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入学式の次の日のこと 3

 花音たちが電車に乗り込んでから二十分。

 『鳳凰学園前、鳳凰学園前です』というアナウンスが流れ、花音たちはホームに降りた。花音は、ホームにいるほとんどが鳳凰学園の生徒であることに、驚きを隠せなかった。さすがに、エリート校の生徒たちだったので、騒いだり広がったりして通路の邪魔をすることはしない。だが、この人数ではどのみち邪魔だろう、と花音は思った。


 生徒たちの流れに任せて、花音たちは改札を通り、通学路に出た。鳳凰学園前駅という名前ではあるが、駅からは少々歩かなければならない。


 生徒の中に見られる新入生の顔は、やはり緊張して見えた。中には、当然名家の出身の者もいるのだろうし、家の名を汚してはならないというプレッシャーを感じてもいるのだろう。花音とて、藤堂が今更子供の不祥事でどうこうなるレベルの家ではないので、その手の心配はあまりしていないが、自分が藤堂家の者でなかったら、気苦労が絶えなかっただろうと思う。


 花音が隣で、かまってほしそうな兄を放って、人間観察をしながら歩いているうちに、校門が見えた。駅から校門までの間も、当然のように好奇の目にさらされ、疲れ始めていた花音は、早く教室に行って休もうと、自然早足になった。その後を、大地が息を切らしながら追いかける形となる。


 ところが、早くなったはずの花音の足が、徐々に遅くなった。花音の視線の先には、こちらに向かって歩いてくる妙な三人組がいた。その三人が大地を見ているので、なるほどこいつらが、と花音は勝手に納得した。藤堂大地相手に、ことあるごとに金を要求してくる三人組がいると聞いていたのだ。よく見ると、間抜けな顔をしているし、藤堂による制裁を考えられていないのから、実際馬鹿なのだろう。


 花音がそんな考え事をしているうちに、大地が追いついた。だが、大地の目が三人組を捉え、大地がうっ、と呻く。よほど関わるのが嫌らしい。

「花音は先に行ってて」

と大地が言う前に、再び早足になって大地を引き離した花音は、しかし、三人組の後ろまで歩くと、三人組に気付かれない程度のところで立ち止まった。どうなるのか観察してやろう、という魂胆である。


 三人組が大地に詰め寄る。大地が一番身長が高いはずなのだが、大地に覇気がないため、弱々しく見えてしまう。

「やあ、大地クンおはよー。今日もいい天気だねー」

 三人の中で、リーダーと思しき男が、わざとらしくそう言った。大地がおどおど答える。

「そ、そうだね、板野君。今日ちょっと急いでて…」

「ああッ!ネームレスの分際で、何迷惑がってんだあ!?」

 勝手な理屈だなあ、と花音は呆れかえる。当事者の大地は、すっかり黙ってしまっていた。


 大地の情けなさに、再度呆れかえった花音が、三人組を少し懲らしめてやろうと、一歩踏み出した時だった。

「あ、あのっ」

 大地の後ろから声が聞こえた。大地が振り返り、三人組が大地の後ろから覗き込んだ。

 声の主は、薄青の髪に、小さな猫耳のついたカチューシャを着けた少女だった。その姿を認めた、板野という少年は、ドスの効いた声で言った。

「なんだてめえは?一年が俺らに文句か、ああ!?」

 そこで花音は、少女が自分と同じ一年生だと知った。確かに、少女が胸に着けているリボンは、一年のイメージカラーの青である。へえ、すごいじゃんと、花音は観客モードである。


 少女は怯えながらも、必死に言葉を繋ぐ。

「そ、そういうのは、よくないと、思います。その人、怖がってるし、それに…」

 ところが、三人組はそんな少女の勇気を一蹴した。

「なに偉そうな口叩いてんだ!」

 そう怒鳴られ、少女はすっかり萎縮してしまった。頑張れ頑張れ、と花音は第三者の立場ゆえの無責任な応援を、心の中で送っていた。ところが。


「あ、あの!あなたもそう思いますよね!」

 突然少女が花音に話を振ってきた。結果、三人組の視線が花音に集まる。花音はそれまで抱いていた少女への高評価を、瞬時に取り消した。

「なんだてめえ、見世物じゃねえぞ!」

 そんな板野少年の言葉にうんざりし、結局自分が対応しなければならないのか、と辟易する花音だった。

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