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ヤブをつついて竜が出た  作者: HAL


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1. 見た目は天使


お久しぶりです初めまして。

小心なので、感想はお手柔らかにお願いします。




 王宮に集められた同年代の子供同士の交流会。

 第一子と違って五番目の王子ともなると、四番目までの王子・王女の会に参加できなかった貴族は少なく、下は男爵家にまで広がっていたので、会場はカオスだった。

 第一王子の時は伯爵家までが許されていたから、それはもうお利口な紳士淑女のミニチュア版みたいな子供しかいなくて、お世話係もびっくりな優雅な会だった、と、会場警備に当たっていた叔父が言っていたので、王位継承が下がっていく程、質が悪くなっていったんだろう。


 当人のせいでは全く無いんだけど、人選はある程度されて然るべき、と思うんだけどね。


 母親を呼んで泣き叫ぶ声。

 おもちゃを取り合って喧嘩する声。

 庭園を走り回り花をブチブチ毟り取る子供に叫ぶ庭師の声。

 エトセトラエトセトラ……


 いやもう付き合わなくていいよねコレ。


 参加賞?だけ貰って帰っちゃおうと、その辺のお世話係の侍女さんに可愛くおねだりする。



「あの、わたし、にぎやかなの、ちょっぴりくるしぃ……もぅ、おうちにかえってもい、ですか?」



 ふわふわウエーブの肩より長いストロベリーブロンドの髪に翠のおめめと同じ色のリボン。クリーム色のワンピースと同じ色の靴を履いた可愛らしい幼女の私(自画自賛)。

 侍女さんの服の袖をピッピ、と少し引っ張って、上目遣いのウルウル瞳で見つめれば侍女さん達のハートを鷲掴み。

 マナー知らずの子供だらけの中で、小さな淑女の私は、まさに『掃き溜めに鶴』な訳ですよ。

 どうぞどうぞ、と、帰りに配られるお菓子を置いた部屋に案内され、好きな物を選ぶようテーブルの前に連れられる。


 色とりどりの包装紙とリボンに乙女心がはしゃぎまくって止まらない。

 お土産のお菓子が詰まった小さな袋。

 子供が好きそうな可愛らしいラッピングに心が躍る。



「……ど、れ、に、し、よ、う、か、な、て、ん、の、か、み、さ、ま、の、い、う、と、お、り、に、か、き、の、た、ね、バ、ラ、の―――」



 小さな声で呟くように歌う。

 指を一つずつ移動させながら選んでいく唱え歌は、古い、日本の伝承童謡。

 前の生の、遠い思い出だ。



「これにしよ」



 指が止まった場所にあったのは、オレンジ色の袋にピンクのリボンがかかった包み。

 可愛い。

 るんるん気分で包みを手に取った。



「へー。君のとこはバラの蕾とかって言うんだ?」


「  」


 

 真横から声。

 気配ゼロのゼロ距離からの声に、驚きすぎて悲鳴も出ない。

 多分10センチ位は浮いた。怖すぎ。

 ギギギと音がする油の切れたゼンマイ人形みたいな動きで横を見れば、金髪に青い目のキラキラした少年―――今日の主役の第五王子(8歳)、その人がいた。



「◯■✕△◆〜〜〜〜〜?!??!」


「ははっ、何を言ってるか分からないけど、良い事は一つも言ってないね」



 爽やかな王子様は、キラキラした笑顔で毒を吐いた。


 え、なに、この人。

 見た目天使のイケメン詐欺?!

 少年の癖に何このビジュアル。

 誘拐されるよ!危ないって!

 いや、それよりもこの口達者な腹黒さオーラがドSな本性を!

 助けて助けて助けて神様!!


 ―――と、いうような事を言ってたので確かに良い事は言ってなかった。



「君、転生者でしょ。しかも日本人」



 ニヤリ、と擬態語の幻聴が聞こえる。

 悪魔、悪魔の微笑みです母さま!



「ピギィ゙!」


「え?何?どんな生物なの君」



 恐怖で奇声を発する幼女に優しくない王子様は、逃亡阻止の為か私の首根っこを掴んでいる。私は猫じゃない。

 はーなーせーぇぇぇえ!!



「僕も転生者なんだ。お揃い、嬉しいでしょ」



 嬉しくないよ!!

 そう言えたらどんなに楽か…っ!


 典型的日本人の日和見主義が発揮された私は引き攣った笑みを浮かべる。

 同じ日本人なら気付や。



「じゃ、今日から婚約者って事で宜しくね。結婚するのは学園卒業後でいいよ」



 なに勝手に私の未来の旦那様(はぁと♡)になってんだゴラァ!!

 いくら見目麗しいイケメンでも横暴は許されませんよー!?

 


「ここに呼ばれたって事は、僕の歳と釣り合いが取れてるんだよ。友達という名の側近候補、婚約者候補として呼ばれてるの」



 状況説明どうもサンクス!!

 でも、あんたの事情なんて知らんがな!

 そう言いたい。

 ビシッと言い返したい!!

 でもそんな事したら『おもしれー奴』としてロックオンされちゃうじゃない。


 いやもう手遅れじゃ?とか言わない。

 言わないんだから!

 私はまだ5歳だもん。政略とか知らないもん!!

 


「……うっ、うっ……ふぇぇん!!おうちにかぇるぅ〜〜!」


「えっ?ちょ、ちょっと?!」


「わぁぁぁん!!」



 慌てふためく王子様。

 ギャン泣きする幼女の声にスタッフ…じゃなかった、侍女さんや警備の騎士さん達がわらわらと集まってくる。



「お嬢様、どうされました?」


「…ふぅ、えっ、えぐっ…おに、さ、がこあい、こわいよぅ…!」



 王子様を指差しちゃる。

 言い間違えのフリでついでに鬼呼ばわり。鬼だ!鬼子だよ!

 5歳児の特権を遺憾無く発揮だ!

 優しそうな侍女さんに抱きついてたどたどしく訴えれば、途端に侍女さん達の厳しい視線が王子様に集中した。



「あ、いや、僕は何もしてな」


「ランベルト殿下、誤魔化すなんて男らしく無いですよ?」



 王子様付きの護衛騎士なのか、色の違う隊服を着た男性がジト目で第五王子を見ている。流石にえぐえぐ泣く幼女パワーにはキラキラ王子様も勝てないようだ。ふふん。



「くっ……泣くのは卑怯だ……」



 ほほほ。

 何とでもお言い。

 いつの時代も女の涙は強いんだから。

 分かったかねショタ王子よ。

 私の相手にはまだ早すぎたわね。



「あれ?マリィ?どうし―――え?!何で泣いてるの?」


「おにいちゃ!」



 王子様が皆から冷たい視線を向けられ、タジタジになっているとこに現れたのは8歳年上の長兄、エルドアン兄様だった。



「だっこ!」


「いいよ。ほら、おいで」



 両手を広げれば笑って抱き上げてくれる逞しい兄は現在13歳。第三王子の学友兼学園内での護衛を務めてるナイスガイ(古)よ!

 私より赤味の強いストロベリーブロンド。熱血感というか情熱屋というか、まぁ性格に似合った髪色をしている。

 13歳で170近くある兄は護衛というだけあって、筋肉のついたがっしりした体格。私如き幼女など簡単に抱えてしまうのさ。お父様はどっちかというと線の細い感じだから…ぎっくり腰とか、ね。うん。

 ん?

 しかしなんでここに兄がいるんだろ?



「へぇ〜、ホント可愛いね。君がエルの妹かな?」



 わー、またキラキラオーラの人が来たよ。色味がランベルトにそっくりだし、お兄ちゃんと親しげだから、護衛の第三王子かな?



「ラン?駄目でしょ、こんな可愛い子泣かせちゃ」


「兄上、誤解です」


「泣かすつもりじゃなくても、女の子を追い詰めた事に違いないでしょう?」


「………」



 おお。

 腹黒王子(仮)がやり込められている!

 この兄も見た目優男な割に強いな?



「ごめんね、マリィ。君を好きすぎてちょっと暴走しちゃったんだ。許してくれる?」



 兄に抱っこされているので、王子様は私を見上げる感じで言ってくる。

 たかが子爵家の私にここまでして、と絆されそうになったけど、好きとかいうパワーワードは不要だぞ?私は静かな人生を送りたい。王子妃とか面倒すぎる。


 てかこいつ、ドサクサに紛れて私を愛称で呼んだな?

 いやまぁ名前教えてないから仕方ないけど。



「……わかた。もう、いじめないでね?」



 仕方ない。

 ここは私が大人になって折れてやろう。



「!ありがとう!マリィ!僕の愛しい子!」


「ふ?―――んう?っ!!?」



 王子は私の顔を両手で固定して『ぶっちゅー!!!』と、それはそれは熱いキスをかましてくれやがりました。

 抱っこによって背の位置が近くなっていたのが敗因です。



「うおおおい?!待ったー!何してんですかうちの妹ですよ?!!!」



 一番先に我に返ったのは兄だった。

 慌てて王子(の唇)から引き離してくれたけど時すでに遅し。マリィちゃんのファーストキッスはこの変態王子に奪われてしまいました!!しかもちょっとベロ入ってたわふざけんなこちとらまだ5歳ぞ!



「ちょっと!何やってんのランベルト!そんな事したら……!」



 兄王子も弟王子を私から引き離してくれたけど、弟の行動に激しく動揺している。

 そりゃお兄ちゃんっていってもまだ子供だもの。8歳の弟の接吻がオトナのキスじゃ慌てもするわ。

 兄王子のキョドりっぷりに何を言うでもなく、第五王子は私の前に跪いて、全乙女の憧れのセリフを宣った。



「―――マリィ、君をずっと愛すると誓います。僕と結婚して下さい」



 オワタ。

 私の人生、詰んだ。


 キャーという声は侍女さん、付き添いの母親達。どっから見てたの。

 うおって野太い声は警備の騎士さん達。 

 お兄ちゃんSは衝撃で口を開けたまま。

 子供達は何も分かってない。


 ああお父様お母様。

 貴方達の娘は5歳にして傷物になってしまいました。



「―――なんの騒ぎですか」



 凛とした、それでいて艷やかな声色。

 よく通るその声に場の空気が凍る。

 人がさざ波のように引いて道が作られ、そこを映画祭のハリウッド女優の如く現れたのは―――



「母上」


「……この状況は?フェルナン、答えて」


「はい。ランベルトがそこのハイド子爵家の少女を泣かせ、接吻し、傷物にした責任をとる為に婚姻を申し込みました」



 上司への報告かな?

 それより、このハリウッド女優…じゃなく、いかにも高貴な女の人は。



「痛っ!!」


「……お嬢さん、お名前は?」


「……マリエッタ・ハイド……です。おはつにおめにかかります、おうひさま」



 第五王子に取られた手をはたき落とし(王子の手を)、女性は私の手を両手で包んだ。



「まぁ!ご挨拶も上手ね、マリエッタちゃん。暴走息子が本当にごめんなさい。貴女みたいな可愛くて礼儀正しいお嬢さんがお嫁さんに来てくれたらとぉっっても嬉しいわ!……でも、この顔は良いけど粘着質なバカ息子がどうしても受け入れられないなら、私の力で何とでもしてあげますからね。遠慮なく嫌と言ってちょうだい」


「母上!!」



 顔色を悪くして慌てる第五王子にちょっと胸がすく。

 権力には権力で返すのよー!と、ニヤけたい気持ちを抑え、兄の抱っこから下ろしてもらう。さぁ、5歳児のあざとさ最大級の笑顔で王妃様の心を鷲掴みよ!!



「ありがとございまし、ます!おーひさま」


「〜〜〜〜か、かわいいわ!!ね、ね?おかあさま、って呼んでちょうだい?!遠慮しなくていいのよ!」



 あっ…

 やりすぎた。

 王妃様が私の魅力にメロってしまった!

 

 そんなハイテンションな王妃様に抱きしめられ、意識を飛ばしてる私を取り返したのは第五王子だった。



「母上、言ってる事が真逆ですが、マリィが『お母様』呼びするのは賛成です。僕のお嫁さんとしてですが」



 ぎゅうぎゅうな圧迫から助け出されたのは感謝だけど、結局あんたの嫁になる将来からは逃げられないんかい!

 でも美少年にいいこいいこで頭を撫でられるのは嫌いじゃない。

 ……ううん、

 


「ぅ……しゅき…」


「え?」



 あ!しまった!!

 心の声が漏れた!!!



「僕も大好きだよ!マリィ!大切に、ずっと、一生、いや死んだ後も大切にするからね!!」



 いや、重すぎる。

 何なの死んだ後もって。



「今日から僕の宮殿に住もうね。大丈夫、第五王子と言っても十分な広さは戴いてるから」


「何を言うの、ランベルト。同じ部屋に住まわせるはず無いでしょう?ちゃんとマリエッタちゃんの部屋を整えなくては。好きな色はある?女の子だから淡いピンクがいいかしら」



 方向は違うが盛り上がる母子に言葉が出ない。

 どうしよう。

 暴走する二人を止めらんない。

 


「あの、お二人共。一応そういうのは家を通すのが決まりなので」



 コホンと咳払いをして二人をハッと正気に戻してくれたのは兄だった。



「あと普通に考えて5歳のマリエッタが嫁に行って王宮に住む事は無いです。それでは御前、失礼致します。行くぞ、マリエッタ」


「「あっ…」」



 気丈な兄に抱き上げられ、私は魔の手から逃れる事が出来た。

 ドナドナされていく私は兄の背中から、呆然と見送る第五王子、ランベルトを見つめる。


 うん。

 将来絶対超絶イケメン。

 でも貴方は激重執着系腹黒ドS王子(予定)。


 人前でディープキスと求婚をかまされた私が逃げ切る事は出来るのか。

 いやぁ…転生者である以上無理だよねー。幼さ故の過ち、とかじゃないもん。同郷者への執着だもんさー。

 今日初対面の幼女に無茶言うよね。

 身分の差も、向こうが政略とか影響しなさそうな第五王子って所が……うちにお婿に来れなくても、伯爵位くらい貰って王籍抜けそうだし。

 深く考えたらハゲそう。

 5歳の私には未来はまだまだ先だし、ここは大人に考えてもらうって事でいいか。


 こうして私は思考を放棄し、捨てられた犬みたいな顔するランベルトにニコニコ手を振った。途端に顔を真っ赤に喜色に染めた彼が大きく手を振り返してくれる。

 

 天使なんだよなぁ―――顔だけは。


 そんな事をつらつら考えてたら、いつの間にか眠ってしまい、起こされた時には夕食の時間が過ぎていた。


 危ない危ない。

 育ち盛りだからね。ご飯はちゃんと食べないと。ナイスバディになれないわ。


 まだまだ恋より食欲の5歳児の私は、今日何があったかなんてすぱーんと忘れて、夕食のメニュー何だろうとかしか考えてなかった。





5歳児ってそんなに赤ちゃん言葉じゃないよね…?

舌っ足らずな声だけど。

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