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終末のSSR ―魔法使いジャパン、ただいまダンジョン攻略中!―  作者: 白猫商工会
第07章

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第232話 正義

クラリスたちの前に現れた謎の女カレンは、悲しげな目で言った。


「あれから何百年経ったのか分かりませんが……

最近までこの森を訪れる冒険者が減って安心していました。

けれど、また騒がしくなってしまいましたね」


遠い昔の、とある王国の話。


第七層のボス攻略法を解明した魔法使いがいた。

カレンの師である。


王は帰らずの森の大規模な調査隊を組み、少量の賢者の石がもたらされた。


そこから、古代王国の魔法使いたちの悲劇が始まる。

王はより多くの賢者の石を求め、対価として数多の奴隷が犠牲となっていった。


師は森に手を出したことを悔やみ続けながら、その生涯を閉じた。

カレンはその意志を受け継いだ。


どこかで終わらせなくてはならない。


そして、哀れな奴隷たちを救うために挑んだチャレンジ。


厄災神には、乗り越えることができたら、冒険者とはもう取り引きをしないことを約束させた。


そこに望みをつないでいたのだが――


カレンは、力なく肩を落とした。


「蝗の群れに対して、彼らを洞窟に逃すのが精一杯で、私は……」


チャレンジは失敗。


しかし、第七層ボスの攻略法を記した書物は、ダンジョンに潜る際、こっそりと処分していた。


最悪、戻ることが叶わなくても、悲劇を止められるようにと。


カレンの言葉に、山本先生は声を張り上げる。


「聞いたかステラ、ド根性やないけ!!」


ステラも、興奮した声で同意した。


カレンは、SSR正義(Justice)。

その能力は――


眷属の一体が襲いかかってくる。

まだ戦いは終わっていなかった。


山本先生が矢をつがえる。


それよりも早く、魔眼が輝いた。


「止まりなさい」


眷属の足が止まる。

続けざまに矢が頭を撃ち抜いた。


正義の魔眼能力は、言葉による魔法効果の顕現。

いわゆる言霊だ。


戦いながら、お互いの情報を交換していた。


アリサが興味津々の眼差しを向ける。


「言葉でなんでも叶うって、すごいじゃないですかー。

映えるなあ!!」


カレンは穏やかな顔で、アリサに言葉を返す。


「なんでも、というわけでは。

心からの願いに、精霊が応えてくれるのです。

効果や範囲などに制限がありますから……

決して万能ではありませんよ」


厄災神の世界の熱風は根性で乗り切ったが、数千億の蝗の群れを前に、あえなく散ったという。


そして、ここからが本題だ。


カレンは、ちらりと自分に付き従う異形たちを見る。


「残された彼らは、あれから厄災神の世界を抜けることが叶わず。

そこで子をなし、命をつないできました。

生き延びてくれたのは、とても嬉しいのですが……」


その地で生まれた魔法使いの子孫たちも、死を迎えると厄災神の贄となった。


カレンは、悲しみとも苦しみともつかぬ表情を浮かべる。


「皮肉なことに、私の行為が厄災神に定期的に贄を供することに……。

申し訳ないことをしてしまいました」


カレンに従う一体が首を振る。


「私たちは人として扱われなかった存在。

カレン様だけが、人として見てくださった。

どのような姿に変わろうとも、それだけで満足なのです」


その言葉に、カレンは小さく頷いた。


「こんな私に赦しを与えてくれる彼らを救いたい。

暗い森に身を置きながら、それだけが望みでした。

そこに、再び厄災神チャレンジへ挑む冒険者が現れたのです」


カレンは、厄災神と新たな取り引きをしたという。


冒険者と奴隷たちの子孫がチャレンジを乗り越えることができたなら、今度こそ冒険者との取り引きをやめること。

そして、自分に付き従う眷属たちを解放してほしいこと。


失敗したときは――。


カレンは、懐から小さな筒を取り出す。


「この中には、賢者の石が。

彼らの子孫十人が贄になるたびに、厄災神は私に与えてきました。

そのたびにこの胸は張り裂けそうになりましたが……。

捨てずに持ち続けていて良かった」


奴隷も子孫たちも、カレンに感謝し、身命を捧げると固く誓っていた。


その彼らが贄となったとき、お宝はカレンへと与えられる。


それが精霊の誓約。


「厄災神は眷属を増やし、神格を高めるのが目的。

そのために消費する賢者の石は、やつにとっても貴重なのです」


いかに厄災神といえども、賢者の石を生み出すことはできない。

戻ってくるなら、願ったりかなったり。


カレンは続ける。


「そして、対価はもう一つ。

長らく眷属として力を溜めた私の魂と魔眼を差し出し、厄災神の一部となること。

その条件で、此度のあなたたちへの襲撃の命令は免除されています。

……好きにしろと」


そこまで言うと、カレンは戦いを続ける一同を見渡した。


「あなたたちは、森の外へ。

ここは私が押さえますから……」


クラリスの凛とした声が割り込む。


「そのような話を聞かされては、ますます引き下がれないな。

このような場所で、高潔なる魔法使いとの出会いに感謝だ」


リュシアンも頷いた。


「リリカさんたちなら大丈夫ですよ。

きっとチャレンジを突破してくれます。

それに、森を出るには魂の対価が必要ですよね?

……それは料理長が、きっと何とかしてくれます」


カレンは視線を落とす。


「イナンナチャレンジも容易くはありません。

眷属に強固に守られていますし、門の試練も……」


「そうでもないみたいよ。

眷属は片付けたらしいから」


ティナの声。

スマホを確認している。


カレンの表情が揺れた。


「あの数を……?

こちらに向けられたものたちよりも多いのに」


その言葉に、クラリスはニヤリと笑う。


「それは聞き捨てならないな。

ますますやる気が出てきた……いくぞ、リハルト、ロイ!!」


豪州SRを伴い、突撃を開始した。


一方のティナは、電話をかける。


「あ、杏子さん?

そっちは……そう、強情なんだ。

でも、証拠は押さえたから。

そっちに送るわよ」


高天原ファーマは、頑なに“増山は休暇中で、魔法使いの拉致などは知らない”の一点張りだった。


確たる証拠がなければ、それ以上踏み込むことは難しい。


しかし、フェリクスが吐いた情報。


増山と仕事紹介サイトとの繋がりを示す資料が保管されているクラウドへ、審判の魔眼が接触に成功していた。


「証拠がネットに転がってるなんて、いい時代ね」


ティナは薄く笑う。


強制捜査の下準備は整った。


そして追撃は止まらない。


「あいつの個人的犯行だなんて言わせないから。

仕事紹介サイトへ、高天原ファーマからトンネル会社を通しての資金の流れ……

どんな言い訳が飛び出してくるか、楽しみー」


言葉とは裏腹に、その目は冷徹な審判者のそれだった。


そして、徐々に怒りの色を帯びていく。


「クラウドに、あいつのプレゼン資料があったわ。

月のSSRが所属する組織を動かすためのものね。

小娘がちまちま冒険するよりも、賢者の石に変えて自分が活用したほうが、よほど有益なんだって。

抱き込んでる政治家の名前も……ひとりやふたりじゃない。

杏子さん、戦える?」


答えは聞くまでもなかった。


ティナは、にこりと笑う。


「そう。じゃあ、これからそいつらの叩けば出てくる埃を全世界に公開するから、見逃さないようにね」


電話の向こうは大笑い。


ティナは通話を切ると、山本先生を見る。


「てなわけで、外の世界はだいたい片付きそうかな。

あいつ、捕まえにいきましょ」


山本先生の表情は、怒りに満ちていた。


「ちまちま冒険するよりも、賢者の石に変えたほうが有益?

あの子たちは、佐伯さんの……私たちの夢なのよ。

それを奪うなんて、許さない」


一連のやり取りを聞いていたカレンは、大きくため息をつく。


「世界は何百年経っても、こうなんですね……。

でも、抗う者がいる。

分かりました。イナンナチャレンジを乗り越える者を、私も信じます。

共に厄災神のもとへ行きましょう」


戦線を押し上げ、森の奥へと進む。

魔法使いたちを止められるものはなかった。


***


厄災神の世界。


小さな山間の村。

ここに、すべてを喰らい尽くす蝗の群れが襲い来る。


その侵攻を、防御結界が厚く阻む。


日村の双剣が眩く輝くと、現れたのは八柱の龍神。


嵐が吹き荒れ、火炎と雷が舞う。


致死の熱風にも耐性を持つ蝗には効きが弱い。

しかし、暴風が飛来の侵攻をわずかでも緩めていた。


梨々花は世界樹の杖を構える。

土属性の魔力を植物操作魔法へ変換する杖だ。


魔術師の魔眼が黄金の輝きを放つ。

瞳の光彩のリングが、橙色に光る。


たちまち、結界の外側に大木が生まれた。


それに蝗が次々と取り付いていく。


下手な攻撃魔法で魔力を消耗するよりも、リズの準備が整うまで時間稼ぎに徹する。


梨々花の冷静な判断だった。


生み出した木の、葉という葉が食われ、枝どころか幹まで食い荒らされていく。


魔力を込め、木の再生を加速させる。


魔術師の魔眼が教えてくれる、体の負荷。

現在、十八パーセント。


慎重にモニタリングしながら、麗良へ声をかけた。


「結界、どうですか?」


麗良は不可視の結界の魔力に、時空魔法を重ねていく。


取り付いた蝗の動きが止まる。


「薄く、広くは難しいけど……

弱音は吐けないわね」


魔法剣士である彼女は、魔法の放出はそこまで得意ではない。

しかし、日本のレイドトップランカーとしての意地があった。


梨々花は、由利衣の防御結界に貫通阻害を付与していく。

これも大量の蝗にどこまで持つか分からないが、あるとないとではまったく違う。


ヴィオラの魔眼が輝くと、蝗の群れは瞬時に凍りついた。


この世界の東から吹く凍える風にも耐えるモンスターだが、極冷却はレベルが違う。


現在、唯一と言っていい大規模掃討手段。


しかし、多用できるわけではない。

ここぞというときの切り札だった。


魔法使い五人の連携による、必死の防衛。


状況は最初から劣勢だった。


そんな梨々花に声がかかる。


長老だ。


ジャージ姿の老人は、スッと杖を梨々花たちに向けた。


梨々花の目が釘付けになる。


ここの村人たちの装備は簡素な弓。

目の前の杖は、明らかに物が違う。


二匹の蛇が絡みつき、先端には宝玉が埋め込まれている。


長老が魔力を込めると、魔眼の負荷がわずかに軽くなった。


老人は申し訳なさそうに言う。


「これくらいのことしかできないが……

この杖は、ご先祖を守ってくれた高位の魔法使い様が所持していたもの。

何もない村ですが、唯一の宝です」


効果は癒しと病魔を祓う力。


満足な栄養もないこの地で、細々と命をつないでこられたのは、この杖のおかげだという。


梨々花の魔眼が見せる負荷率は、十六パーセント……。


長老の魔力制御の練度では、そこまでの効果は出ない。

この過酷な地で、魔力制御の訓練は難しいだろう。


だが。


梨々花は、笑顔を見せた。


「素敵なお宝じゃないですか。

おかげでガンガン行けるので、安心してください」


それは、心からの言葉だった。


効果などは二の次。

その行為が勇気をくれる。


魔術師の魔眼が輝く。


長老が、眩しそうに目を細めた。


「先祖を救ってくれた魔法使い様も、黄金の瞳だったとか。

神様が哀れなワシらのために遣わせた天使か……」


梨々花は、少しだけ照れたように微笑む。


「私は天使じゃなくて、魔王ですから。

それに、今回奇跡パワーを起こすのは……」


長老の肩越しに見るのは、戦場の中の炊飯。


多くの屋台が立ち並び、熱気が立ち上っていた。


屋台は、悪魔の国チャレンジのときに作らせたもの。

物量戦を想定して、政臣のアイテム袋に格納していた。


それが、一斉に火を吹く。


村人総出のカロリー投下。


まともな料理などしたこともない彼らだが、犬養と熊耳が丁寧に手本を示し、見よう見まねでこなしていく。


何しろ必死だ。

一度で覚えるために、全集中。


死と隣り合わせの調理現場だった。


来奈が勢いよくリクエストを聞く。


「それでー、リズさん何にするの?

あたし、こう見えてけっこういけるから!!」


儚げな声が飛んでくる。


「それじゃあ、まずは海老のドリアとハモの天ぷら、真鯛のポワレ 香草風味のバターソース、八宝菜、アワビのオイスターソース煮、豚トロチャーシュー丼、チーズ春巻きに軟骨の唐揚げ……」


「焼きそば一丁、よろこんで!!」


強引な叫びでねじ伏せると、鼻歌まじりにキャベツのざく切りを始めた。


リズの儚げな圧は犬養と熊耳へと向かう。


彼女たちは、山本先生からさえき亭の味を仕込まれた一級戦士だ。


犬養がテキパキと指示を飛ばし、熊耳が調理をサポート。


「入江先輩よりも筋が良いですわ……」


熊耳は小さく呟いた。


政臣は、カメラを三脚にセットするとカロリー戦線に加わった。


さっそく、味付きの薄肉の層を積み始める。


来奈が嬉しそうに声をかけた。


「委員長、ケバブいくんだー。

やるじゃん」


政臣は嬉しそうに笑った。


「佐伯さん直伝だからね。

肉の円柱、今日は三本目標かな」


すかさず「二百で」と儚げなオーダー。


政臣は苦笑しながら肉を回していく。


その表情に影がさした。


「どしたの? 委員長」


来奈の声に、少しだけ思案顔。


「あの増山さん。

あそこまで大胆なことをしでかすってことは、相当強力な後ろ盾があるのかなって……

たぶん、与党の中にも」


政臣の父は現職の首相。


この問題が発覚すれば、責任問題にも発展しかねない。


小さく首を振る。


「まあ、責任を取るのが責任者だから……

それは仕方がないんだけど。

冒険部の活動に支障が出たら、せっかくみんなここまで頑張ってきたのに」


そこまで言ったとき、来奈の能天気な声。


「タカケンは、あいつと関係ないんでしょ?

なんで責任とらなきゃならないのか、分かんないんだけど」


そして、ニカっとスマイル。


「大丈夫。

文句あるやつには、ビシッと言っとくから。

SSRになれたの、タカケンのおかげだからさー。

それを忘れるあたしじゃないよ?」


鉄板に油をひいて麺を投入。

ソースをドバドバとかけていく。


政臣がその姿を眺めていると……。


「そっちも手を動かさないと。

肉の円柱、二百よろこんでー」


小生意気な目つきと視線が重なる。


ふっと、お互い笑みがこぼれた。


肉の焦げる匂いとソースの香りが二人を包む。


冒険は、まだ終わらせられない。

運命を共にする仲間がいる。


政臣のピタパンを焼く手にはもう迷いはない。


――しかし。


厄災は、それらすべてを消し去らんと迫りくるのだった。

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