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第十二話「イケメンは」

「あぁ、なんて美しいんだ。まさかこんなところで勇者様一行と出会えるなんて。これはまさに運命!!」


 そろそろ大きな街に到着しようとしていた頃。

 進行方向からイケメンパーティーがやってきた。

 金髪イケメン。

 めがねイケメン。

 たれ目イケメン。

 おうおう。イケメンが雁首揃えてよくもまあ。


「どうでしょう? この出会いを祝して、お茶でも」


 と、たれ目イケメンが言い。


「個人的に、勇者様達の話には興味があります」


 続いてめがねイケメンがくいっとめがねの位置を直しながら言う。

 勇者達をナンパか。

 さすがはイケメン達だ。勇気があるな。

 もし俺がなんの関わりのない一般人だったら、話しかけることすら躊躇うだろうな。


「お誘いはありがたいけど、あたし達は急いでるから。それに、そっちもこれからどこかに行くんだよね?」

「いえ。大した用事ではありません。美しいあなた方と出会いと比べれば」


 くせぇ、こんな台詞よくもまあ言えるもんだな。


「賢者様。ぜひ、あなたのお話を」

「え、えっと」

「聖女様も、ご一緒に」

「丁重にお断りするわ」


 しつこい奴らだな。

 どうせあれだろ? 自分達は一度もナンパに失敗したことがない。例え勇者達だろうと成功するという自信があるんだろうな。


『なにをしているんだ、こいつらは』


 うわ、出たよ。

 前と比べて、更に用心深く話しかけるようになった魔王クローティア。何度も何度も、ファナ達に気づかれないように俺を実験台にして調整していた。

 その結果、最初よりは簡単に気づかれないまでに。


(なにって、ナンパだよナンパ)

『ナンパ。なんだそれは』


 知らんのか、この魔王は。


(ナンパってのは、異性相手に欲望のまま話しかけることだよ)

『なるほどな。確かに、あいつらからは強い欲望を感じる。だが、んなことをして何が楽しいんだ? 人間ってのは本当にわかんねぇな』

 

 とか言っているが、今お前が俺に対してやっていることもあいつらと対してかわらねぇんだけどな。

 

「おい。イケメンども。俺達は急いでるんだ。邪魔だから、さっさと退け」


 別に三人がナンパされているのを見て嫉妬をしたわけじゃない。ただ単純にイケメンが嫌いなだけ。

 そんなイケメン達は、俺が前に出ると明らかに態度が変わる。


「勇者様。この男は?」


 清果に話しかけていた金髪イケメンが俺のことを睨んでくる。

 

「あたし達のパーティーメンバーだよ」

「なるほど。そうなると、この方も相当な実力者、ということですね?」


 まあ、勇者パーティーに参加しているんだから、普通はそういう風に考えるわな。


「別に。俺は凡人だ。そこまで強くねぇよ」


 謙遜ではない。俺以上に強い奴なんて数えきれないほど居るだろうからな。


「そうね。クルートは、この中では最弱ね」


 本当のことだが、ファナに言われると無性に腹が立つ。


「でも、すごい頑張り屋なんだよね」


 フォローしてくれているんだろうけど、相変わらず姉視線なんだよな……。


「それに、とても優しいんです」


 リオ。それは嘘だ。いったいいつ俺がお前に優しさを見せた?


「なるほど。信頼されているんだね、君は」

「いや、別に」


 というか、ファナの言葉を聞いていなかったのか? このたれ目イケメンは。


「では、君もどうですか? 君の話も聞きたいのですが」

「いや、だからこっちは急いでるんだって」


 本当にしつこいな、こいつら。


「そんなことを言わずに」

「お時間はとらせません」


 しょうがねぇな。


「【筋力低下】」

「なっ!?」

「急に力が……」

「き、君。いったいなにを」


 筋力が低下したことにより、俺の目の前で膝をつくイケメン達を見て、俺はにやりと笑みを浮かべる。


「しつこいお前らが悪い。言っておくが、俺だったからこれで済んだんだ。もし、これがそこに居る暴力聖女だったら、この程度じゃ」

 

 ゴッ!


「ごはっ!?」


 衝撃。

 背後からの強烈な一撃を食らった俺は、意識が飛びかけた。


「クルート? どうしたの? クルート? 大変だわ。早くクルートを休ませないと。急ぐわよ、二人とも!」

「え? あ、うん」

「は、はい」


 こ、この……お前は暗殺者かなにかか。イケメン達に気づかれないように、それでいて俺の意識を中途半端に残すような打撃を与えるとは。


「それでは、ごきげんよう。それとこれは忠告よ。あまりしつこいと人によっては痛い目に遭う。覚えておくように」

「は、はい」

「わかりました」

「ご忠告、ありがとう、ございます」


 イケメン達は、完全に何が起こったのか理解していないようだ。こいつらからしたら、俺が急に気を失ったように見えていただろうな。

 その後、俺は清果に背負われたまま新しい街へと到着したのだった。覚えてろよ……ファナ。

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