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第一章12  『ナイフと執着と○○と』

 


「いやあぁぁぁぁーーーー!!」


 私の悲鳴が路地に響き渡る。自分の耳すら壊しかねない程の叫びで目の前が真っ暗になる。見えていたのに止められなかった。気付いたのに助けられなかった。私は何て無力なんだ……


「ライ……」


「なんにゃ?」


「えっ!?」


 私の涙で歪む視界に、ライが顔を覗かせる。


「なん……で……?」


「何ではこっちの台詞にゃ。何でドロシーは泣いてるにゃ?」


 ライの体を確かめるように触る。


「ちょ! やめっ! くすぐったいにゃ! にゃははは」


 胸を触るがそこにはナイフなど()()()()()()()()()


「マジで何処触ってるにゃ! ショタコンからケモナーに転向かにゃ?」


「誰がショタコンよ! ケモナーでもないわよ!」


 私をからかう様子もライそのものだ。安心してその場にへたり込む。


「ドロシー本当にどうしたにゃ?」


(夢でも見てたの?)


 そう思えるほど不思議な状況だった。おかしな点は他にもある。

 あの時ハッキリとナイフを投げる音が聞こえたのに、私より耳がいいはずのライは全く反応していなかった。足音だけで大まかに人数を把握出来るライに、その音が聞こえない訳がない。

 そして何より疑問なのが、電気駆動(エレクトロドライブ)を使っていたにも関わらず、ナイフを止められなかった事だ。

 電気駆動は身体中に電気を纏い、身体能力を何倍にも上げるシンプルな魔法ではあるが、ナイフに気付いてから反応するには十分過ぎる程だ。だが、あの時掴めるタイミングだったはずなのに、ナイフは手元をするりとすり抜けた。


「あの、ドロシーさん?」


 考え込む私に、まだライに抱えられたままのエン君が声を掛ける。


「うん? 何?」


「これ……」


「えっ?」


「いつの間にそんな物騒な物手に入れたにゃ?」


 エン君の手には銀色に輝くナイフ。あの時、紛れもなくライの胸に刺さったように見えたあのナイフだった。


「飛んで来たんで止めました」


「止めた?」


 この子は身体能力を何倍にも上げても止められなかったナイフを、魔法も使わずに止めたというのか。驚きと共に感謝が溢れて来る。


「ライを守ってくれて、ほんっとーーーにありがとう」


 エン君を感謝の気持ちを込めて抱き締める。


「い、いえ……良かったです」


「エン、顔が真っ赤にゃ!」


「ライ! あんたもお礼いいなさい!」


「えっ? あ、ありがとにゃ」


 未だに自分が死にかけてた事にも気付かず、きょとんとしながらお礼を言うライ。


「あっ! ドロシーさん、ライさん、さっきの二人が!」


「えっ?」「にゃ?」


 いつの間にか私達が倒して引きずっていた黒ずくめの二人が消えていた。いくら混乱していたとはいえ、気絶していた二人が起きて逃げていくのに気付かないだろうか?


「これは何かがありそうね……」


 私たちを襲ったナイフと黒ずくめの集団。彼らの目的は何なのか?








 暗い路地裏の一角に、四人の黒ずくめ集団がいた。


「なぁ? おかしいよなぁ?」


 二人は気絶でもしているのか、地面に寝転がっている。残りの二人が、屈んだまま見下ろす形で、地面に座り込む片方の耳元に囁いている。


「おれぁ、手伝ってやったよなぁ? 二回も! 二回も! なのに何でこんなことになってるんだぁ?」


「あ、あいつら魔ノ者と契約してて! えっ?」


 トスと男の足にナイフが刺さる。まるで刺さるまで気付かなかったとでも言うように、地面に座り込んでいた男が遅れて叫び声を上げる。


「そういう事をおれぁ聞きたいんじゃないんだよぉ!」


「あぁぁぁぁぁ!! じゃあ、な、何を?」


 痛みを堪えながら男が聞き返す。


「なんでぇ、ここにあの三人がいなくて、二人はやられちゃってんのぉ?」


「だから魔法で……」


 ドンという大きな音と共に、座っていた男が片手で地面に顔ごと叩きつけられる。


「それを何とかするのがぁ? 君とあいつらの仕事でしょぉ?」


 空いた片方の手で気絶している二人を指している。地面に押さえ付けられている男は既に半泣きになっている。


「まぁ、いいやぁ……」


 そう言って屈んでいた男が立ち上がる。


「おれのナイフを軽々止める少年にぃ、珍しい毛色の獣人にぃ、いいもの沢山見れたからなぁ…」


 かなり長身な男が楽しそうにしている。


「おれぁ、一度手に入れると決めた物には執着するからよぉ……」


 ニタァと下卑た笑いをしながら男が言う。


「待ってろよぉ、すぐに手に入れてやるからなぁ……」


 男の手元には銀色に光るナイフがあった。

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