09 薬草コラボレーション
冒険者は、ギルドに冒険者としての登録をすることで、クエストの受注が可能になる。
冒険者は、ギルドのクエストボードに張り出してあるクエストから、身の丈にあったクエストを受注してクエストに臨む。
では…
そのクエストは誰が発注するのか。
それは、
どこかの村の村長だったり。
薬草農家の女主人だったり。
ギルドそのものだったりする。
そして、実は。
冒険者ギルドには、冒険者としての登録とは別に、クエスト発注者としての登録というものが存在する。
考えてみれば当たり前だ。
仕事を受ける側の身分を保証することも大事だが。
仕事を発注する側の身分を保証することもまた、仕事を仲介するギルドとしての大事な役割なのだ。
俺は、冒険者のクエストに同行するにあたり。
ギルドに冒険者としての登録を行っていた。
だが同時に、商人として素材の収集を依頼することもあるかもしれないと。クエスト発注者としての登録も行っていた。
だから。
その気になれば、クエストボードにいつでも俺の依頼を貼り出すことができた。
『【作業】ヤック村で薬草摘みの手伝い』
これが、俺の依頼。
「なんじゃこりゃぁぁぁーーー!!!」
早くも気づいたバージェスが、断末魔の絶叫を上げた。
「依頼主アルカナ」 → 「依頼主アルバス」
毎日張り出されていたそのクエストの。
その違いに、一瞬で気づいたようだ。
だが、一瞬怒りに満ちていたその顔が、徐々にニヤけてきた。
「報酬1日300マナ」 → 「報酬1日100マナ+薬草風呂(混浴)の入浴」
「アルバスぅぅぅーーー!!! 貴様なんてことをーーーー!!!!!」
共同浴場の管理人の少年には。
アルカナ達と話した翌日に話をつけた。
浴場に、アルカナが作った薬草粉末を混ぜて薬草風呂にして。
元々男性用だった時間帯を、その日だけは女冒険者も入れるように(という建前で)混浴化してもらった。
もちろん。普段は男性用になっているその時間に、村の女達が来ることはないだろう。
女冒険者がこのクエストを受けるかどうかについては、俺の力の及ばぬ範囲だから…知らない。
せいぜいいい夢見ろよ。バージェス。
バージェスが騒いだせいで、他の冒険者達も「なんだなんだ」と依頼書を覗き込んでくる。
バージェスは、慌ててその依頼書をひっぺがして受け付けに走った。
「この依頼。俺がもらったぁぁぁーーーー!!! 誰にもわたさねぇぞ!?」
「じゃ、俺も!」
「俺もだ!」
次々とクエスト用紙をちぎって、受付に走る冒険者達。
冒険者なんて、スケベな奴らばかりだ。
「なんだとっ!?」
そしてパニックになるバージェス。
「なぜだ!? 俺だけの混浴が!?」
「俺だけの混浴」だったら、ただの1人風呂だろーが。
「悪いなバージェス。その依頼の定員は、30人だ。同じ依頼書が30枚貼り出してあるぜ」
「ん、なにぃぃーーーー!っ!?!?」
そして定員30人はあっという間に満員になり。
結論として。
女冒険者は1人も来なかった。
そりゃそうか…。
→→→→→
怒りのままに薬草を摘みまくるバージェス達。
だが、女主人アルカナと、娘のプリンの汗を流す姿を見て。デレる。
俺は、その間を走り回って、満載になったカゴを片っ端から俺の「倉庫」へと収納し…
アルカナの薬草保管庫へと運んでいく。
そして、次々に新しい空のカゴを渡して回った。
たまに、プリンに見惚れてるやつを小突く。
クエストの依頼主として、サボってるやつを見たら仕事に戻らせる。
冒険者なんて。
スケベな奴らばかりだ。
そのくせ、中年を過ぎても独り身で。
こんな田舎のギルドで腕っ節一本で生きてるような奴は、皆、超絶奥手だ。
バージェスと同じく、理由がなければ女性に話しかけられないような奴らばかり。
バージェスは、変なところでアグレッシブだけど…。
「後が怖いけど…。とりあえずはなんとかなったな」
30人の屈強な冒険者達による、怒りの薬草摘みで。
収穫不可能と思われた裏山の薬草は、1日でほとんど収穫されてしまった。
アルカナとプリンは抱き合って喜んでいた。
→→→→→
そして。
運命の混浴薬草風呂の時を迎える。
女冒険者が1人も来なかった以上。
その混浴に女性が現れる可能性は限りなく低いだろう。
だから、たぶん。
俺は半殺しにされる。
ちなみに、アルカナから俺への発注金額は一人頭270マナ。
俺からギルドへの支払いは110マナ(冒険者に行くのは100マナだけど、1割はギルドのマージン)
薬草風呂の薬草は、アルカナが端材を使って用意してくれたので、ありがたいことに今回はタダだ。
そこからさらに風呂代として、俺が共同浴場の管理人に支払う30マナを差し引いて。
今日の俺の儲けは。
130マナ×30人=3,900マナ
だ。
「3,900マナで半殺しか…」
たしかに、普通にガイドや荷物持ちをするよりは稼げはしたけど…。
「はぁぁ…」
この後のことを思うと、俺はかなり気が重かった。




