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神様遊戯~光闇の儀~  作者: Riviy
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第三十七ノ契約 暗闇の恐怖



その時、バンッ!と大きな音が響いた。何事だと全員一斉にその方向を向く。その方向はステージ上で、スピーカーが倒れている。大方、振動かぶつかって倒れたのだろう。誰もがそう思った、次の瞬間にはその安着な考えは吹き飛んでしまった。


「モノノケが出たぞぉおおおおおおお!!!!!!」


マイクを通して叫んだような、低く遠くまで響く声。その声はステージ上から響いていた。叫んだ人物の表情は遠目からでも分かるほどに恐怖で歪んでいた。それと同時に辺りに響き渡ったのは刃音。そこで理解した。戦っているのが誰か、()()()此処にいるのは誰か。これは嘘ではない、現実で日常茶飯事。嗚呼、なんでその事実を本の少しでも忘れていたのだろう。だって、この世界は()()()()()んだ。そして、その恐怖を人々は正確に、慎重に、確実に理解した。途端、夏祭りを楽しんでいた人々は巨大な恐怖の波となって我先にと逃げ始めた。足元にあるものを蹴飛ばし、テーブルを踏み越え、逃げる際に転んだ人を追い越し、モノノケが出たと思われる、刃音がした方向から人々が逃げ惑う。まさに、地獄絵図だった。


「慌てず、こちらに逃げてください!」

「こっちです!」

「助けてっっ!」

「うわーん!ママーどこぉー?!」

「早く!こっち!」


そうして、まさに阿鼻叫喚。巡回中だった八咫烏警備隊数名が一般人の避難に回るが人々は恐怖に支配されてしまい、聞いているのかさえあやふやな状態だ。だが、神社の敷地から逃がそうとしていることだけは八咫烏警備隊も人々も正解だった。大勢の人々の波にもみくちゃにされ、親とはぐれてしまった子供の泣き声や悲鳴が響く。八咫烏警備隊の「こっちです!」と声を張り上げた誘導指示に少しずつ全員が従う。哉都達ももみくちゃに揉まれながらも逃げようとした。その時


「?!キャッ」

「り、リン!」


人波に揉まれ、鈴花が反対方向に流されてしまったのだ。浴衣なため、いつも以上に動きが制限されている。ついでに下駄だし余計に。人波に踏ん張れなかったようだ。反対方向に流されて行く鈴花に国久がいち早く気付き、人波をかき分け、その手首を掴んだ。


「ごめん、ちょっと我慢して!」

「え!?わっ」


鈴花の手首を掴んだ国久はそのまま彼女を人々の中から引き上げると鈴花を横抱きした。所謂お姫様抱っこだ。だが今そんなことで惚けている場合じゃない。国久は鈴花を抱えたまま、人波を逆走し、哉都達がいるところへと向かう。哉都は国久が飛び込んで行った瞬間に、少しだけ名残惜しそうにしていたが着物に姿を変えた刻によって先程まで楽しそうに賑わっていた金魚すくい屋の中に押し込まれていた。もちろん、軍服になった茶々もだ。巨大な邪魔物がある場所を逃げ惑う人々がわざわざ通るとは考えにくい、と云う事からだったと言うのは哉都にも分かった。だからこそ、八咫烏警備隊の苦労が水の泡になった事も理解出来た。


「あちゃー情報伝達が上手く行かなかったパターンだね!」

「八咫烏警備隊の次なる課題だな」

「おい二人共!悠長に分析してる場合か?!」


そう、多分二人の言う通り情報伝達が上手く行かず、このような騒動になったのだろう。それもしょうがないと言えばしょうがないかもしれない。一歩間違えれば死ぬのは自分なのだ。さっさと逃げたくなる気持ちも分からなくはない。すると、鈴花を横抱きした国久が三人に合流した。既に鈴花は右へ左へと揺れ動く国久の腕の中でなにやら疑問があり思考を開始したらしく、小さくぶつぶつ言っているのが聞こえる。


「さすが国久!中学、柔道やってただけある!」

「それ今云う!?ていうか、早く逃げよう!」


ぶつぶつ言う今の鈴花には何を言っても多分無駄だと判断した国久は叫ぶ。それに哉都も頷き、刻を見上げた。刻は哉都の瞳と視線を受け、頷くと人々の群れを振り返った。夏祭りと休日と言うこともあってか人の波は途切れる事はない。その分、八咫烏警備隊の声がよく聞こえる気がする。ほとんどが神社の敷地から逃げたようで先程よりも刃音が大きく響き渡り始める。倒すか弱らせている間に静かに逃がそうという作戦だったのだろうと分かる。哉都達は人波に紛れるように波に飲まれる。このまま彼らと同じように神社内から脱出したいものだが……


「ねぇ、可笑しいと思わない?」

「何が?鈴花?」


突然、国久の腕に抱かれたまま鈴花が言った。その声は何処か沈んでいるように聞こえてしまい、哉都達にさざ波のような緊張が走る。国久は鈴花を素早く下ろすと彼女は浴衣の裾を両手で捲り上げ、今度こそ準備万端だと言うように胸を張る鈴花に刻が苦笑しつつ、手を添える。哉都達も仕方ないとは言え、浴衣から見えるいつもと違って見える足に軽く目を逸らす。足元を解放した鈴花は意気揚々としているように見える。国久がずっと抱えてれば……いや無理か……?てか、そうじゃなくて!


「鈴花、可笑しいって何がだよ?」


走りながら哉都が訊くと鈴花は少しだけ声を潜めて言った。


「八咫烏警備隊の強制召集アレがあった後にモノノケって、なんか変な感じがして」

「そうかい?そういうこともあると思うよ?」

鈴花リンちゃん考え過ぎじゃない?」


刻と茶々の言葉に鈴花はまだ納得が出来ていないようでうーんと悩んでいる。確かに二人の言う通り、偶然ではあるが考え過ぎにも思えてしまう。だが、長くとも短くとも鈴花の勘や考えがよく当たる事は全員分かっている。だからこそ、それを片隅に置いておく。いつになるか、分からないから。


「鈴花、フラグじゃないのかぁ?」

「違うわよ!……まぁ杞憂なら良いんだけどね」

「……って、なんか羽音しない?」


その時、茶々が上を見上げた。哉都達は数十分前まで食事をしていた休憩スペースまで戻っていた。茶々の怪訝そうな表情と頭上を見上げる視線に刻は瞬時に薙刀を出現させる。それを一瞥した哉都は人知れず冷や汗をかいた。鈴花が感じた違和感、上手く行かなかった情報伝達、八咫烏警備隊。嗚呼、鈴花みたいに頭はよくないのにこのあとの展開が容易に想像出来てしまう自分に嫌気が差す。それは国久も、ある意味フラグを建てることになってしまった鈴花も気づいていた。いや、きっと、()()()()()()()


「っ!みんな下がって!」

「え、ちょっ……一体何?!」


突然、上を見上げていた茶々が哉都達を後方に押し下げた。なんだなんだと混乱したまま、茶々の言う通り後方に下がると入れ違いになって刻が薙刀片手に前に踊り出す。その時だった。バサッ!バサッ!と羽音が響いたかと思うと頭上から凄まじい風圧が彼らを襲った。思わず顔を覆えば、周囲の出店のテントや木々が風に悲鳴を上げる音が異様に大きく響き出す。そうして二人の『神の名を冠する者』の前に、テーブルの上に降り立ったのは夜の闇に溶けてしまいそうなほどに真っ黒な出で立ちをした人物だった。いや、ただの人物ではない。頭上から舞い降りて来た時点で普通の人間だったら驚く。こんなところでサーカス団員にような事は出来ないはずだし。人物は背中から黒い翼を生やしており、格好は先程も言ったように真っ黒で山伏が着るような服装に身を包んでおり、足元が下駄。体格から見て多分女性だ。此処までくれば確実に分かる。烏天狗だ。だが何故、妖怪というかそんな人物が此処にいる?八咫烏警備隊が相手をし、報告したのはモノノケだったはず。まさか、モノノケが高い知能を付け、神王・神姫のように完全なる人型になったとでも言うのだろうか?


「(……あり得ない話じゃない)」


モノノケではない強者、『神祓い』を考えみればあり得なくはなかった。茶々の背後から哉都は烏天狗を注意深く観察する。このようなモノノケーかも不明だがーは情報にはないようで鈴花はしきりに首を捻り、そんな二人を国久は心配そうに見守っている。哉都と鈴花が飛び出していかないか不安なのだろう。まぁ、分かるが。刻と茶々の射ぬかんばかりの視線と鋭さ、そして殺気に烏天狗は微動だにしない。顔は烏の仮面で覆われているため表情さえも読み取れなくて、なんだが怖い。それを感じ取ったと言わんばかりに突然、烏天狗が喋り出した。


「嗚呼、嗚呼、嗚呼!!愚か!なんて愚かなことかっ!死ぬ定めであるにも関わらず、抗い抗い抗い抗い抗い抗いっ!!この世界を支配するのが誰かも知らずに!この世界を支配するのが誰かも知らずに!ハハハハハハッッッ!!」

「……なんか分かんないけど狂ってるのは分かる……」


甲高い、まるで黒板を鋭い物で引っ掻いたような不快な声を響かせながら、烏天狗は狂ったように笑う。ポツリとツブヤイタ国久に哉都と鈴花は同意を示すように頷いた。烏天狗が何を言っているのか、検討もつかない。だが、これだけは分かる。こいつは、俺達の敵だ。


「さあさあさあさあさあっ!!死になさい?」


仮面の下から烏天狗がニヤリと狂喜的に笑ったのが分かった。途端、烏天狗の周囲にモノノケが出現する。まるで影のような真っ黒な色をした、スライム状のモノノケだった。ぐにゃぐにゃ動くその姿が烏天狗と相まって不気味だ。すかさず武器を構えた二人を嘲笑うかのように、トンッと爪先で軽くテーブルを蹴ると烏天狗は凄まじいスピードで刻に向かって飛行した。ガッと鋭く尖った下駄の底で刻に蹴りかかるが刻は寸前に薙刀でそれを防ぎ、上空へと弾き飛ばす。それが合図だと言わんばかりにスライム状のモノノケが一斉に哉都達に襲いかかる。中には逃げ遅れた人々にも襲いかかる始末で、再び周囲は阿鼻叫喚と化す。避難誘導していた八咫烏警備隊も応援にかけつけてはモノノケを切り倒しているが、上空から烏天狗が翼で放つ風圧がなんとも邪魔だった。


「主君!二人と隠れてておくれ!」

「こいつら倒さないと進めないじゃん!」


武器を握り締める二人から更なる殺気が立ち込め、哉都は思わず身を震わせたが、力強く頷いた。


「無理すんじゃねぇぞ!」

「そうよ!花火見るんだから!」

「危なくなったら逃げるんだよ!?」


哉都達が二人の背後で叫ぶ。それに二人はクスッと顔を見合せ、


「主君の仰せのままに」

「了解!主様!」


そう答えた。それを聞き、哉都達は何処か安全な場所がないかと辺りを見渡す。が、何処もモノノケと逃げ惑う人々の群れで安全な場所など何処にもないように見えた。が、その時、


「え?!」

「なに?!」


ガシッと国久が二人の手首を掴んだ。そして一直線に何処かへと向かって駆け出す。二人は困惑しながらも国久の誘導に従う。とたどり着いたのは大樹だった。だが、ただの大樹ではない。古びた白い縄が幹に付けられた、この神社の御神木とでも言われるほどの樹齢数千年の大樹だった。何故、そんなところへ?と首を傾げていると、どうやら周囲にモノノケが寄って来ていないらしい。モノノケは大樹に視線をくれるが、嫌な物でも見たと言うようにすぐに視線を戻す。つまり、モノノケの眼中にない。と言うことは。


「鈴花の勘、当たっちゃったな」

「……嬉しくない」

「でも、心構えは出来るよね」

「今度こそは正確に……!」

「「何処を狙ってるの鈴花!?」」


国久が見つけた安全地帯ー恐らくーに滑り込みながら哉都が云うと不機嫌そうに鈴花が言い、二人からのツッコミが飛んだ。

次回は木曜日です!……少しゆっくり行きましょうかね……

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