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終末のSSR ―最強おじさんの最弱SSR育成プロジェクト―  作者: 白猫商工会
第07章

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第220話 攻略の鍵

日村は盛大なため息をつきながら、俺の肩を小突いた。


「お前……

なんで俺に声をかけてくれなかったんだよ。

少しは、なんとかなったかもしれねえだろ」


日村がいても、あいつに太刀打ちできたとは思えない。


だが――その言葉はありがたかった。


少しだけ頭をかく。


「あのときは、自惚れとプライドだな。

R魔法使いでも、日本の先陣を切って突破してやる。

俺が最強だと……馬鹿丸出しだ」


日村とは学生時代からライバル意識があった。


こいつが第四層で足踏みしているうちに、さらに上を目指す。


若気の至りとしか言いようがない。


苦笑いしていたところに、麗良が質問をしてきた。


「正直、完凸特典があろうがなかろうが。

先輩が手も足も出ない相手なんて、想像がつかないんですけど……

その相手は?」


ごくり、と来奈の飯が喉を通る音が響いた。


俺は思わず、険しい表情になる。


「パズス……とか言ってたな」


古き厄災の神。

悪霊の王。


「もしかしたら、分体じゃなくて……

本体だったかもしれない」


その言葉に、熊耳の顔がみるみる青ざめる。


「佐伯先生……そんなのに、また戦いを挑む気なんですの?」


「そのままで勝てるとは思っていない」


俺はそう言うと、スマホを取り出す。


昔の携帯のカメラで撮ったものだから、多少荒いが……。


写真を表示し、テーブルに置いた。


弁当をもぐもぐしながら来奈が覗き込み――


「ちょーっと!!

お食事中にグロ禁止!!」


抗議の声を上げた。


他のやつらも、「うへぇ」と顔をしかめる。


そこに映っていたのは、木に吊るされた謎の肉塊。

ハエと蛆がたかっている。


梨々花がハンカチで口元を押さえながら問いかけた。


「……これは、何の意味があるんですか?」


俺はそれに答える前に、もう一枚の写真を見せる。

今度は石板だ。


「肉塊も石板も、あの森の中にあったものだ。

当時はまったく意味が分からなかった……

いや、今でもよく分かってはいないんだが」


疑問符を浮かべる一同を前に、解説を試みる。


「この石板に刻まれているのは、『イナンナの冥界下り』というエピソードなんだが……」


豊穣と戦闘の女神イナンナ。


天と地を支配する彼女のさらなる欲は、姉の支配する冥界へと向く。

冥界へと下る途中、七つの門をくぐることになるのだが――

門を一つ通るごとに権能を剥ぎ取られ、最後の門を越えたときには、すべての力を失う。


「そして、姉のエレシュキガルに裁かれ、息絶え……

肉塊として吊るされる、という話だ。

物語としては、その後、復活するまでが描かれている」


写真を見ながら、続ける。


「冥界から復活する際、誰かを身代わりに差し出す必要があってな……

自分の不在中にのんびりしていた旦那を、迷うことなく差し出したらしい」


日村が色をなして噛みついてきた。


「おいおいっ!!

自分から冥界に攻め込んでおいて、鬼の居ぬ間に洗濯してた旦那に八つ当たりとか。

そりゃねえだろ!!」


日村の言い分は正論だ。

だが、神話というものは往々にして理不尽なもの。


「話の本筋は鬼嫁のくだりじゃなくてだな……

何かに似てるだろ?」


そう言って、フンババをちらりと見る。


山本先生が顎に手を当て、口を開いた。


「フンババは最初からメラムという鎧に包まれていて、それを一つずつ剥ぎ取るのが攻略の鍵。

この肉塊が女神イナンナだとすると、最初はすでに剥ぎ取られた状態……

ということは、こちらの攻略はフンババの逆?」


さすが山本先生。

通常モードのときは思考の回転が速い。


俺は同意の頷きを返し、自説をゆっくりと話した。


「思うに、帰らずの森は冥界を模しているのかもしれない。

そこから出るには対価が必要――これは古今東西の神話に見られる構造だ。

魂を捧げる以外の道があるとすれば……

七つの権能を女神に還す。

これが、この森の攻略なんじゃないかと俺は思っている」


梨々花がため息をつく。


「何か手立てはあるとは思っていましたが……さすがです。

でも、そこまで推測が進んでいるなら、なおさら相談してほしかったですね」


そして、力強く立ち上がった。


「行きましょう!!

迷いの森……いまこそ攻略するんです」


俺の目が揺れる。


「いまこそ……って、お前。

今日、第七層に入ったばかりだろう?」


梨々花は聞いていない。


「山本先生。

そうと決まれば、腹ごしらえです。

昼食後、一時間の休憩。

その後、フンババを撃破しましょう」


山本先生は、にこりと笑って頷いた。


俺は慌てて制止する。


「おい、フンババにはメラムがある。

今のままじゃ無理だ」


だが、梨々花はこともなげに言い放った。


「先生……

三日後に戦おうというプランを立てている時点で、すでにキーアイテムは所持しているんじゃないですか?」


鋭い指摘だった。


じっと視線が集まる。


俺は観念して、ポケットから七つの宝石を取り出した。


「こいつは、小暮に頼んで手に入れてもらっていたものだ」


鉄バットおじさんこと、俺の同期――小暮。


悪魔の国チャレンジで旧交を温めた俺は連絡先を交換し、いろいろと相談していた。


わずかに目を逸らす。


「ただ、こいつを手に入れるのもお前たちの訓練だ。

本来は認められない……」


しかし、蠢く森を目にすると言葉が途切れた。


息を整え、思い直す。


「いや……悪かった。

桐生院の言うとおりだ。

増山が森に入って、もう一週間は経っている。

すぐにでも対処しないといけない」


そして、村正に手をやる。


「フンババは俺が倒す。

お前たちは、あらためてやり直せばいい」


だが、能天気な声が飛んできた。


「えー?

ボス戦は映えっしょ。あたしやるよ。

みんなもそうじゃん?」


頷く一同。


梨々花は、黒髪をさらりとかき上げた。


「森の攻略はヴィオラさんも手伝ってくれますから。

来てくれる間に、フンババ戦といきましょう」


そんな話をつけていたとは。


しかし、ヴィオラが参加してくれるのは確かに頼もしい。


そして、由利衣がふわりと爆弾を落とす。


「お師さまも一緒に。

帰らずの森のフィールドワークをしたいそうなので」


俺は少し、いや大いに慌てた。


「なあ……リズも来るのか?

今回、そんなに食料は――」


梨々花は、きっぱりと即答。


「十五年分、用意してありますから。

水も、燃料も」


そこまで用意周到とは……。


少しだけ迷ったが。


「そうか。

なら、トライしてみるのもいいだろう。

しっかり食っておけ」


そう言うと、さっそく食事の準備に取り掛かる。


来奈はその間に、三つ目の弁当に手を付けていた。


***


昼食の間、熊耳はフンババをちらちら見ながら、不安そうな表情を見せていた。


「茜ちゃん、私不安ですわ。

いつもの相手は第三層のモンスターなのに。

やっぱり佐伯先生に任せたほうが……」


そう言って、肉を焼く俺の方を見る。


まともな感性だ。

それが、なぜか少し安心できた。


さらに、自信なさげな声が続く。


「リリカ様たちから離れないように戦うんですのよ」


そう言って、パンをもそもそと食べる。


だが――


犬養は静かに白身魚のソテーへナイフを入れた。


「映えは誰かのおこぼれを拾うものじゃないわ。

獲りにいくの。

やつの首を飛ばすのは、私よ」


「茜ちゃん……」


目線を落とす熊耳に、犬養は言葉を重ねる。


「私は誰よりも、日葵ちゃんのことを信頼しているから。

一の力が二人なら百にもなる……ううん」


犬養は頭を軽く振った。


二人の視線が重なり、力強い言葉が続く。


「日葵ちゃんが無限の可能性を描く。

そして私の付与魔法が色を乗せる。

一緒なら、どこまでも飛べるわ」


熊耳は頭のてっぺんまで上気し、こくこくと頷いた。


山本先生も満足そうな顔を見せる。


「お前ら、これも食うて精をつけえ」


そう言って、二人の前に巨大なステーキを置いた。


途端に熊耳は「ですわ!!」と声を上げ、肉に突撃し始める。


――やはり、このパターンか。


俺は口元を少しだけ引きつらせながら、梨々花たちに問いかけた。


「桐生院、黒澤。

お前たちも、何か新技があるんだろう?」


その言葉に、梨々花は少しだけ思案する。


「状況次第ですね。

あの森には、いろいろ楽しげなのがいそうなので」


由利衣も、「そうだね」と小さく同意した。


パズスもそうだが。


イナンナの神威を取り戻す試練。

これにも何が待ち構えているか分からない。


フンババは階層ボスとはいえ、まだ緒戦。

力は温存しておきたい――そう言いたげだった。


その言葉に、犬養の瞳がぴくりと揺れたのを、俺は見逃さなかった。


――ずいぶん余裕じゃないですか、先輩……。


静かな闘志を燃やしながら、肉を咀嚼する。


そして休憩を挟み、戦いが始まった。


***


ボス戦闘エリアの前に立つと、メラムを引き剥がすキーアイテムである宝石が消えた。


同時に、フンババから不可視の鎧が消えていく。

これで準備は整った。


俺が下がると、戦いに挑む者たちが踏み込んでいく。


さっそく動いたのは、やはり犬養だった。


両足を大きく開き、腰をぐっと落とす。

右手のひらを地面に当て、左手を斜め後方へ引く。


そして、静かに変身の掛け声を上げた。


日葵(ひまり)ちゃん……着装」


熊耳のペンがタブレットの上を走り、ノリノリの叫びが戦場を貫く。


「了解!!

犬養茜の着装――具現化した魔力が全身を覆うまでのプロセスは、わずか0.25秒ですわ!!」


更新ボタンを勢いよくタップする。


熊耳の召喚魔法が展開し、光が走る。

筋繊維のような魔力が犬養の身体を包み、外殻が組み上がった。


由利衣と政臣の歓喜の声が響く。


犬養は、すかさず外骨格に時空魔法を付与。

腰を落とした姿勢から、高く軽やかに跳んだ。


空中でバフをかけながら、トンファーブレードを抜き放つ。


超振動を纏った刃が、ダンジョンの陽光を照り返す。


いきなり全開で、首を狩りにいった。


フンババは巨大な剣で、その即死の一撃をいなす。

トンファーブレードを弾き、獅子の口から炎を放った。


熊耳がペンを動かしながら、「ブレストランチャーですわ!!」と大声を上げる。


犬養の胸部装甲がバクンと開き、無数の孔から水属性の魔力弾が射出された。

たちまち炎を打ち消す。


犬養は追撃の手を緩めず、回転して斬撃を浴びせる。

それも防がれる。


だが、それは目眩ましだ。


背を向けたまま、右足を軸に左足を高く突き上げる。


足裏から魔力のブレードが伸び、フンババの喉元を狙う。

これにも超振動が付与されていた。


しかし、それも剣で弾かれる。


犬養は大きく飛び退き、構えを取った。


――開始から、わずか数秒の攻防。


観戦するヴィオラが「悪くないわ……」と呟きながら、おにぎりを頬張り、ビールを一口。


到着するやいなや、さっそく行楽気分だ。


そして俺は、リズの給餌に従事することになった。


視線の先の犬養は、冷静に言う。


「あの剣……超振動を受けても刃こぼれひとつないなんて。

なかなかの業物じゃないですか」


クックッと喉を鳴らす。


呆気に取られていた麗良が、はっと我に返り、焦ったように声をかけた。


「犬養さん、一人で前に出すぎると……」


「近藤先生。

……楽しいですね。ヒリヒリする、命がけの冒険」


そして、うっとりとした声音で続ける。


「こいつなら……渇きを満たしてくれそうです」


俺は、氷の女王様に少し呆れた調子で言った。


「仕上がり過ぎだろう。

人格が変わってるじゃないか」


ふぅ……と、冷たい息。


「あれが解き放たれた姿よ。

ダンジョンで冒険をしたい。

精霊がその熱に、ふさわしい力を与えた。

……それだけ」


そう言われると、なんとも言えない。


ヴィオラはビールを一口。

黒革衣装は解毒効果があるため、飲み放題だ。


やれやれとため息をつく俺に、カロリーを求める儚げな圧。


「牛タンとろろ飯……で、どうだ?」


その提案に圧が消える。

代わりに期待の眼差しが突き刺さってきた。


さっそく炭火の用意を始めた。


***


犬養が第二ラウンドに入ろうとしたとき、その肩にそっと手が置かれた。


梨々花だ。


「桐生院先輩……止めるんですか?」


冷静な声だが、内に秘めた火のような闘志は、触れる手を焦がさんばかりだ。


梨々花は、ふっと笑みを漏らした。


「まさか」


そして、魔法属性付与。

鋼属性が外骨格を覆う。


「素敵な戦いぶりね……

ゾクゾクしたわ」


中級魔法は、まだ犬養には扱えない。

梨々花なりのエールだった。


「私も、見てみたいの。

犬養さんと熊耳さんが飛ぶ姿を……

ぶちかますのよ」


犬養は、しばし沈黙する。


そして――


トンファーブレードを腰に収めた。


すうっと脱力し、両手をだらりと下げる。


「行きます」


ドンッと地を蹴り、鋼の弾丸が疾走した。


両手を後方になびかせ、高速でボスの巨体へと迫る。


そこに、フンババの炎が再び襲う。


鋼の外骨格はものともせず、炎を切り裂いて突き進む。

由利衣の防御結界も、それを支えていた。


だが、大剣に強化の魔法が乗り、淡い紫の魔力が光る。


――あれは、危険だ。


叫ぼうとする俺の声を、能天気な声がかき消した。


「茜ちゃん、めっちゃ映えてんじゃん!!」


トップスピードに乗った来奈が、巨体との距離を一気に詰める。


右拳のキュレネが輝く。


同時に、左手に握られていた乾燥唐辛子を口に放り込んだ。


フンババの淡く光る剣が、犬養へと迫る。


しかし、来奈が早い。


拳と大剣が、正面からぶつかった。


キュレネの輝きが一層増し、竜魔法の魔力が解き放たれる。

――剣が、粉々に砕け散った。


「やっちゃえ!!」


来奈の声に、犬養はぶるりと震えた。


「なんてイカれた冒険。

……最高じゃないですか!!」


腰を沈めて思い切り捻り、掌底をフンババの胴に叩き込む。


魔力が突き抜けた。


超振動魔法が浸透し、モンスターの内部から破壊していく。


さらに。


「入江先輩……熱いのが来ますから、退避してください」


来奈が飛び退くと同時に、フンババの胴が大きく爆ぜた。


振動波による水分子の摩擦。

電子レンジの原理だ。


沸騰した体液が飛び散る。

鋼鉄の鎧に身を包む犬養は、熱を浴びながら歓喜の声を上げた。


「日葵ちゃん!!

私たち、飛ぶのよ!! 高くっ!!」


続く山本先生の大笑い。

「ですわ!!」と、元気な声。


ヴィオラはビールを片手に、無表情で一言だけ。


「これが、魔法使いの尖りよ」


そして、缶の残りを一気にあおる。


俺は牛タンを待つ儚げな眼差しを受けながら。

口を半開きにして、その光景を眺めるだけだった。

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