入学式の次の日のこと 4
今にも殴りかかってきそうな三人組に、花音は気だるさを感じながら、言葉を発した。
「あー、すみません。そこに突っ立ってるゴボウ野郎が、私の兄でして」
そう言って花音が指さした方向にいるのが、大地であることを確認した三人は、すぐにその顔に嘲笑を張り付けた。三人組はズカズカと花音に歩み寄り、花音を見上げた。三人が三人とも、揃いも揃って花音より背が低いので、そういう形になっている。
そんな、偉ぶっても偉ぶりきれない三人組は、それでもふんぞり返った。
「へえ、お前もくそ藤堂の子供かよ。そりゃいい、お前も俺らに貢げや」
その言葉に、三人組以外のそれぞれがそれぞれの反応を示した。
大地はしまった、と嘆き首を振った。青い髪の少女は二人が藤堂家の者だと知り、驚いてこけそうになった。そして花音は、電柱に止まっていた鳥たちが命の危険を感じて飛び去って行く程度には、怒っていた。だが、自分に酔いしれている三人組は、それに気づかない。
「へえ、くそねえ。くそか······」
花音がぼそっ、と呟いた。その不穏な雰囲気に、三人組の一人が不思議そうに花音を見て、顔を引きつらせた。だが、板野というリーダー格はまだ花音の様子に気付かない。
花音は言葉を繋げる。
「ごめんなさい。私は、そこの馬鹿兄と違って、あんたたちみたいな、くそ野郎の言いなりになる気はないの」
自分たちが馬鹿にされたのだと理解するのに少しかかった三人組は、少しかかった分怒りの度合いも凄まじく、顔を真っ赤にして殴りかかってきた。
花音はというと、怒りながらも冷静に、正当防衛が成り立ちそうなことを確認していた。
板野少年の拳が今にも花音に迫ろうとしていた時、花音の超能力が発動した。
爆風が発生し、三人組が吹っ飛ぶ。地面にたたきつけられた三人は、すぐに上半身を起こせたのはよかったものの、何が起きたのか分からず、きょとんとしている。そして、爆風でスカートがめくれないように、しっかりと手で押さえている花音の周到さは、目を見張るものがあった。
状況を理解しないままで座っている三人組に花音がつかつかと近づいていくと、先ほどまでの怒りが再発したのか、板野少年は飛び起きた。そのタイミングで、花音がパチン、と指を鳴らした。瞬間、板野少年の髪が燃え上がる。板野少年はしばらく喚いたあと、パタンと倒れた。それを見ていたもう二人は、すっかり戦意を喪失させたようだった。
「ふう、一件落着ね」
花音はふっ、と息をついた。気付くと、周りを歩く生徒の数もまばらになりつつあった。こいつらの後始末なんて面倒なことは、大地に任せよう、と決め、花音はへたり込んでしまっている青い髪の少女に近づき、そっと手を差し出した。
「大丈夫?立てる?」
花音が声をかけると、放心状態だった少女ははっ、と覚醒し、
「だ、大丈夫です!」
と返した。その、明らかに緊張している様子に花音は苦笑し、
「あー、同学年なんだし、別に敬語でもいいわ」
と言ったのだが、
「で、でも、藤堂家の人にそんな、敬語以外なんて使えません!」
と断られた。
「まあいいわ。あなた、名前は?」
「瀬織美雨っていいます」
「瀬織さんね。さっきの風で怪我とかしてない?一応コントロールはしたつもりなんだけど」
「全然、大丈夫です」
そう言って、腕を振り回す美雨に、花音は再び苦笑する。だが、
「それより、さっきの、すごかったですね!どんな能力なんですか?」
という美雨の言葉に、その顔は引きつった。花音は、自分のたいそうな能力を、人に言うのは、あまり好きではなかった。これまで花音の能力名を聞いた誰もが、同じ反応を示したからだ。
なので、
「うーん······教えてほしい?」
と、精一杯教えたくないオーラを出したのだが、
「はい!」
と、美雨に興味津々な顔で頷かれてしまい、花音はため息をついて、仕方なく答えた。
「えっとね、言葉にすると難しいんのだけど」
「はいはい」
「火と水と風と電気を自在に発生させて操る能力、かな…」
「はいはい······えっ?」
その美雨の、感心というよりは、驚きを通り越して呆れたというような顔を見て、それ見たことかと花音は頭を抱えるのだった。
ともかく、これが、花音と親友美雨の出会いとなったのである。