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デクステラ大陸物語—機構弓剣使いと精霊追いの魔導士  作者: 猫ろがる
第一章 行き倒れの天才魔導士
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幕間 追憶の章「かけがえのない日々」 01


 鋼と鋼が激しく打ち合い、火花が散った。


 甲高い音ともに、一人の少年が持つ細剣が手元から弾き飛ばされる。

 しまった。と、口にこそ出さなかったが、少年の焦った表情からはそんな言葉が見て取れた。


 弾かれた細剣はカラカラと石畳の地面を滑り、やがて止まる。少年はその細剣の行方を目で追うが、それだけで拾いに行こうとはしない。いや、行けなかったと言った方が正しいか。


 何故かは、その少年の首元に視線を移せばわかる。


 陽光に照らされキラリと反射する細剣の刃先が、少年の首筋にあてがわられていた。しかし、細剣の刃は全て丸みを帯びていて、少年の首を切ることはない。けれども、その少年の表情は硬く、額からは一筋の汗が流れていた。

 そして、その剣を持つのは水色に近い青髪の少年。ぱっと見、女と間違うほどに端正な顔立ちをした美少年だ。


「僕の勝ちだね、リヒト」


 凛とした表情でそう告げる美少年。

 対して〝そこの俺〟は両手をあげ、諦め切った顔で「くっそ、また俺の負けかよ」と吐き捨て悔しさを滲ませた。


 直後、周りからは割れんばかりの歓声と拍手が沸き上がる。


 歓声の多くは黄色い声援で「フィリオア様、素敵!」「フィリオア様こっち向いて!」「フィリオア様、あ、あ、愛してます!」などの〝フィリオ〟ばかりを贔屓めいた言葉が目立つ。

 それをフィリオは丁寧に、優しく微笑みながら手を振って応えている。するとまた、黄色い歓声がどよめく。そんな状況をフィリオはどことなく困っていた。


「さすが、人気者は違うな。羨ましいぜ」


 横から皮肉交じりの笑顔でそこの俺は言い、スッと拳を胸元あたりまであげた。


「からかうのはよしてくれよ、リヒト。絶対そんな事を思ってないだろ?」


 と、苦笑いをしつつフィリオも拳をあげた。

 そして、ほんの少し時をおいてから。


「フィリオ、お前はやっぱり強ぇよ。でも、次は俺がぜってぇ勝つから」


「リヒトもまた腕を上げたね。だけど、次も僕が勝たせてもらうよ」


 そう言ってから拳をぶつけ、笑いながらお互いを称えあった。


 そんな二人にずいっと近づく大きな人影。二人はそれに気付くと姿勢を正し、体ごと向き直る。


 その人影はこの騎士学校の教官であり、当時の俺たち初等部を受け持つ教官の一人。見た目は筋骨隆々としていて、背丈も〝今の俺よりも〟頭一個分はでかい大男だ。丁寧に切り揃えた顎髭が特徴的で、誰から見ても暑苦しい男ってのがよくわかる。


「うむ! 二人とも、実に素晴らしい一戦だった! 俺は感動したぞ!」


 野太く大きい声が二人の頭上から降り注ぐ。


「フィリオアは教練にて教えた剣技を完璧に使いこなしてたな、流石だ! それでいて中等部で習うはずの型を既にものにしているとは驚いたぞ!」


 この教官は感動しいなうえ、大袈裟なほど声がでかい。ただでさえ暑苦しい見た目に相まってさらに暑苦しさを助長していた。まぁでも、夢とは言え本当に懐かしい。


「リヒトもよく頑張った! お前の予想付かない動き! 型に嵌らん剣技! は、些か問題あるが! 何より的確にフィリオアの多彩な剣技を受けきる反応力と瞬発力、見事だった!」


 毎度いつも通りの教官に、表情に出ないよう呆れつつも「ありがとうございます、アルドル教官!」と敬意を表する二人。


 何だかんだでこの教官の事は嫌いじゃなかった。暑苦しいが義理人情にも厚く、誰にも分け隔てなく、それこそ身分の違いなんてのも関係なく平等に接してくれる良い教官だ。だからだろう、アルドル教官は校内の誰からも好かれる人だった。


「うむ! では今回の模擬戦はこれにて終了とする! 他の皆もよく頑張った! しかし、来る中等部への昇格試験を通過するにはまだまだ未熟! 各々、今回の結果を省みて次に生かすよう努力するように! 以上、解散!」


 教官のその言葉の後に「ありがとうございました!」と訓練生が一斉に声を上げた。

 同時に午前の終了を告げる鐘が、リーンゴーンと鳴り響く。


「よし、メシだメシ!」


「お腹すいたねー」


「今日の献立は何かな?」


 成長期の子供らしく昼食の話を口々に言いながら、校内に戻っていく訓練生達。


「あぁ、俺もめちゃくちゃ腹減った。フィリオ、俺たちも早――っ!」


 早く行こう。と、そこの俺は言おうとしたが、何者かに体を押され言葉を阻まれた。


「フィリオア様! 先程の戦い、改めて見惚れてしまいましたわ!」

「フィリオア様! 御昼食を一緒に取りませんか!」

「フィリオア様! あ、あ、愛してます!」


 フィリオの信者どもだ。それも狂信的な信者。その信者の中には貴族の御令嬢なんかも混ざっている。


 因みにフィリオは平民出身だ。普通、お高くとまった貴族の女が平民を相手にすることはないんだが、この場合――むしろ貴族の女の方からすり寄っている。

 それだけ貴族の女どもの中でもフィリオは特別ってことなんだろう。まぁ、その理由はなんとなく分かる。


 俺がフィリオと出会ったのは歳が十の時。此処、騎士学校に入学した時だ。

 当時からフィリオはどこか気品があり、端正な顔立ちと中性的な声がそれをより強く感じさせた。立ち振る舞いも常に凛々しく、そこらの同年代の貴族なんかよりよっぽど貴族然としている。それでいてあの剣技だ。初等部の中でも一番の実力者でもあれば、惹かれない女はいなかった。


 それにこいつからは、何か内に秘めた信念みたいなものが感じ取れ、より一層特別な雰囲気を醸し出していた。

 だが――そんなフィリオもこの時ばかりは、自身の信者たちに囲まれて困り果てていた。

 助け舟を求め、フィリオがそこの俺に「助けてくれ」と目で合図をしている。

 しかし意地の悪いそこの俺は、フィリオの置かれた状況を不服そうにただ見ているだけだ。


 この時の俺は、確か内心で困れ困れと思ってたはず。


 それを悟ったフィリオがじとっと睨み返してくる。

 後で覚悟しときなよ。とでも言ってるようだった。


 フィリオは優しそうな印象とは裏腹に、怒らせると本気で恐い。

 しばらく口を利いてくれないこともあれば鍛錬の相手時、容赦がなくなったりもした。

 最も手痛いのは、たびたび出される課題の書き写しをさせてもらえないことだ。


 まぁ、いま思い返してもどれもこれも自業自得なわけなんだが――。


 流石にまずいと思ったのだろう。そこの俺は親友に助け舟を出すべくやっと動く。


「おい、そこの女子ども! フィリオが困ってんだろ? いい加減、開放してやれよ」


 群がる信者に言い放つが、その中の一人――如何にも貴族の令嬢だと分かるような格好と瀟洒(しょうしゃ)な縦巻き金髪をした娘が振り返り、キッと睨んだ。


「またあなたですか。事あるごとに私達、フィリオア様親衛隊の邪魔をしてきて何のつもりなんですの?」


 始まった。思えば何かあるたびにこの親衛隊、もとい狂信者どもはフィリオを囲っては困らせて、その度に俺が助け舟を出していた。

 その都度、俺とこの狂信者どもは衝突してきたんだったな。


「なんのつもりって、いつも言ってるしさっきも言ったろ。俺は困ってる親友を開放してやれって言ってんだよ」


 ぶっきらぼうに言い切る。当時から俺は口が悪い。


「な! お姉様に向かってなんて口の利き方を⁉ 許せないです、この男!」


 取り巻きが案の定な反応を示す。気付けば、狂信者どもが全員そこの俺を睨んでいた。


「落ち着きなさい。私は気にしていませんわ……しかし、あなたとフィリオア様が親友? 妄言も甚だしい。それに関しては私、少々不愉快ですわ。それに毎度毎度の狼藉、今日という日はもう許しません。この私、フィリオア様親衛隊隊長――ヴィコント・アムール・マルル・シエル・ラメール・ナチュール・モアが直々に成敗してくれます! 剣を取りなさい!」


 長ったらしい口上と長ったらしい名前を告げた後、どや顔で細剣を引き抜いた。

 決闘の合図として、その切っ先をそこの俺に向ける。

 ついでに取り巻きも「素敵です! お姉さま!」なんて、綺麗に声を揃えて言いやがる。

 対してそこの俺は――うわぁ、めんどくせぇ。と、あからさまな態度をとっていた。


「……ようはアムール・マルルだろ、お前の名前は? 自分の名前に誇りがあるのはいいけど一々全部名乗るのも疲れねぇか?」


「うるさいですわよリヒト・グランツェア! いいから剣を取りなさい! 〝商家の子息〟といえど、ここオルドル騎士学校の門を叩いたのなら騎士道を志すということ! その気概を示しなさい!」


「へぇ、俺のことよく知ってんのな。子爵様に覚えていただけるなんて我が父もお喜びになると思います。でもわりぃけど、遠慮しとくぜ」


 途中、心にもない言葉を吐きつつも最後には自身に戦う意思がない事を告げる。

 これにはマルルも面を食らったのか、一瞬(いっしゅん)唖然としていた。


「な、なぜです! もしや恐れをなしたのですか! だとしたらなんて恥晒し……商家の子息といえど、所詮は〝拾い子〟ということかしら?」


 マルルの言葉と表情には軽蔑の色が伺えた。

 しかし、最後の言葉がよくなかった。商家の子息、拾い子、この言葉は今ならなんとも思うことはないが、当時の俺はこの事に関しては触れられたくはなく非常に癇の障ることだった。


 そこの俺がチッと舌打ちをした。


「だったらなんだよ、いまそのことが関係あんのか?」


 言葉の端には怒気が込められており、表情も険しく変わっていた。

 な、なんですの。とマルルがたじろぐ。

 状況を察したフィリオが「リヒト!」と止めに入るが、そこの俺は構わず続けて言い放つ。


「俺がお前の決闘を受けない理由を教えてやるよ。一つ、まずお前が女だってこと。二つにお前が貴族の令嬢――しかも地方領主様の娘でありいつかはその領地と爵位を継ぐ嫡女だってことだよ。もうわかるだろ? もし、お前の私闘を受けたとして、男の俺が女であるお前を打ち負かしたらどうなる? それが子爵様で仮にもケガを負わせたらどうなる? 答えは簡単だ。俺の親父はお前の親父に問責された挙句、この地での商売の権利を剝奪。あるいは最悪打ち首だろうな。少しは自分の立場を理解しろよ。そもそも――」


「もうよしなさい、リヒト!」






お読みいただきありがとうございます。

続きは明日、20時以降に投稿します。m(__)m

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