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11 ヤック村の新名物

そして、薬草風呂は。

薬草の村、ヤック村の新たなる名物となった。


管理人の少年との約束どおり、いったんは湯を入れ替えて元通りに戻したものの。

冒険者達の熱い要望に応えて、薬草風呂はその3日後に再開された。


ただし。外来者の入浴料は30マナから60マナへと引き上げられることになった。


うち20マナは、共同浴場の隣に住む薬草農家の女主人アルカナへ薬草の代金として支払われる。

そして残りの10マナは、俺にアイデア提供料として入ってくることになっている。


『俺が、ヤック村のモルト町の周辺にいる間は支払い続ける』

と言う契約で、共同浴場の少年には納得させた。


「俺は行商人志望だぜ? 心配しなくても、そのうち消えるさ」


と言いつつ『いつまでも居座り続ければ、無限に儲かるぜ!』とか思ってた。


「うはははは。儲け!?」


何もしなくても、1日300〜500マナが入ってくるようになった。

風呂に来る客が増えれば、もっともっと儲かる。


元々薬草の村として有名だったヤック村だ。

その村の薬草風呂はどんどん知名度を伸ばしていった。


モルト町ギルドでクエストを終えた冒険者が、骨休めにヤック村を訪れるのは日常茶飯事。


離れた町からも、噂を聞きつけた冒険者がやってくるようになった。


そして遂には、城塞都市キルケットから大貴族トンベリ・キルケットが湯浴みに訪れるまでに至る。


その大貴族のために、アルカナの亡くなった旦那が建てた宿屋を急遽開くことになった。

貴族は「古傷が癒えた」「久方ぶりに生き返ったよ!」と、ご満悦で帰って行ったそうだ。


そして、周囲からの熱い要望に応え。アルカナ達はそのまま銭湯旅館として宿屋の経営を続けることになった。

従業員なんかも、何人か雇ったらしい。


泊まりがけの湯治客までもが頻繁に現れるようになり。2ヶ月ほどで、親娘の宿屋商売はかなり軌道に乗り始めていた。


俺に入ってくる不労所得のマージンも1日500〜800マナくらいにまで増えた。


「プリンちゃんに言い寄っていた城砦都市キルケットの貴族、ジミー・ラディアックは城塞都市キルケットの中では最弱の貴族だ。大貴族トンベリ・キルケットが気に入ったと言うこの旅館の娘には、もう強引な求婚はできないだろう」


そう言って、バージェスが少し遠い目をした。


「プリンちゃんが、遠い存在になってしまったな。もう、俺たちみたいな野蛮で汚らしい冒険者には、見向きもしないんだろうな」


そして、シクシクと泣き出した。


マジかよ。

そのガタイとその風貌の、中年男が泣くなよ!


「この涙は、悲しみの涙じゃないぜ。プリンちゃんの幸せを祝う、祝福の涙だ」


「……」


ちょっと心配して損した。



→→→→→



そんなアルカナ達の快進撃を横目に。

俺はいつものようにモルト町のギルドで、荷物持ちやガイドの依頼主を探していた。


「最近は見慣れない冒険者が増えたな」


俺がクエストボードを眺めていると、後ろからバージェスの声がした。


「そうだな。もともとそこまで依頼が多いギルドじゃなかったけど…、今は完全に。冒険者に対して依頼の数が足りてないな」


「そんなにわんさかモンスターが現れても、それはそれで困るけどな」


「間違いない」


「プリンちゃん達の旅館も。冒険者が増えてモンスターが減れば、それだけ安全になるな」


遠い目をして言うバージェス。

こいつ。そこまで本気でプリンちゃんのことを…


「そろそろ、ここらで稼ぐのも潮時なのかもな」


バージェスはそう言って。

適当な中級モンスター討伐の依頼を取って去って行った。


俺のガイドも、荷物持ちも必要なさそうな案件だった。


最近は、初級モンスターが狩り尽くされて。新人や、緩めの冒険者には辛い状況になっている。


「俺も、今日は渋そうだな…」


今日はギルドに居座って、細々と薬草売りでもするかな。


実は、薬草風呂のマージンで。俺はもう働かなくても食っていけるくらいの状態になっていた。


安定してしまうと。

ライアンたちと別れたばかりの頃の、ハングリーな精神は薄れてくる。


俺。本当にこれでいいのかな。

大商人になるとか言って。このまま薬草風呂のマージンにすがって細々と生きてるようなしがない商人で。

本当にいいのかな。


このままここにい続けたら…

そこそこ安定はしているかもしれないけど。

そのまま終わってしまうような気がした。


「ここらで稼ぐのも。そろそろ潮時、か」

先程、バージェスが呟いていた言葉を。

今度は俺がつぶやいた。



そんな俺に、ギルドの職員が声をかけてきた。


「アルバスの旦那。旦那を指名した依頼書が来てますよ。旦那の周りに人がいない時に渡して欲しい、って言われてまして…」


そう言って、ギルドの職員が渡してきたクエスト用紙。


『【作業】ヤック村共同浴場の清掃』

報酬2000マナ。依頼主プリン。



「なんじゃこりゃ…」


「拒否もできますけど?」


「いや…、ご指名なら。受けるよ」


そう言って、俺は約2ヶ月ぶりに共同浴場へと向かった。


ようは『たまには顔を出せ』ってことだろう。


「2,000マナなんて出さなくても。呼んでくれればいつでも行くって」

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