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幸せの形  作者: 南辺万里
5/5

5:襲撃&エンディング

本日5話目です~&完結ですよ!

 アリシアが街門へとたどり着くと、幸いにしてまだ門は閉められていなかった。

 街へと入ろうとした多くの人達で閉めるに閉められない状況で、門兵達が声を張り上げて誘導しているのが見える。


 「立ち止まるな! 中に入ったら左右へ進め! 足を止めるな!」


 「走れ走れ! 立ち止まるな!」


 街の中へと入った事で、安堵し、座り込む者達が多い。その為、次々と雪崩れ込んでくる人達の邪魔となり、人の流れが滞っている。兵士達は座り込んだ者達を退け、よりスムーズに人々を誘導しようとするが、次々と座り込む者達がいる為にそれも上手くいっていない。


「よ、良かった、間に合った」


 人の流れに揉まれながら、アリシアは無事に街の中へと入ると安堵の溜息を吐く。


「でも、何があったの?」


 何があったかを知る為にあの場に留まるなど愚の骨頂。

 赤い煙に自分が関われば死ぬ事は決定事項である。その為、街へ駆け込む事は最優先ではあるが、安全な街中へと入る事で今度は好奇心が芽生えた。


「ギルドに行けば何かわかるかな」


 好奇心に誘われてギルドへと向かう。

 街中は至る所で人々が状況が判らずに戸惑い、集い情報を集めようとしているのが見える。


「うわ、凄い数の人」


 ギルドの外では見た事のある職員が周囲に集う人達に大声で現状集まっている情報を告げている。

 ただ、その内容はまったくという程に内容が薄い。ただ赤い煙が上がったことを告げているのみで、なぜ その赤い煙が上がったのか、その原因をギルドはまだ掴んでいないようだった。


 カン! カン! カン! カン! カン!


 アリシアはギルドへと足を踏み入れるか悩んでいると、街中に鐘の音が鳴り響く。

 

「5回、5回、5回って!」


 鳴らされる鐘には決りがある。そして、今鳴らされている鐘の音が示しているのは魔物の接近警報。

 近づいてくる魔物の数、その数は多数! 

 その鐘の音に誰もが足を竦める。


「そんな......戦争だと......」


 周囲からそんな声が聞こえる中、ギルドからは次々と武器を手に冒険者達が駆け出してくる。


「外壁へ急げ! 外壁で食い止めるしかないぞ! 援軍を要請しろ!」


「領主の所へ行くぞ、物資を門へ運べ!」


「敵は、敵は誰だ!」


 様々な叫び声が周囲に轟く。

 冒険者ギルドの傍にある今まで静寂を保っていた衛兵詰め所からも、多数の衛兵が武器を手に街壁へと走り出していく。

 アリシアはその流れを避け、ギルド入り口横にいたがどうすれば良いのか判断が付かず、ただギルドの前で立ち尽くすのみ。

 アリシアの頭の中では魔物との戦いはあっても、同じ人同士の殺し合いなど想定外。不安、恐怖などの負の感情が犇めき合い、混乱し、まともに思考が出来ない。

 その為、すべての行動を阻害し立ち尽くしていたのだ。


「きょ、教会へ行こう」


「そうだ、教会だ、教会へ逃げ込め」


 そんな中、周囲の人達が口々に教会という言葉を口にする。

 

「教会、教会なら安全なのかも」


 アリシアも次第に此処にいるよりは教会の方が安全、そんな事は無いのだがそういう風に思った。

 何より神の威光強き教会は国とは独立した組織。いくら戦争であっても蹂躙を許す事は無い、勝手にそんな事を思いながらも少しでも生き延びられる可能性を求めてアリシアは周囲の人々と共に走り出した。


「あ、うそ、とてもじゃ無いけど入れないよ」


 教会へと到着すると、その教会から人が溢れていた。

 多くの人達が同様の事を考え、教会へと助けを求めた。その結果、この街では比較的大きな建物であった教会ではあるが収容人数の限界に達してしまった。


「慌てないでください。どこの兵士が来ても教会にいれば安全です! 神は皆さんを見捨てたりしません!」


 司祭様が声をはり上げている。助祭様や神官様が教会前の至る所に立ち、集まった人達に何かを話している。周囲の喧騒でその内容は聞こえて来ないが、その姿に集まって来た人達はようやく冷静さを取り戻していくように見えた。


「街壁もあるし、兵士や冒険者もいる。大丈夫さ」


「でも戦争って聞いたよ? あの鐘だと100じゃ利かない数だよね?」


「教会に入れないなら家にいるほうが安全か?」


 集まっている人達の言葉は、そのままアリシアの抱く不安そのままだった。

 それ故にアリシアは不安に駆られ、より詳しい情報を求めて右往左往する中で最悪な形で情報を得る事となる。


「お、おい、あれなんだよ」


「え?」


 一人の男が突然指を指す。

 訝しそうに皆が視線をその先に向けると、普段見かけない何かが視界に入った。


「なんだ? あんな建造物あったか?」


 視線の先に聳え立つ何かが見える。しかし、この街で長く暮らしてきた彼らは、あれほどの高さを持つ建造物この街に存在しない事を知っていた。


「あんな高い建物あったか? 物見台より高いぞ?」


「あれ、今動かなかったか?」


「そんな事あるはず......」


 誰かがその言葉を否定しようとした瞬間、建造物だと思った物がそのまま街に向かって倒れてきた。


ドドドドド~~~ン!


 響き渡る重低音、揺らめく程に振動する大地、皆が地面へとへたり込みながらも、視線は先程までと変わらぬ方向を向いている。


「な、なに、あれ」


 砂煙が舞う視線の先には、街の家々を押しつぶす様に太い柱を纏めたような見た事も無い物が見える。

 そして、遠目にその柱から何かがポロポロと零れる様に落ちていくのが見えた。


 「おい、マジか、街壁が突破されたぞ! なんだよあれ!」


 誰もが目の前に広がる光景に呆然としていた。

 頼みにしていた街壁が容易く突破され、街に次々と侵入してくる。

 

 その存在を己が眼にて目撃した人々の表情に......絶望が広がる。

 体躯は決して大きくは無い。人族の標準身長の3分の2くらいか、ただその全身を覆う体毛、軽快に飛び降りてくる身軽さ、呆然と眺めている人々へと駆け寄る素早さ、人族よりも優れている種族としての特性が如何とも発揮される。


「コボルト......、よりにもよって」


 亜人の中でも取り分け人類の天敵と称される存在。

 その姿を確認した人々は、誰もが力尽きたかのように地面へと跪いたのだった。


「な、に? あんな、あんな、聞いていた、でも」


 侵入してくるコボルトの姿に動揺するアリシアであったが、教会の前にいる人々は違った。

 彼らは一斉に教会へと足を進め、建物の中へと駆け込もうとする。


「コボルトはモフル神の眷属だ、教会の権威も意味が無いぞ」


「今を凌ぎ切れば!」


「奴らは鼻が良い、匂いを誤魔化す事を忘れるな!」


 叫びながら教会に見向きもせず逃げ去る人達、無情にも教会の扉は既に閉じられている。

 恐らく侵入してきたのがコボルトと気が付いた段階での対応だろう。教会の外にいた神官達すら回収せず扉は閉じられた。


「コボルトは目ぼしい物を手に入れれば自身の国へと戻っていく。怒らせなければ虐殺などは行わない」


 真実かどうかは判らないが、これは昔から言われている事。それでも人々は生き延びるために、今を凌ぎ切れる事に全力を注ぐ。

 問題はコボルトが欲しがる物が、食料、酒、武器などの装備、そして労働力=人である事。

 彼らは農業や産業などの生産活動が非常に苦手だ。そもそも、彼らの手はそのような活動に不向きであり、それ故に他種族を飼う。


「あ、あれ?」


 気が付けばアリシアの周囲には誰もいなくなっていた。

 つい先ほどまで教会の扉を叩いていた神官も、地面に蹲っていた人達も、アリシアが悩んでいる間に皆逃げ去っていたのだった。


「に、にげ......」


「クォン」


「え?」


 慌てて逃げようとしたアリシアは、背後から聞こえた聞きなれない鳴き声に振り替える。

 アリシアの真後ろには、一頭の真っ白でふわふわの柔らかそうな毛をしたコボルトが、円らな瞳で自分を見上げているのに気が付いた。


「かはっ」


 アリシアは吐血して地面へと倒れこんだ。

 未だかつて体験した事の無い攻撃を受け、意識を保つ事も危うい。

 それでも、ここで意識を手放せばコボルト達に意気揚々とお持ち帰りされてしまう事は疑いが無い。


「に、逃げなきゃ、洗礼を、受けて、幸せに、なるんだ」


 洗礼を受け、スキルを手にして幸せな生活をする。

 生まれた時から得る事の出来なかった温かい家族、それを手に入れるんだ。こんな所で終わる訳にはいかない。

 ただその思いだけで震える足を叱咤し、立ち上がろうとする。

 そんなアリシアの努力を嘲笑うかのように、コボルトはアリシアの手に頭を押し付けてくる。


「クゥン」


「あああ......」


 未だかつて触れたことの無い柔らかな手触りがアリシアを襲う。

 アリシアは知らず知らずにコボルトの頭を撫で上げていた。


「な、なんなの、この手触りは」


 未だかつて感じた事のない、極上の手触りにアリシアは魅了された。

 この時、アリシアは今自分の置かれている状況を確実に忘れ去っていた。


「うわぁ、ふわふわでモコモコだ」


 そんなアリシアの手に、コボルトはまるでもっと撫でろと言うが如く、頭を擦り付けてくる。

 コボルトのふわもこ魅了スキルが発動していた。

 人類の天敵と呼ばれる所以である最強攻撃スキルの内の一つである。まだ洗礼すら済ませていないアリシアにその攻撃をレジストなど出来ようもなかった。


「ほわほわ、もこもこ」


 アリシアの目から次第に意思の光が消えていく。無心にコボルトを撫でつけるアリシア、彼女を止める者など周囲には誰もいない。それどころか、アリシアの周囲に一匹、二匹とコボルトが近づいてきていた。


「クゥン」


 新たな鳴き声に右に視線を向けると、そこにもコボルトが座りアリシアへと期待の籠った眼差しを向けている。


「あああ......」


 アリシアが零した声は、歓喜の声であったか、悲しみの声であったのか、ただ、アリシアは空いていた左手でもう一匹のコボルトを撫で始める。


「ふわわわわ、足し算じゃないです、掛け算です」


 掛け算であればより減りそうな良く判らない感想を零すアリシア。

 お持ち帰り確定まっしぐらの危機にすらもはや気が付いていない。

 そうこうしている内にアリシアを取り巻くコボルトの数が一匹、二匹と数を増やしていった。

 アリシアの膝に頭を乗せるコボルト、背中でスリスリするコボルト、目の前でちょこんと座り首を傾げながら円らな瞳で見上げるコボルト。多種多様なコボルトに囲まれ、アリシアは陥落した。


「ふわ、はわ、もふもふ......はぅ」


 アリシアは遂に言葉にならない声をあげ、意識を失ってしまう。

 

 「ヴォン!」


 アリシアの周囲に集っていたコボルト達は、その鳴き声を受けて一斉に動き出した。

 何時の間にか用意されていた馬車へとアリシアを入れる。その馬車の中には、アリシアと同様に締まりのない顔をして意識を失った多数の人族が詰め込まれていた。


 「クヴォン」


 中の状況を確認し、大きく頷いた白モココボルトは馭者席へと飛び乗るとまた声をあげる。

 馬車は何時の間にか解放された門をゆっくりと通過していく。前にも後ろにも同様の馬車を見て取れた。


 その後、他の街からコボルト耐性を身につけた猫又騎士団が駆けつけたが時すでに遅く、コボルト達は多数の戦利品を手に立ち去った後であった。

投稿の際のスタイルがだいぶん変わってました!

ちょっと戸惑いました><

最後のコボルト落ちを書きたいがために書いたお話ですw

うん、前振りが長いですね・・・・・・

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