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デクステラ大陸物語—機構弓剣使いと精霊追いの魔導士  作者: 猫ろがる
第一章 行き倒れの天才魔導士
9/21

08

「よし、こんなところか」


 中々に満足のいく成果に俺はフッと一息、胸を撫で下ろした。

 そもそも俺はあまり魔法が得意じゃない。

 素質こそあれど魔法の仕組み自体を大雑把にしか理解してない俺は、一つの魔法を修得するまでの時間がそこらの魔導士に比べて掛かりすぎる。

 特に、いま発現した魔法は俺が扱える魔法の中でも修得するのに最も時間が掛かった。

 まぁだからこそ、最も威力のある魔法でもあるんだが。

 さて、そんな俺の魔法は〝天才魔導士様〟から見たら評価は如何ほどだろうか。

 そんな事を思いながら俺は後ろを振り返る。

 しかし、何やらさっきとは打って変わって神妙な面持ちだ。


「……あんたも使えたのね、〝精霊術(せいれいじゅつ)〟」


 唐突に聞きなれない言葉が出てきた。

 何を言っているのかさっぱりな俺は「せいれいじゅつ……? なんだそれ?」とサラに訊いてみるが、「あぁ、やっぱりこの呼称じゃ伝わらないのね。知らないなら知らないでいいの、気にしないで」と、適当にあしらわれた。

 そう言われると余計気になるのが人間の性だが、どうせ聞いても答えてくれはしないし、まぁいいかと俺は自身を納得させた。

 

「にしても、なに? あの魔物たち。あれだけ仲間がやられてるのに、逃げないなんて普通じゃない。あんたもそう思わない?」


 問われて俺は、確かに変だと考える。

 サラの言うように魔物たちは、全く臆する事無くまだ馬車を追いかけて来る。

 魔物と言っても他の野生動物と同様に奴らにも恐怖を感じる知性はあるはずだ。

 ましてや群れの四割もやられていれば力の差を感じ取り、全滅を回避するために退くぐらいの生存本能は働くはず。

 なのに、奴らは退く事無くこっちに向かって来る。


「あぁ、おかしいな。昨晩のおっちゃんの話じゃないけど、そんなに飢えてんのかあいつら?」


「どうかしら。私はそうは見えないけど」


「……だよな」


 自分で言いながら気付いたが、よく見れば魔物たちはみんな毛艶も良く瘦せ細ってる様子もない。少なくとも餌にありつけず飢えてるわけではなさそうだ。

 ……じゃあ、なんだ。何がそんなに奴らを駆り立てる。


「単純な殺意」


「なに……?」


 ボソッと呟いたサラの一言に俺は眉を(ひそ)めた。


「だって、それしか考えれないの。ここ最近、どこの地域でも魔物が凶暴化している話はしたよね?」


「言ってたな」


「その中で、魔物に襲われて壊滅した村の話もしたじゃない?」


「したな」


「おかしいと思わない?」


 そう訊かれたところで、何がおかしいのか見当も付かない。

 そんな俺の様子を見て「はぁ……」と、額に手を当て首を振りながらサラは息を吐いた。


「おかしいの。人が多く住む村を襲うこと自体が」


「なんでだ? それこそ飢えてて餌欲しさに村を襲ったんじゃねぇのか」


「そう思うわよね、普通。でもよく考えてみて? わざわざそんな危険を冒す必要なんてないと思わない? ここイデアルタ共和国は山や森、湖などが多く自然に恵まれてるうえ、野生動物も多く生息してるじゃない。つまりは魔物にとっての〝餌となるもの〟が豊富なわけ。自分達の命を賭けてまで村を襲う必要なんてあるかしら?」


 そこまで話を聞いて、ようやく俺も合点がいく。

 なるほどな、言われてみれば確かにそうだ。魔物だって生物、自然の一部だ。自然の一部なら当然、自然の摂理に従って生きている。腹を満たす為に必要なだけの餌を取り、種を繫栄もしくは消滅させないように子孫を残す。なら出来るだけ、危険が少なく自分達より弱者である存在を狙った方が良いに決まっている。人ひとりを襲うならまだしも、村単位で襲うのはおかしい。そして、その理屈で言うなら明らかにあの魔物共の行動は自然の摂理から逸脱している。


「単純な殺意、か。あの魔物の様子を見てるとあながち間違いじゃねぇかもな」


「理解したみたいね」


「まぁな。でもそうなると〝まるで人〟みたいだな」


「へぇ、なかなか鋭いことを言うじゃない。因みにになぜそう思ったの?」


「いや、生物は食うためや自身あるいは種を守るために他を殺すけどよ。人はそれ以外の理由で他を殺すだろ? 例えば、私怨で殺したり……とか」


 或いは〝あの男〟のように暇つぶしでな。


「良い答えね。そう、人は生物の中でも最も知性に優れていて、それ故によく感情が働く動物でもあるわ。だからこそあんたの言う怨みだったり、怒り、嫉みで他者を殺すことの多い動物とも言える。これは私の推測だけど、あの魔物たちも〝何かしらの原因〟でそういった感情が働いているのかもしれないわね」


「つまり人を殺したくなるほどの強い感情が魔物に芽生えたってことか? でも、そんなことあり得るのかよ。言っても所詮は魔物だぜ? 人みたいに激情に駆られるほどの知性はないだろ」


「そうなの、そこが謎なのよね……。知性に乏しい魔物が自発的にそんな感情を抱くわけがないのよ。もし仮にそうだったとしても、凶暴化は大陸全土で起きているし、何かしらの要因があるとしか……。じゃあ、それは一体――」


「じょ、嬢ちゃんたち! なんか色々話し込んでるけど、もうそろそろ馬が限界なんだが⁉」


 馬車内に焦燥感たっぷりの叫びが轟く。

 おっちゃんの言う通り。二頭の馬からは疲労の様子が伺え、速度も徐々に落ちてきている。

 そんな中、呑気に議論を交わす俺たちを見ておっちゃんはどう思ってたのだろうか。

 考えるだけで、少し可哀想になってきた。

 ……そろそろ決着けりをつけるか。そう思い、俺は再び機構弓剣を構えた。


「あぁ、ちょっと待って」


 俺の武器を構える腕を掴んでは下げ、サラが俺の前をずいっと横切った。


「あとは、あたしがやるわ。あんたに本当の詠唱魔法というのを見せてあげる」


 ――なるほど。


「じゃあ、お手並み拝見とさせてもらうか。天才魔導士様の魔法とやらを」


 少し皮肉を込めて言ってやると、「度肝抜いてあげる」と怯みもせずに返されてしまった。

 こいつは期待できそうだ。それに俺自身、魔導士の本気の魔法というのを見たことがない。いずれこの手で殺す〝あの男〟もまた魔導士だ。今のうちに見慣れておいて損はない。

 俺は見逃さないと、サラの手元に集中した。

 先に迫る殺意を纏った魔物の群れを見据え、サラが掌をかざす。瞬間、紅い魔法陣が展開され火球が現れる。

 〈火焔球(ブラム)〉かと思ったがどうやら違う。と、サラが詠唱を始めたことで俺は気付いた。


「生と死を司る(ほむら)よ 現在(いま)こそ(いか)りを(つばさ)に変え 地上の愚物を滅却せよ――」


 そこまで唱えるころには、火球は途轍もなく膨れ上がり、昼間と間違いそうになるくらい煌々と燃え上がっていた。熱気も凄まじいが、一番近い位置にいるはずのサラは涼しい顔をしている。そしてまた一つ、紅い魔法陣が前方の魔法陣の手前――サラの掌の近くで展開した。


「下すは神罰(しんばつ) 燃ゆるは愚物(ぐぶつ) 灰燼(かいじん)に帰せ――燃ゆる不死鳥の神罰ロゥルダ・ディヴィン・ドゥ・フィニック‼」


 唱え終えると同時に、サラはかざした右手を左手で打ち抜くように叩いた。パンッという音と共に手前の魔法陣が前に押し出され、前方の魔法陣と重なる。瞬間、煌々と燃える馬鹿でかい火球が勢いよく放たれる。

 そして火球は翼を大きく広げ、燃え盛る鳥の姿に変貌した。その一連の流れは、さながら卵から孵化し羽ばたく鳥のように思えた。

 焔を纏って燃える鳥は、魔物の群れ目掛けて飛んでいく。

 危険を察知した魔物は各々ばらばらに逃げようとした。が、もはや遅すぎる。


 焔を纏った鳥――サラの詠唱魔法が群れの中心で煌めいた。


 一瞬だった。轟音と共に眩いばかりの激しい光と熱量が群れを包み込み、大地もろとも焼き尽くす。

 あまりの威力で後に来た余波。つまり熱風が馬車に叩きつけられ、驚いた馬がその足を止めてしまった。

 そして急に止まった勢いで馬車が横に滑り、俺もサラも体勢を崩しては危うく馬車の荷ごと外に投げ出されそうになる。


「――サラ!」


 俺は叫ぶと右手でサラの腕を掴み、左手で馬車の縁を掴むことでなんとかこれを凌ぐ。

 おっちゃんはおっちゃんで手綱をしっかり握り、これを耐えている。

 全部、僅か数秒の出来事だ。


「全員無事……だな?」


 横滑りが止まったところで俺は、ひとまず生存確認をした。


「私は余裕」


「お、俺もなんとか生きてるみたいだぜ。生きた心地がしないがな、ハハハ!」


 軽口が言えるなら問題なさそうだ。

 俺はそう思うと馬車から降り、魔法の炸裂した方向を見る。

 サラの魔法が発動した一面は焦土と化していて、何十匹といた魔物の姿は何処にも見当たらない。全てが灰となっていた。

 俺は思わず苦笑した。


「どう、私の詠唱魔法の威力は?」


 馬車から降りてきたサラが、俺の顔を横合いから覗くなりドヤ顔を作る。


「やり過ぎだ、バカ……」


 俺は苦笑したまま、そう返してやった。

 しかし、こいつの魔導士としての実力は本物中の本物だと改めて認めるしかなかった。

 俺は拳をそっとサラに突き出す。


「なに?」


 と、怪訝そうに見るサラ。


「なんでもいいからお前も拳を出せ」


 俺が促すと、意味が分からないとぼやきつつサラも拳を出した。

 俺はサラの拳に自身の拳を当てると、一言。


「おつかれ」


 そう言って笑ってやった。


「いや、意味が分からないのだけど」


 サラは謎の行為にどこか気味悪がっている。

 まぁ、それもそうだ。この行為はかつての親友たちとの間でしかやらない。相手の行動や実力を認めた時にすることだ。分かるわけがない。

 しかし俺は、何故だかサラにそれをやっておきたかった。……たぶん、こいつにかつてのあいつらを重ねたのかもしれない。


「まぁ、いいわ。それよりも魔物も片付いたし、いつの間にか夜も明けたみたいだから早く首都を目指しましょ」


「あれだけの魔法を発現させておいて、疲れ知らずかよ」


「そうでもないけどね。流石に少し疲れたから馬車の中でゆっくり休むつもり。だから、〝あの場所〟は私が使うからよろしく」


 俺に宣言しては足早に、サラは馬車に乗り込もうとする。


「あ、おいちょっと待て! 話が違うじゃねぇか! そこは俺が使う予定だろ⁉」


 慌てて俺も馬車に乗り込もうとするが――。


「その前にお二人さん! ……散らばった商品を元に戻してからじゃないと、出発はできないよ? 馬達も休ませなきゃならないしな」


 と、にこやかに笑いながらおっちゃんに言われてしまった。

 辺りを見れば、確かに一部の商品が地面に散乱している。

 その現状を把握した俺とサラはお互いやっちまったなとまた顔を見合わせては、ただ素直に商品を拾い始めた。

 暫くして商品を全て元に戻すと、馬車は再び首都イデアルタを目指し走り始める。


 無論、俺がまた窮屈な場所に座っていることは言うまでもない。


お読みいただきありがとうございます。

ここで第一章は終了です。次回、第二章に入る前に幕間を挟みます。ただ長いので二分割にすると思います。タグにある通り、視点が変わりますのでご注意ください。と言っても、今回は序章のような形で主人公視点の三人称っぽく書いてあるので序章が読めた人は大丈夫かも?

では次回も、20時以降に投稿すると思いますので宜しくお願い致します。m(__)m

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