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デクステラ大陸物語—機構弓剣使いと精霊追いの魔導士  作者: 猫ろがる
第一章 行き倒れの天才魔導士
7/21

06


 目を閉じ、深呼吸を一つ。

 夜更け独特の空気の香りが鼻を抜けてく。

 それは土草や水蒸気などの大地が放つ新鮮な香りだ。


 その中、俺は目を見開き剣を構えた。

 目の前には誰もいない。

 しかしうすぼんやりと、揺れるように人の輪郭がそこにはある。

 それは俺の想像した存在。現実には存在しない、俺にしか見えない存在。

 ようはただの幻。いると仮定した俺の剣術の修行相手だ。


 そして、仮定した修行相手は正に俺自身。

 姿形は勿論。手にする剣もまた同じで、一段と目を引くそれは自身でも異質だと感じるほど独特の構造と形状をしている。

 どう独特かと言えば――こいつにはまず湾曲した二つの剣身がある。一方は白銀の片刃で、もう一方は先端だけが刃になっている溝の掘られた黒銀の剣身。白銀の先端はこの黒銀の剣身に掘られた溝に納まっており、全体的に見れば一本の片刃の剣としての機能を果たしている。

 握り手付近もまた特徴的で――黒銀の剣身と一体である柄には、また溝の掘られた半円の飾りが付いており、白銀の刃の付け根はこの半円に埋まっていた。


「ほんと、こんな剣は大陸中探してもコレ一本だろうな」


 あきらかに剣の構造の常識を超越している。と、俺は自身の剣を稀有に眺めては感嘆した。


 それから俺は、再び意識を集中させ剣を構える。

 自身に課した今日の修練内容は、戦闘での立ち回り方に命取りとなる癖や隙がないかの確認。

 俺はそれを念頭に置くと、俺自身を斬り伏せるため平原を駆け抜けた。






 ***



 つぅっと、冷えた汗が額から顎先へと流れる。


「――今日はこれぐらいにしとくか」


 俺は一人呟くと汗を拭い、剣を革鞘に納めた。

 同時に想像の俺も闇夜に消える。

 辺りはまだ暗いが、あと数時間もすれば夜明けが来るだろうな。

 ふと、そんな事を思いながら俺は、温まった身体が汗で冷えないようにと焚き火の方へと足を向けた。

 ところで――。


「案外、真面目なのねアンタ」


 あいつの声が聞こえた。

 声のする方へと振り向けば、馬を撫でるサラの姿があった。


「なんだ、起きてたのか?」


「起こされたの。ビュンビュン、風切り音がうるさくてね」


 嫌味ったらしくそう言っては、大きく欠伸をするサラ。

 撫でられている二頭の馬も呼応するようにヒヒィンと嘶く。


「この子達も同じみたい」


 それでフフッとサラは笑うが、俺は内心苦笑いだ。


「まぁ、許せ。俺の日課なんだよ、剣の修業は」


「でしょうね。あまり剣術に詳しくはないけど遠目で見ててもあんたの技量の凄さはよく分かったもの。見てて面白かったわ」


 見られてたのか。

 そしてなんだ、このむず痒さは。まさか俺はこいつに褒められて照れてるのか? いやいやまさか。……だが、まぁ。


「そう言われて悪い気はしないな」


 こいつに照れてるとは思われたくないので、俺は後ろ髪を掻いては肩を竦め、極めて平常な顔を取り繕った。

 これなら悟られないだろう。


「え? なに? もしかして照れてるの?」


 ――なぜバレた。


「照れてねぇよ。てか、まだ夜明けには早いし寝とけ。起こしてやるから」


 俺は慌てて振り返っては背中を見せ、あえて気を遣った台詞を吐いた。


「気が利くじゃない? でも、いいの。もう目は覚めちゃったし、このまま起きてる」


 サラのその言葉に俺は、気遣いを無下にしやがってと思いながら向き直った。

 すると丁度、夜風で揺れる前髪をかき上げながら微笑むサラの姿が俺の目に飛び込んだ。

 星に照らされたサラの笑顔とその仕草は絵になるぐらい可憐で、思わず心が奪われそうになる。

 そんな俺に「どうしたの?」と不思議そうに訊いてくるあたり、俺がこいつに少しでも見惚れてしまっていたことはばれてないらしい。よかった。


「いや、何でもねぇよ。そろそろ身体が冷えてきたし、あっち行くわ」


 適当な返答をして踵を返すと、俺は足早に焚き火の方へと向かった。

 俺が女に慣れてないのもあるが、性格はどうであれ、見た目が良い女ってのは仕草で男を〝その気〟にさせる。女にその気がなくてもだ。俺は絶対に見た目に騙されない。

 と頑なにそう考えながら腰を下ろそうとした。

 

 だが、俺はそこで止まる――。


 気配を感じた。

 何かが近づいてくる気配。

 なんだ? と、俺は五感を研ぎ澄ませ気配を探る。

 それは後ろ――俺達が馬車で通ってきた方から感じ取れた。

 すぐに視線をその方へと移す。遥か先は闇夜。普通の人なら何も見えないはずだ。

 しかし――夜目のきく俺には、闇夜に紛れ近づいてくる何かを見ることができた。

 そしてその何かは一つ――と言うよりも一匹だけではなかった。

 パッと見たところ百は超えている。


「おいおい、マジかよ」


 冗談かと無意識に笑った。

 視線の先の何か――それは朝方、おっちゃんを襲っていた魔物。つまりイデアルタウルフの群れだ。

 それが物凄い勢いで此方に向かってきている。

 まだ、サラもそのことに気づいていない。おっちゃんも寝たままだ。

 

「サラ、魔物だ! おっちゃんも起きろ!」


 考える必要なく俺は叫んだ。

 その声でおっちゃんは飛び起き、サラもそこで事態に気付く。


「ま、魔物! ど、どこだ⁉ どこにいる⁉」


「落ち着けおっちゃん。とりあえず、まだだいぶ後ろだ。今のうちに馬車でここから離れるぞ」


 突然のことで慌てふためくおっちゃんを宥め、俺は焚き火を消した。

 サラはいたって冷静で、魔物の気配を感じ取りそわそわしている馬達を落ち着かせている。

 場慣れしているな。とサラの行動を見てどうでもいいことを浮かべるが、本当に今はどうでもいいことなので、さっさとおっちゃんを御者台に乗っけては俺も荷台へと乗り込んだ。

 最後にサラが乗り込んだところで俺達は、まだ夜明けも来ていない平原に馬車を走らせた。


お読みいただきありがとうございます。

次回は戦闘回です。主人公の剣の別の一面(タイトルで分かると思いますが)や魔法が出てきます。お楽しみください。

投稿時間は20時以降です。よろしくお願いいたしますm(__)m

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