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終末のSSR ―魔法使いジャパン、ただいまダンジョン攻略中!―  作者: 白猫商工会
第09章

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第326話 会戦開始

隠し通路を抜けた一行を迎えたのは、激しい雷雨だった。


地下都市へ入ったときには、雲ひとつない晴天。

それが嘘のような急変ぶりに、由利衣たちは思わず空を見上げる。


五十キロ離れた機械たちの生産工場。

それを壊滅させた神の杖の一撃が、この異常気象を引き起こしていた。


もちろん、そんな事情を知る由もない。


だが、この荒天は結果として幸運だった。


厚い雨雲が監視衛星の目を遮る。


地下都市から出た瞬間にロックオンされ、総攻撃を浴びる――

そんな最悪の事態だけは免れていた。


由利衣は防御結界で雨風を防ぐ。

続けて索敵レーダーを展開すると、その声は震えた。


「敵艦は八……地上部隊も投入されています。

およそ五万」


由利衣の報告に、一同の緊張が高まる。


このパーティを指揮するのは山本先生だ。

ジャージの懐からスマホを取り出した。


「桐生院さん、脱出できたわ。

……パーティは分断されているけど、みんなきっと大丈夫だから」


地上へ出たことで、梨々花との通信が回復した。

お互いの状況を手短に伝え合う。


「神の杖……そんなものが」


山本先生は一瞬絶句。


知らない間に大量破壊兵器が撃ち込まれようとしていたとは。


しかし、すぐに会話を続ける。


「助かったわ。それで、ここからだけど。

包囲を突破するのは簡単じゃないわね」


五万の機械兵が、地下都市のあった一帯を円環状に包囲している。


自分たちは、その包囲網の中だ。

哨戒部隊に発見されるのは時間の問題だろう。


なんとか秘密裏に、自分たちが鹵獲した戦艦へと帰還できないか。


だが、それが難しいことを理解していた。


戦艦に匿われる現場を捕捉でもされれば、それこそ逃げ場がなくなる。

巨大な空飛ぶ棺桶が撃墜され、冒険はそこで終わりだ。


痺れそうになる思考を無理に回す山本先生の耳に、梨々花の声が飛び込んできた。


「戦いましょう」


きっぱりと、言葉が続く。


「何万いようと、この場にいる機械どもは殲滅。

増援が来る前におさらば。

これしかありません」


その自信満々な言葉の根拠は?

山本先生の思考が、一つの希望に辿りついた。


「プログラムが完成したの……?」


機械兵たちの制御を狂わせるプログラム。

偽の更新通知でファームウェアをアップデートさせる作戦。


――確かに、それなら。


しかし、


「いえ、ウイルスプログラムはまだ開発中です」


即座の否定の返事。


そして、梨々花の声音が焦りに変わった。


「スクランブルかかりました!!

作戦はおいおい。

まずは全力で身を守ってください」


――見つかった。


作戦は気になるが、山本先生は現場対応にスイッチを切り替えた。


全員へ激を飛ばす。


「総員、戦闘準備!!

ぼやぼやするんやないで、ボンクラども!!」


「イエス、マム!!」


一糸乱れぬレスポンスが、嵐の荒野を貫いた。


「黒澤ぁ、貴様、魔界でスケルトン五万体いわす言うとったなあ?」


山本先生の言葉に、由利衣の目が泳ぐ。


「……えっ、それは目標っていうか。

いまは、五十くらい……」


最後の言葉は、尻すぼみに消えた。


山本先生は、カメラを構えるセロに向き直る。

地上に出てリアルタイム配信に切り替わっていた。


「なあ視聴者さん。

敵さんも五万、こっちも五万。

日本が誇るSSR、黒澤 由利衣の本気が炸裂するでぇ!!」


逃げ道を塞がれた由利衣は、必死の言い訳をひねり出す。


「でも、防御結界も張らないといけないし、索敵もあるから……」


そこに。


「防御結界なら、任せてぇー」


のんびりした後鬼の声。


水瓶からあふれ出た聖水が吹きすさぶ嵐を打ち払い、そのまま強力な防御結界となって一同を包み込んだ。


由利衣の左頬が引きつる。


ちらりと恨めし気な瞳を向けると、後鬼は「大丈夫よぉー」と軽く手を振ってきた。


「五万いけるかどうかはー、あなたの頑張り次第だけど。

私も応援しちゃうからぁ」


そう言うと、魔力の塊のような水を由利衣の頭の上に浮かせた。


由利衣は、自身の魔力が溢れていくのを感じた。


「……これ」


さっそく、呼吸の書を取り出す。


魔力を流し込むと、スケルトン兵が次々と出現。


これまでの自己最高の五十を超え、百、二百……。


荒野に白骨の戦士たちが整然と並ぶ。


やがて、由利衣は肩で荒い息をついた。


「……ちょっと、もう無理かも」


山本先生は腕組みし、軽く鼻から息を漏らす。


「三千五百……まあ勘弁しといたるか」


由利衣は兵団の中から十体のスケルトンを呼び寄せて合体。

生みだされたキングスケルトンは変形し、四肢を持つビーストモードに。


続いてアイテム袋から武器を取り出し、次々とスケルトン兵へ配布していく。

イナンナの世界で冒険して得たものと、先ほど地下都市で鈴原たちから貰ったもの。

すべての兵に魔導ギアが行きわたった。


後鬼の防御結界がスケルトン兵を包む。


数では大幅に劣るものの、まさに一騎当千の精兵たちだ。


機械 対 アンデッド。

いずれも死をも恐れぬものたち。


それが、荒野を舞台に激突せんとしていた。


続けて、由利衣の左腕のスマートウォッチが光を放った。

召喚デザインアプリを起動。


「――着装」


熊耳に死霊王に相応しいコスチュームを発注していたのだ。


白マントが漆黒に染まり、フード付きのものに変わる。

黒と紫を基調としたドレスが身を包む。


制作期間はわずか四日。

後輩を鬼の追い込みで三徹させた新衣装にフォームチェンジ。


セロが「おおっ、すげえな由利衣!!」と声を上げる。


女教皇の魔眼に力が宿り、黄金の光を放つ。


由利衣はカメラ映りを気にしながら、居並ぶスケルトン兵へ左手を差し出す。

厳かに声を響かせた。


「わが死霊兵団(レギオン)よ、機械仕掛けの魂に救済を……」


キングスケルトンに騎乗しようとした由利衣の肩に手が置かれた。


「ほなら行こか。こいつらはワシが預かるで」


山本先生は軽やかにキングスケルトンの背に跨った。


「え……これはわたしのスケルトンなので――」


山本先生と由利衣の視線が交差する。


「………………御意、大将軍閣下」


山本先生は満足げに頷くと、指示を次々に飛ばした。


「ワシが地上の機械どもを攪乱。

黒澤は後方からの射撃。

宇宙人のお前らは航空戦力への対応、いけるか?」


七体のR魔法使いの式神たち。

見た目スタイリッシュな宇宙人風の彼ら。


――だったら飛べるんじゃね?


そんな大将軍の雑な振りに、しっかり応えてきた。


「イエス、マム!!」


飛行魔法を展開。

本来、R魔法使いは時空魔法は使えない。

だが、モンスター化した彼らは大幅なパワーアップを果たしていた。


これには麗良も目を見開いた。


「……すごい。

ミレーヌさん、私と美柑さんも彼らと一緒に空の守りにつこうと思うんだけど」


「言葉の最初と最後にマムをつけんかい、近藤!!」


麗良の目が引きつる。

リーダーは山本先生、自分が言い出したことだが……。


「マム!! 畏れながら近藤から具申!!

自分と天ヶ崎も敵航空戦力の対応の許可を!! マム!!」


山本先生は「よぉゆうた」と麗良の意気を評価。


「ええか近藤、機械のやつらを第二十六番元素に戻したるんやで!!」


気合の声とともに、麗良は雷切を抜く。


美柑は口を半開きにしたままよく分からない顔をしていたが、麗良の飛行魔法で浮き上がった。


「美柑さん、ある程度は自分の意思で飛べますから。

危なくなったらフォローしますね」


美柑は「はい」と小さく一言。

化血神刀をすらりと抜いた。


こうして、地上のメイン戦力は山本先生、空は麗良が率いることに決まった。

狸ツインズは一体ずつ撮影係として従軍。


由利衣と後鬼とセロは後方支援。

とはいえ、乱戦になれば直接戦闘も避けられないだろう。


そこで由利衣は、キョンシーマスターと骸蟲を召喚。

ティナから譲り受けた、強力なボスゾンビだ。


山本先生はその二体にもちらりと視線を送る。

しかし、由利衣が「セロの守りが必要ですから!!」と声を張り上げると、何も言わずに頷いた。


山本先生はスマートグラスの位置を直す。

マップを表示し、敵の位置を確認。


スカジを構え、腹の底からの号令を轟かせた。


「本日の大一番、魅せていくでぇ!!」


戦場が鉄と魔力に満ちていく。


魔法使いたちの戦いが、いま始まった。


***


戦艦組の三人はモニターに映る戦場を凝視していた。


梨々花が呻きに似た声を上げる。


「由利衣、あんな数のスケルトンを……いつの間に」


敵戦力よりも味方戦力に驚いていた。


もちろん、機械の方が圧倒的に多いのだが。

それでも数千規模のアンデッド召喚など、まさに死霊王の名に恥じない大魔法だ。


リズはホワイトマッシュルームのアヒージョを咀嚼しながら、興味深そうにモニターを見る。


「それに、あんな数の魔導ギアを召喚兵に使わせるなんて。

普通ならあっという間に魔力が尽きると思いますが」


梨々花も同意した。


「さっき山本先生と話をしましたが、強力な二体の式神。

前鬼は来奈と同じようなタイプの戦士、後鬼は補助だそうですけど……

その後鬼の力なんでしょうか」


考えられるとすればそれしかない。

何しろ数時間前は五十体しか出せなかったのだから。


――さすが、伝説の式神。


「橘さんがこだわっていた理由がわかるわ。

あれは、私だって仲間に欲しいもの」


橘 志津香。

最強の式神使いの座は盤石というわけか。


なんとしてでも、冒険部ホールディングスに引き入れなくてはいけない。


梨々花はフェリクスに指示を飛ばして、既に小料理屋の店舗デザインを発注していた。


それはそれとして。


のん気に観戦していたわけではない。

とはいえ、こちらから手助けできることは今のところないのだ。


そう、今のところは。


梨々花の耳に、オーブンのタイマーの音が響く。


舞茸としめじのクリームパイが焼きあがり、大皿に盛る。


続けて、巨大なトリプルチーズ・きのこシカゴピザの用意にかかる。

深さと厚みのある生地にモッツァレラ、ゴーダ、クリームチーズを惜しみなく流し込み、バターでコンフィしたキノコを大量投入。


カロリーに一切の手を抜かない。

梨々花に今できることはこれしかないのだ。


「で、リズさん。どうですか?」


「キノコの肉詰めフライも……」


梨々花は黙ってピザをオーブンに投入すると、ひき肉を取り出した。


まだ、ということか。


「炊き込みご飯もいきましょうね」


その言葉に、儚げな期待がかかる。


「高柳くんは……」


言いかけて、やめた。


政臣は必死でキーボードを打ち、外の世界と連絡を取り合っている。

ウイルスプログラムの完成を一秒でも早められないか、あらゆる手を尽くしていた。


打てる手は全て打っていた。


しかし、すぐに間に合う奇跡ではないのは明白だった。


梨々花は小さく歯噛みした。


――今すぐ飛び出して加勢したい。


機械どもをマグマに沈めて、みんなを救うのだ。


だが、耐える。


いまこの艦が妙な動きをするわけにはいかない。


参戦の要請は届いていた。


だが、神の杖の件で敵魔法使いの植物攻撃を受け、ハッチが一時使用不能――

そんな言い訳をひねり出していた。


実際にリズの魔法でシダ植物のようなものを這わせて偽装している。


この艦は自己修復中。

参戦は待たれたし。


他の機械にはそう伝えていた。


梨々花はひき肉をこねる手に力を込める。


参戦したとき、それは機械どもの最後だ。

このカロリーの一撃をぶち込んでやる。


戦場の上空では、仲間を救うための作戦が進む。


地上では山本先生率いる魔法使いたちが火花を散らす。


そして地中では、もう一つのパーティが静かに戦っていた。


***


地下道を進む俺たち。


いつの間にか現れたアドラメレクが言葉をかけた。


「いいところまで行ったんだけどな。

まあ、こういう展開も予想してなかったわけじゃねえだろ?」


その視線の先には土砂に埋まった通路。


機械どもは、地下道にミサイルを撃ち込んでいたのだ。


地上までまだ何十メートルあるかもわからない。


瓦礫や土砂を撤去する機材も魔法も持ち合わせてはいない。

だが、前鬼と来奈はそれでも諦めずにコンクリートの塊をどけ、土を掘っていた。


「くっそー!! お宝手に入れても生き埋めなんてシャレにならないじゃん!!」


来奈が叫ぶ。

そこに楽しそうなアドラメレクの声がかかる。


「あまり興奮するんじゃねえぞ。酸素だって有限なんだからな」


地下都市は別次元に去った。

後方はただの岩壁。


目の前は崩れ落ちた通路。


何をもって詰みかと問われれば、これは間違いなく詰みだろう。


アドラメレクは「ま、リタイアしたくなったらいつでも声かけてくれや」と余裕の表情。


ついでに付け加えてきた。


「それと、お前らのお仲間。いま地上で機械と戦ってるぜ。

あの数相手によ、破れかぶれとしか思えねえな」


山本先生たちは脱出できたようだ。


少しだけ安堵の息が漏れた。

しかし、機械の大軍と交戦中ということであれば、状況は何一つ好転していない。


俺たちが囚われているのは、進むことも戻ることもかなわない地下の牢獄。


楽しそうなのは魔神だけ。


一同の心は、冷たい土に押し潰されるかのようだった。

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