第一章13 『過去とプロポーズと○○と』
「今日に決めた!」
ずっと計画してきた。この日の為だけに。空を見る。彼女が好きだと言っていた星空と綺麗な満月。こんな日にプロポーズをしようと前から決めていた。
「あぁーー! 緊張する」
初めて自分の店を持つことになったあの日、何か店内に飾ろうと立ち寄った花屋で彼女に出会った。一目惚れだった。
「服装はこれでいいかな? いや、駄目だ! どうしよう」
いい歳した大人がって周りには笑われるかもしれない。でも、彼女を見た時に本当に感じたんだ。身体中が震えるような感覚。胸の奥から温かい何かが染み渡っていくような。
「これでよし! …………多分」
それから、何度も花屋に寄って顔を覚えて貰って、一緒に遊びにいったり、デートしたり、一緒に楽しい時間を過ごした。そんな時間は彼女が恋人になってからも変わらなかった。
「指輪は? よし、あるな! 後はあの花も……」
彼女が好きだと言っていた花。白い特徴的な形をしているその花は、僕には何だか不気味に見えた。その話を彼女に直接した事もあったけど、それを聞いた彼女は笑いながら、でも素敵な花なんですよ? なんて言ってたっけ。
「よし、いくぞ!」
今日は一緒に夜空を山に見に行く予定だったけど、ここまで条件が揃う日なんて中々ない。夜空には満天の星に綺麗な満月。手元には彼女の好きな花、指輪もバッチリ。呼び出しに応じてくれた彼女を前に伝える。
「結婚して下さい……」
緊張で胸が張り裂けそうになる。一秒が一分にも一時間にも感じられそうな程に長く感じる。頬が真っ赤になってないだろうか? 見た目は大丈夫かな? なんて、今更気にしても仕方のない事が頭の中でグルグルと回る。だが、返事はすぐに返ってきた。
「はい!」
何の迷いもなく、ただただ嬉しそうな表情で彼女はそう答えてくれた。涙が自然に出てくる。それを見た彼女は困ったように笑いながら、一緒に寄り添ってくれた。
人生最大の幸せな日……
あの日、あの場所での出来事は人生で二番目に幸せな日だった。今もそれは変わらない。目を閉じればすぐにでもあの光景を思い出す。ただ一つだけ違うことがある。
彼女はもう隣にいない……




