライフがしたいのよね。ランベルト王子の嫁になっても出来るのかなぁ…。
あー、あの人転生者じゃん!
どういう人生設計なのか確認して、方向性が違うようならバンドみたいに解散って事で……うん。そうしよ。
「―――マリィ!!貴方は何処にいても私達の可愛い娘よ。心配しなくて大丈夫」
お母様にぎゅうぎゅう抱きしめられる。
く、くるしい…。
涙ぐむお父様と、目を潤ませてる兄様達。
皆、任せて!
私、自由を勝ち取ってみせるから!!
―――そう思っていた時が私にもありました。
「いや、駄目だよ。勝ち取れないって。マリィは僕のお嫁さんに決定してるし。僕、これでも中身は大人だから、最悪の手段を取られたくなかったら大人しく結婚してね」
翌日。
朝食食べて一休み、って時間に第五王子がやって来た。いや早すぎるやろ!
お兄ちゃんの第三王子、フェルナン様も一緒だ。
フェルナン様はエル兄様の護衛対象兼お友達なので、お兄様に案内されて行っちゃった。お父様達とお話があるみたい。
私達はといえば、見た目は幼児なので二人で仲良くお茶でも啜ってなさいと(言われてないけど)、庭のガゼボに追いやられた。
話を盗み聞きする気満々でいたら、ランベルトに首根っこ掴まれて連れてこられたんだけどね。八つ当たりを兼ねてランベルトと呼び捨てしてしまおう。心の中だけだけど。(後が怖いから)
仕方ないので昨日の決意を意気揚々と伝えたら秒で断られた。
交渉の余地なし!
しかも何最悪の手段って。
全年齢では言えないムフフな展開ってワケ?!くーっ!
私も中身はアラサー喪女だから展開が読めちゃうのが恥ずかしい!!絶対顔赤い!
なにニヤニヤ笑ってんのよこの王子!
「ちなみに生前は?」
「……32さいこいびとないれきもおなじ、ビーエルもたしなんけど、ゆめじょしじゃないスパダりけいがこのょみのもじょ」
「へぇ~!姉さん女房だ。僕は24歳。社会人になってすぐ、病気が見つかってさ。あっという間に進行して……気付いたら2歳だった」
うう、5歳児口回らない。
頭の中で考えてる言葉が口に上手く伝わらないのかしら。
そして王子、年下だったのか。
うーん、年下スパダリ系も…あり…か?
「何を悩んでるか想像がつくけど、監禁メリバEDが好みじゃないなら僕と大人しくほのぼの領地育成系スローライフしようね」
「ま、まりぃはいせかいグルメをはってんさせたいなぁ?えへっ」
「あざといって分かってるけど可愛いね、僕のマリィは。はぁ……連れて帰って部屋から出したくない……」
「ろ、りょうじょくははんざい。はらぼてエンドもまだむりやから…!」
監禁ダメ、絶対。
油断も隙も無いな、この男。
「らんべると、なにあせってるん?」
物語じゃどうか知らないけど、この世界での貴族の婚約は早くても10歳越えで、平均的に15歳前後だ。
昨日の顔見せはあくまでも顔見せで、あの場で婚約者を決める事はほぼない。エル兄様だって第三王子の友人兼護衛になったのは一年近く前だもの。
そう聞くと、ランベルトは目を大きく見開き、びっくりした様子で「え?」って言って固まった。
「え、えー?マリィ、もしかして知らない?ここって『エターナルガーデン』っていうゲームの世界なんだけど」
「えたーなる、がーでん……?」
「喪女、って言ってたからそこそこ詳しいんだと思ったんだけど……ま、いいや。その話の中で、僕は攻略対象らしいんだ。というか、上の兄も皆対象者で、僕はゲームの内容を知らないからどんな展開なのか分からなくてさ。ただ、主人公が16歳になってからのスタートって事は分かってて、それが今から8年後なんだ」
待って待って。
話の内容分かんないのに、何で開始年齢とか知ってるの?っていうか、何で主人公の年齢で今から何年後か分かるの??
「……ねぇ、それってまさかしゅじんこう……」
「うん。義理の妹のルイーゼなんだよね」
わーお。
いやまぁ血は繋がってない従兄妹だけどもさ。恋愛対象なんだー。
「……そんな目で見ないでくれる?全くこれっぽっちも興味無いからあんな女。あとロリコンじゃないし。で、それを避けたくて君に婚約持ちかけたんだけど、思った以上に面白いし可愛いから、物語開始前に結婚しちゃえばいいかな、って思ったんだよね」
「まりぃちゃん5さい」
「……大丈夫。僕も8歳だし」
それは自己欺瞞というやつでは……
「それ言ったら君もショタコンだよ?」
「わたしたち、3さいちがいのおにあいカップル!」
カップルは死語ですよとか言わない。
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