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終末のSSR ―最強おじさんの最弱SSR育成プロジェクト―  作者: 白猫商工会
第07章

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第209話 エレメンタルダンス(3)

破壊神シヴァと、隠しゲスト。

ここが、レイドの大一番。


だが――


先ほどまでうるさいほど鳴り響いていた、武器を打ちつける音も、攻撃魔法の音も止んだ。


ほんの数秒の静寂。


それを破ったのは、眼鏡男の興奮した声だった。


「出たー!!

あれが精霊の特典!! 完凸の証!!」


政臣の構えるカメラが、人狼化した俺の姿を世界のお茶の間へと届けていた。


先日の悪魔の国チャレンジで知られてはいるが。

当然、初見のやつも多い。


目を点にしてこちらを見る者。

興奮に目を輝かせる者。


それらが入り混じる。


そして――


地鳴りのような歓声が巻き起こった。


「うそだろ、あの魔力!!

本当にRかよ!!」


「化け物だぜ、いい意味でな!!」


一斉に視線が集まる。


バトルの最中だというのに、のんきな連中だ。


シャツのボタンを外し、上着を脱ぎ捨てた。

人狼化すると、身体が一回り大きくなる。


……芹那に文句を言われるかもしれないな。


そんな考えが一瞬よぎるが、今はそれどころではなかった。


シヴァの動きを確認する。


さっきの一撃で、わずかに動きは止まったが――

再び、踊りを始めていた。


そして、原初の精霊が動き出す。


……次は、こいつらのターンか。


大声で叫ぶ。


「おい!!

精霊たちが来るぞ!! 油断するな!!」


四体の精霊と魔法使いたち――

その戦いのステージが、いま始まった。


***


火の精霊――スピリット・オブ・ファイア。


スタジアム上空で揺らめく炎が、シヴァのリズムに呼応し、巨大な人型を形作っていく。


やがて、それはフィールドへと降臨した。


全高、およそ三十メートル。


巨神に比べれば小さいが――それでも、充分すぎる脅威。


肌を焼くような熱気。


周囲の魔法使いたちは、即座に断熱の魔力を纏った。

レイドに参加する者ならば、この程度はできて当然だ。


炎の巨体が、軽快なステップを刻む。


揺らめく炎が分離していく。


無数の火球が舞い上がり、魔法使いたちへと降り注いだ。


一斉に防御の姿勢を取る魔法使いたち。


そのとき。


気だるげな声が響いた。


「勝負しようっての? ナマイキー」


中国のSSR、ミア。


左手を掲げると、炎の弾幕が次々と撃ち上がる。


空中で火球と衝突し、爆ぜた。


へらへらと笑いながら、絶え間なく炎弾を撃ち続ける。


――爆炎の魔法が大好き。


それ以外の属性はまったく鍛えていない。

炎と火器に特化した魔法使い。


原初の炎と、ミアの爆炎が空中でぶつかり合う。


炎弾の勢いを緩めぬまま、右手の火尖槍をぐるりと回す。


レーザーのような炎を射出し、スピリット・オブ・ファイアへと叩き込んだ。


「ミアさん!!」


セラが叫ぶ。


「同属性が効くはずないでしょう!!」


だが、ミアは聞く耳を持たない。


口元は緩んだまま。

だが、その目だけが獣のように鋭く細められていく。


「それ、私の方が弱いって決めつけてんの?」


戦車の魔眼が、黄金に輝いた。


魔力が具現化したガトリング砲が、ミアの前方にいくつも出現。


一斉に火を吹き、魔力弾を叩き込む。


セラはため息をつきながら駆け出した。


「それも……どこまで効くか」


ひらりと跳躍。


青龍偃月刀に魔力を込め、撃ちつける。


衝撃波が炎を吹き飛ばす。


だが――すぐに再生する。


構わず、セラは何度も打ち込んでいく。


襲い来る火球は、すべてミアが撃ち落としていた。


「セラのだって、効いてなくね?」


へらへらと軽口を叩くミア。


セラは無視して、さらに衝撃波を叩き込む。


皇帝の魔眼が輝いた。


人造兵が次々と出現し、炎を取り囲む。


水魔法を一斉に放った。


「ミアさんは、火球の迎撃を」


青龍偃月刀の衝撃波と水魔法で抑えにかかりながら、淡々と指示を飛ばす。


ミアの目が、さらに鋭さを増した。


「炎の扱いなら、私の方が上だっての。

……いいから、任せてみ?」


セラはやれやれといった顔で肩をすくめると、炎の巨体から飛び退いた。


ミアの魔眼が、再び強く光る。


人造兵の手に、筒状の装置が握られた。

同時に、複数のドローンを上空へ展開する。


人造兵が筒を向けると――


ブーン、と低い振動音が響いた。

ドローンからも同様の音。


すると。


目に見えて、炎の勢いが弱まっていく。


――音波消火器。


原初の精霊の炎といえど、顕現には酸素を要する。

その供給を、特定の低周波で阻害する装置だ。


中国チームが中心となり、水や氷が撃ち込まれる。


炎と魔法使いたちとの戦いは、続いていく。


***


グレイスが、緑の輝きに揺らめく巨体――スピリット・オブ・ウィンドへと踏み込んだ。


精霊が腕を振るうと、風がグレイスの巨躯へ襲いかかる。


アミルが隣に並び、剣を振るう。

暴風に抗おうとする。


だが、インドチームの三つ子が張った厚い防御結界が、見る間に削られていく。


そこへ――閃く剣が割り込んだ。


クラリスの、ウインドブレスを乗せた聖剣技。

それが原初の風を裂いた。


イギリスチームが続く。


全員、騎士の装い。

抜剣し、一糸乱れぬ連撃を叩き込んでいく。


クラリスの怒声が飛ぶ。


「甘い!!

腰をもっとガッと入れて、グッと踏み込め!!

ダルトン、ビッと斬り込まんか!!」


天才肌ゆえの感覚コーチング。

いつものことなので、誰一人としてまともに聞いていなかった。


グレイスが飛翔し、ヴァジュラを緑の巨体に叩きつける。


「邪魔するんじゃないよ。

こいつは私のもんだ」


その言葉をクラリスは意にも介さない。

真空をエクスカリバーに纏わせ、竜巻を放つ。


「レイドに誰のものなどないな。

欲しければ実力で獲ればいい」


そして、イギリスチームへ声を張った。


「いくぞ!!」


騎士たちもそれぞれの武器に、竜魔法の真空を纏わせる。


このレイドにおいて、竜の加護を全員が持つのはイギリスただ一国。


隠しダンジョンクリア後、クラリスはチームを率いて、あらためて挑戦していたのだ。


ダンマスのヴィーヴルは、暇なときは冒険者の相手をしてやるが、連日大行列。

案内人の魔女は新たなスタンプラリーを始めており、一階から六階まで巡ってスタンプを埋めると、ヴィーヴル挑戦へのファストパスを得られる。


実に三十周。

昼も夜もなく周回しては、ダンマスへと挑む。


あまりのしつこさに、ヴィーヴルは勘弁してくれと、イギリスチーム全員に竜の加護を与えていた。


騎士たちの剣が、緑の巨体を切り裂く。


竜魔法は四大属性とは別系統。

同じ風魔法でも対抗できていた。


次々とポイントがイギリスチームへと入る。


グレイスは奥歯を鳴らすと、ヴァジュラを構える。

突進を繰り返した。


その様子を視界の端で見ながら、クラリスは小さく頭を横に振った。


――勢いはあるが、粗削り。


隣に付いているあの男は、一流の戦闘魔法使い。

しかし、黙って師事するような性格ではないのだろう。


そんなことを考えるクラリスの魔眼が捉えた。


未来視。


数限りなくある未来の可能性から、より確度の高い世界を予測して見せる力。


それが、風の刃に四肢を飛ばされるグレイスの姿を映し出した。


……いや。


グレイスが、あえてその位置に踏み込んでいるようにも見える。


愚者の魔眼は、リスクの可視化。

そこに賭けたというのか。


クラリスの碧眼が鋭く細められる。


――実力の伴わない挑戦など、蛮勇。


ダンジョンも、レイドも甘くない。

これも選択の果てだというのなら……結末は、身をもって受け入れるしかない。


火花を散らしながら、ヴァジュラが振るわれる。

アミルが、剣で必死に風をいなす。


クラリスの未来視の映像が、切り替わった。


軽く舌打ち。


聖剣エクスカリバーに、魔力を最大限に込める。


隠者の魔眼が黄金に輝いた。


聖剣が記憶する英雄たちの剣技。

それを引き出すサイコメトリー能力。

正確無比にトレースできる鋼の肉体。


魔力が爆発し、一気に跳んだ。


グレイスたちに襲い掛かろうとしていた風の刃。

それが、聖剣に断ち切られる。


目を見張るグレイス。

長い金髪をなびかせた女騎士の視線が、その目を鋭く射抜く。


「お前が自分の責任で命を張るのは勝手だが……

そこの御仁の命をベットするのは見過ごせないな」


クラリスは視ていたのだ。

アミルが代わりに真っ二つにされる映像を。


グレイスは、ゆっくりとアミルを見る。


「アミル、お前……」


愚者の魔眼が光り、小型のガチャ機が現れた。


左手がハンドルに触れる。

ぽつりと言葉が落ちた。


「なんで私についてくるんだよ。

引退するって言ってたじゃないか。

うちの執事だって……もういいんだぜ」


アミルは小さく息を吐いた。


「お嬢は――我が国の」


言いかけて、軽く目を閉じる。


数秒にも満たない時間が過ぎた。


そして目を開け、まっすぐにグレイスを見つめた。


「俺の希望だ。

ダンジョンで羽ばたきたいと言っていただろう」


そう言って、アミルは人狼へと視線をやった。


「あの男も言っていたな。

大切なもののためなら、何でもすると」


グレイスはハンドルを回す。


「希望……は、ヒーローの証だ」


ガチャ機から現れたのは、緑のカプセル。


「なあ。

私は自由な冒険をしたいだけなんだ。

……放っておいてくれていいんだぜ」


アミルは、小さく頷いた。


「俺も、俺の意思でやっていることだ」


『Fool――No.1 Hopper Form』


グレイスの肩のフェレットが、昆虫の羽根へと変形する。

鮮やかなメタリックグリーンのマスクと強化服へと変身した。


グレイスは大声を張った。


「おい、そこの騎士!!

ありがとう、助かった!!」


そして、跳躍。


スピリット・オブ・ウィンドの遥か上空へと飛ぶ。

ヴァジュラを構え、空を蹴る。


ドンッと衝撃を残し、一直線に降下。

雷槍が緑の巨体を穿ち、風が弾け飛んだ。


縦横無尽に跳ね続ける。


着地しては跳ぶ。

空を蹴り、降下。


上下からの攻撃に、抉られていく巨体。


イギリスチームがどよめいた。


クラリスは、ふぅとため息をつく。


「これで持って行かれては、国に帰れないのだがな……」


エクスカリバーに伝わる魔力の流れが変わった。


先ほどダルトンと呼ばれていた男が、期待の眼差しを向けた。


「アレ、行くんすか!?

バシーンといいやつ、グリッと決めてやってくださいよ!!」


「分かりやすい言葉を使え、ダルトン」


クラリスのツッコミに、ダルトンは開いた口がふさがらなかった。


――竜魔法は、ウインドブレスだけなのか。


クラリスは、スマホでアニメ動画を視聴するヴィーヴルに連日詰め寄っていた。


最初は無視されていた。


だが。


スマホを眺める真竜の視界に入る位置で、ずっと問いかける。


謎の干し肉をかじりながら。

寝袋に入りながら。


レイドメンバーも加わり、真竜を囲みながら干し肉を食う日々。


ついにヴィーヴルの集中力に勝った。


新たな竜の試練。

二割の力を解放したヴィーヴルに打ち勝てた暁には、それが手に入るという条件。


クリアできたのは、クラリスのみだった。


聖剣に竜の魔力がこもる。


アシッドブレス。


刃を振るうと、原初の風を竜魔法が汚染していく。


スピリット・オブ・ウィンドの揺らぎが、苦悶へと変わった。


愚者と隠者。


魔眼が黄金に輝き、原初の風を裂く刃が閃いていた。


***


日本チームのベンチ。


来奈が弁当を咀嚼しながら唸り声を上げた。


「竜魔法かあ……あたしも使えるはずなんだけどなあ」


自分と同じ近接アタッカーのクラリスが、あそこまで使いこなしている。


やはり、何から何まで上。

分かっていても、悔しい気持ちがあった。


そこに、杏子が問いかけてきた。


「私らも狙ってるんだけどさ。

それ、そんなに難しいの?」


来奈はこくりと頷き、芋の煮物に箸をやる。


「ちょっとでも間違えると、めっちゃ体痛いし。

山本先生も梨々花も、あんなのよく使えるなって」


――でも、あれが使えたら。


梨々花がいれば魔法属性を付与してもらえる。

あの原初の精霊とも戦える。


それもひとつの作戦だけれども。


視線の先には、剣一本で立ち向かう女騎士の姿。


自分だって……。


ごくり、と喉を鳴らす。


竜魔法を試してみたとき。

トラックに轢かれたかのような全身の衝撃。

別の世界に転生するかと思った。


……轢かれたことはないんだけど。


これじゃバトルにならないと、数回試しただけで諦めていた。


加護はまだ他にもある。

自分の本命は、身体強化魔法を伸ばす“獣の加護”。


竜の加護とは相性が悪いらしいから、無理して練度を上げる必要はない。


そう――言い訳めいた気持ちもあった。


「でも、やっぱ……カッケー」


ぽつりと呟く。


塩鮭に箸を伸ばしかけ――止まった。


来奈は、軽く目を閉じる。


――ちょっとだけ。


魔力を切り替えていく。


そのとき。


由利衣は、来奈の魔力の変化を察知した。

横目でちらりと伺う。


来奈が目を開け、びっくりしたような顔をする。


視線が合った。


「由利衣……あたし」


由利衣は見ていた。


竜魔法の魔力を練ろうとした来奈の体が、一瞬だけ白く光ったのを。


あれは、騎士団長にやられて、竜の血で蘇ったときの光……。


――梨々花も来奈も、レイドそっちのけで怪しいことを。


でも、これは……。


黙って見つめる由利衣の目が、小さな光を湛えた。


そして。


フィールドでは、死闘が続いていく。

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