8月15日
セミがけたたましくなく蒸し暑い夏の午後、俺は用事を終わらせ家に帰る。自転車のサドルは太陽に照らされ、フライパンのように熱されていた。水筒の水で軽く濡らす。そして横からもたれかかるようにして座り、空を見上げる。
海のように青く淡い空。入道雲が高く立ち上り、奥の山ではトンビが鳴きながら飛んでいた。夏も中盤に差し掛かったと思うと、少し寂しさを覚える。
「……そろそろ帰るか」
二十分程黄昏れた後、サドルから降り、スギナやドクダミがあちらこちらと生えた砂利道を押して進んでいく。
ふと最近の出来事を思い返そうとしてしまう。だがすぐに首を振って辞めた。引きずらないと決めたから。忘れてしまいたかったから。もう……考えたって仕方ないのにな。
その時蒸し暑さを飛ばすかのように風が吹いた。何故か名前を呼ばれた気がして振り返る。だがそこには変わらない一本道、だがもう二度と見るつもりのない一本道が遠くの神社まで続いていた。
あいつの横顔が脳裏をよぎる。よぎってしまう。どうしょうもなく、ただ仕方なく。
「……あぁそうかよ……そう、だな……クッソ……」
ハンドルを強く握り締める。強く何度も。俯いた視界はよく見えなかった。どうやらあいつはそれを許してはくれないらしい。
「……分かったよ。また来るから」
そう言ってまた自転車を押し、歩き出した。
―――人はいつか忘れてしまう。些細なことも、大切なことも。ほとんど変わりない日々なんてもっての他だろう。
だからこそ、何かカタチのあるものに残しておこう……そう考えたのだった。




