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デクステラ大陸物語—機構弓剣使いと精霊追いの魔導士  作者: 猫ろがる
第一章 行き倒れの天才魔導士
8/21

07

「さて、どうするの? もう魔物はすぐそこまで迫ってるみたいだけど」


 サラの言う通り、魔物の群れと馬車との距離はもうそれほどはない。

 結局、魔物は始めっから俺達を狙っていたようで、もうかれこれ三十分はこの状態だ。

 気が付けば空も明るみ始めていた。


「どうするって、やるしかないだろ?」


 俺は革鞘から剣を抜いた。


「もしかしてあんた、馬車から降りてあの数とやりあうつもり?」


「アホ、そんな自殺行為はしねぇよ」

  

「じゃあ、なんで剣なんて……」


 ごもっともな疑問だ。こんなところで剣を抜いたところで意味はない――普通の剣ならな。


「まぁ、見とけって。面白いもん見せてやるよ」


 なに? と、怪訝そうにするサラ。

 そんなサラの前で、俺は左手で握った剣に魔力を流し込んだ。

 剣が淡く光り、手元で灰色に近い無彩色の魔法陣が展開する。


 その後は一瞬だ。


 金属同士が擦れるような音を上げながら、白銀の剣身が半円の飾りの溝を滑る。そして半円の終端で止まると、黒銀の先端から白銀の先端まで弧を描く形状の武器となった。

 さらに白銀の先端――黒銀の剣身に埋まっていた部分――には純白の糸が結われており、黒銀の剣身と繋ぐように溝下内部の巻軸機構(かんじくきこう)へと続いている。


 ここでふと――『因みに巻軸機構(かんじくきこう)というのは魔力を与えれば糸を自動で出したり巻き取ったり出来る絡繰りの事だ』と機構弓剣(こいつ)を打った奴が自慢げに話しているのを何故か思い出したが、説明されたところで『武器としての機能が優秀なら何でもいい』と興味無さげに自身が返答していたのも思い出した。


 ともかく要するにだ。この武器は剣にもなれば――。


「それってもしかして、弓?」


 ご名答。


「そう、こいつは機構弓剣きこうゆみけんって言って魔力を流せば剣から弓に変形する特殊な武器だ。見ててちょっと面白かったろ?」


 まぁ、こいつを打った奴は機構弓剣(アウ・リウ・デスラ)なんて、意味も分からん大層な名前で呼んでいたけどな。


「へぇ……正直言って私、武器とかに興味は湧かないけどそれにはちょっと惹かれるわね」


 そう言ってサラは俺に一歩近づく。


「ちょ、なんだよ……」


 と、俺は思わず後退った。

 しかし、それでも迫って来ては繫々(しげしげ)と機構弓剣を見詰め。


「特に、どうやって魔力で作動させたのか仕組みが気になる……」


 思案顔で呟いた。

 学者としての血が騒いだのだろう。

 その眼は真剣で淀みがなく、さながら純朴な子どものような瞳をしていた。

 だけどだ。今はこいつの知的好奇心に付き合ってる場合じゃない。

 俺は機構弓剣をサラの目線から外した。


「あっ! ちょっとなにすんの!」


「それはこっちの台詞だ。調べたい気持ちは分かるが、あの《《犬っころ》》どもを片付けるのが先だろ」

 

 自身の研究対象物を取り上げられ逆切れをかますサラに呆れつつ、俺は親指で魔物の群れを指し示した。

 人の歩幅にして百歩程だろうか。そこまで迫った魔物の群れを見ては、あぁ忘れてたとサラは呟く。

 それからスッと何時もの調子に戻すと、魔物の群れに掌を向けた。


「じゃあ速攻で片付けましょ」


 サラは慈悲はないとばかりに冷然れいぜんと言い放つ。

 しかし俺は、それを「待った」と制した。


「今度はなに?」


「おまえ、俺が機構弓剣こいつを出した理由わかってないだろ」 


「私に研究させてくれるためでしょ?」


 冗談で言ってるのか、こいつ? いや、本気だな。


「ちげぇよ……なんつうか、まだ機構弓剣こいつの扱いに慣れてねぇんだ。丁度いい機会だから、あの犬っころどもには練習相手になってもらうつもりだったんだよ」


「うわぁ、やっぱり考えることが野蛮人ね。あんた」


 サラはそう言って、俺から一歩距離をとった。


「速攻で片付けるって言って、なんの躊躇もなく魔法をぶっ放そうとした奴の言葉じゃねぇな」


「私は研究のためだもの、仕方ないじゃない」


 何が仕方ないだ。お前の研究も俺と同じで利己な理由だろうが――そう言おうとしたが。


「なんでもいいから、早くあの魔物共をなんとかしてくれぇえ!」


 と、必死な形相でおっちゃんに叫ばれてしまった。

 俺とサラは思わず顔を見合わせる。さっさとして、とサラは目を細めると後ろに下がった。

 対して俺はやれやれと一つため息をつき、魔物の群れに向き直る。

 気付けば、だいぶ距離を詰められていた。……流石に茶番が過ぎたと、少しだけ俺は反省する。


 そうして真面目にやるかと気持ちを正し、革鞘の下に付いている筒の蓋を親指で弾いた。

 ポンッと音が鳴り蓋が開く。俺はそこから矢を一本引き抜き、慣れた手つきで弓につがえた。

 弦をゆっくり引き絞り、先頭を走る魔物に狙いを定める。

 二本の剣身が軋み、弦の張力がいっぱいになったところで――。

 ここだ。と、矢を摘まんだ指を解き放った。


 ――ピュインッ!

 

 弦がくうを切り、音を鳴らす。

 矢は軌道から逸れることなく、只々(ただただ)真っ直ぐに飛び、放ってから僅か――見事、狙いをつけた魔物の脳天をその矢がぶち抜いた。

 脳天を打たれた魔物は、キャンッと犬らしい声をあげ、矢の力に押されるように後方に転がる。その際、他のお仲間も巻き込んで行ってくれた上、警戒した魔物の群れが馬車との距離を少し離していった。

 上出来すぎる結果だ。


「あんた弓の腕も立つのね、やるじゃない」


 パチパチと拍手をしながら、しかし無感動にサラが言う。


「まぁな。剣と同様に弓の修行も長年欠かさずやってきたからな、これぐらいは朝飯前ってやつだ」


 にもかかわらず俺は得意げにそう言った。

 正直、自分で言うのもなんだが弓の才能はあるほうだとは思う。

 弓の修行自体は山に篭らされてからで、騎士学校に入る以前から稽古をしてきた剣よりかはその年数が短い。しかし初めから俺は的を射抜けたし、数日と経たないうちには動いてる獲物を仕留めることも出来ていた。


 師匠(ジジイ)にも――お前は剣よりか弓の才能に秀でているな。才能があるなら伸ばせ、無駄にするものじゃねぇ。そして剣と弓、二つの技能を極めてみせろ。そうすりゃあ、お前の言う復讐とやらもなせるかもしれんな?


 と、弓に関しては褒められることが多かった。むしろそれ以外は酷い言われようだったが。


「で、あと何回それを繰り返すの? そんな一発一発当てたところであの数をどうにか出来るようには思えないのだけど」


 木箱に腰掛け足を組みながら、つまらなさそうにサラが言ってきた。

 そんな事はわかってる。そもそも俺は、あの数を射抜けるだけの矢を持ち合わせていない。


「じゃあ、一発で纏めて仕留めりゃあいいんだろ?」


 俺はニヤリと笑って見せた。

 そして矢筒からまた一本矢を引き抜き、それをつがえる。

 さぁて、上手く発現するかな? 口にすることなく呟くと、俺は魔力を練り上げた。

 意識を手先に集中させ、矢と弓にそれを流し込んでいく。


 後ろで「……魔法?」と、サラが呟いた。

 そう、魔法だ。だけど、俺が今から発現しようとする魔法は普通とはちょっと違う。それは予め定められた呪文の〝詠唱〟を必要とする魔法。一般的に詠唱魔法と呼ばれる、扱いは難しいが極めて威力のある魔法だ。

 そして、俺はその詠唱を始める。


「地上を統べし(あまね)く風よ (めぐ)(めぐ)りて我が矢に(まと)え 放つは疾風(しっぷう) 穿つは仇敵(きゅうてき) 拡散(かくさん)せよ――」


 翠色の魔法陣が矢先に展開した。


「――風精の輪舞曲(ラ・シルフィス)


 詠唱を終えると同時に矢を放つ。

 放った矢は展開した魔法陣に当たると同時に弾け、翡翠ひすいに輝く十二本の光となって拡散する。

 拡散した光が魔物の群れに降り注ぐと、その光はまるで意思を持っているかのように縦横無尽に飛び巡り、一匹、また一匹と幾重にもその身を貫いていった。

 魔物の断末魔がそこかしらで鳴り響く。

 その声は光の矢が輝きを失い霧散するまで続いた。

 程なくして魔法が完全に消えれば、後に残った魔物の群れは六割ほど。

 つまり、半分ほど屠れたということだ。


お読みいただきありがとうございます。

次回も戦闘回です。今度はサラの詠唱魔法が見れます。お楽しみ下さい。

次回の投稿も20時以降です。よろしくお願いいたしますm(__)m

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